第八話 三人のスタート
二分も経っていないけど、沈黙が長く感じられる。まるで一時間も二時間も、こうしているように思えるくらいだった。
すると二人が同時に、取っていたオレの手を握り返してきた。勢い任せだったため、ずっと二人の手を掴んでいたのだった。
顔を上げて見回してみると、両側の女の子はかーさんに向かって深く頭を下げていた。
「ユキさん」と静かに稲瀬みのりが話し始めた。
「あたしは自分を見る目が変わってしまうのを恐れて、親友に隠し事をしていました。ミナユキさんにまで秘密を強要したことを、お許しください」
「おばさん」とタマちゃんが言った。
「わたしも変に思われたくなくて、……その、親友にお父さんの家に戻ったって、言えませんでした。……ミナユキさんを驚かせて、すいませんでした」
二人の行動にもビックリしたが、タマちゃんが稲瀬みのりに秘密を持っていた事にも驚いた。確かに多摩雄さんの家に住んでいると義妹が知っていれば、親父と友達で親戚だと分かったかもしれない。
二人の妹が秘密を打ち明けたんだ。オレもここで黙っているわけにはいかない。
「かーさん!」と言って、オレは再び頭を下げる。
「オレも二人に、昔ワルやってたの隠してたんだ! ……その、幻滅されたく、なくて。嘘つきの息子でごめん!」
流石に雨梨先輩のことは言えなかった。だって、それは秘密というよりも、プライバシーに近いものだから。
「ちなみにあたし、それ感づいてました」と顔を上げた稲瀬みのりが言った。
「はい。みのりちゃんが、そうなんじゃないかって……」とタマちゃんも顔を上げて言った。
「ええええ……」とオレは言うしかなかった。力が抜けて、その場で膝をついてしまう。
「というか、ジャッカス先輩も、そうですよね?」
稲瀬みのりが言うと、タマちゃんも頷く。おいジャッカス、次は貴様の番だぞ。覚悟しろ、と思った。
今気づいたが、稲瀬みのりもタマちゃんもジャッカス先輩って言っているのか。ということは二人とも、あいつの本名を知らんのだろう。二人の勉強を邪魔したバツだ。ザマミロ。
すると背中の先から、パチパチと手を叩く音が聞こえた。
オレと妹二人が振り返ってみると、大人三人が揃ってオレらに拍手を向けていた。
親父も詩織さんも多摩雄さんも、みんな笑顔でオレらを見守っていてくれたんだ。学芸会の発表をしたような気分になり、なんだか照れ臭くなってしまった。詩織さんなんか、目じりに涙を浮かべる程だった。
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