第九話 忘れない
その後、六人の家族は駅前の小洒落たレストランで、団らんの会食となった。
稲瀬みのりはそこで、今までの全ての秘密を打ち明けた。
実は片親だったこと。最低だと言ってた先輩が、再婚で兄となったこと。それを秘密にしてて、ずっと心が痛かったこと。
まさか、タマちゃんにまで、オレが悪く言われていたとは思わなかった。引っ越しの手伝いで悪印象を与えてしまったのは、ずっと尾を引いていたのだろう。
タマちゃんも自分の秘密を打ち明けた。
母親が実家に帰るのと、父親があまり家に居ないのを良い事に、一人暮らしを始めたと嘘をついていたのだった。
道理で独りで起きれないから、稲瀬みのりに起こしに行かせるわけだ。思ったよりこの従妹は、図太い神経の持ち主かもしれない。
確かに多摩雄さんの家は2DKで、独り暮らしと言っても違和感は無いだろう。だけど、大胆すぎるとオレは笑った。
「そんなに俺の存在を消したかったのか……」と多摩雄さんが少しショックを受けてたので、タマちゃんは即座にフォローする。お父さんのことは大好きだけど、当直が多いから寂しかったという。成程、悪いのは多摩雄さんだ。
これを機に、部の仲間にだけは秘密を打ち明ける。そう言いだした稲瀬みのりを、オレは全力で止めた。
ゲイザーやジャッカスに知られる分には構わないが、先輩に知られたらどう思われるか分かったもんじゃない。
「なんで?」と聞かれたが、正直に答える訳にはいかない。ここは適当に言い訳を試みる。
「……家に、お前みたいな可愛い義妹が居たら、ゲイザーやジャッカスが押しかけてくるだろう」
可愛いとか聞きなれていないのか、稲瀬みのりは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「……タマキも気をつけて」
「……え?」
稲瀬みのりがボソリと呟くと、急に振られたタマちゃんは首を傾げる。
「ミナユキさんは女の子の扱い、慣れてるみたいだから」
「人聞きの悪い事を言うんじゃねえよ」
オレがそう言うと、ドッと食卓に笑顔の花が咲いた。
新しい家族が出来て、今までのオレの日常は、大きく変わった。
東から西に目掛ける光のように駆け抜ける毎日が、稲瀬みのりとタマちゃんのお陰で楽しくなっていくように思えた。
毎日、変化があって、刺激がだらけの生活が、これから始まるような気がしてきた。
昨日までの自分に言伝が出来るのなら、十六歳にお前の人生は今以上に楽しくなると言ってやりたい。
安寧なんて期待すると、楽しいことを見逃してしまうぞ。これ以上オレの私生活や、家族環境に変化が起こる。人は変化する生き物とはいえ、色々変化すればするだけ、笑顔の数も増えるかもしれない。
オレは十六歳の五月を。
秘密によって、成り立った関係も。
打ち明けることで、家族になれたことも。
出来た後輩が、二人も妹になれた日も。
オレは一生、忘れない。
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