出来た義妹は部活の後輩だった。

直行

――序幕 月に叢雲


 柔らかい微笑みを目にすると、月明かりに照らされているように思えたから、満月のような人だと思った。


 星に興味の無い吾輩が天文部に入った理由は、友達になりてえと思ったヤツが星を見る奴だったからだ。


 スターゲイザーと呼んでくれたまえという自己紹介だったので、奴のあだ名をゲイザーにした。最初こそ嫌がられたものの、観測者的な意味だと知ったコイツは一週間後には普通に受け入れていた。


 我が校は必ずしも生徒は部活に所属というわけではなかったが、あまり家に居たくなかったオレにとって天文部は都合が良かった。星を見る部活ならば、夜に集まることも多いだろう。最初の動機はそんな単純なものだった。


 満月のような女性は一つ上の先輩で、当時はたった一人の天文部の部員だった。先輩とゲイザーが従姉弟同士ということもあり、入学前から天文部に誘っていたという。


 我が高校の部活は最低でも部員が三人は必要なので、オレの登場は先輩にとって嬉しい誤算だったようだ。部室に入った瞬間に満面の笑顔で迎えるものだから、その日のうちに入部届けを提出してしまったのは止む無し。


 それから馬鹿二人と先輩は、まさしく青春とも言えるような一年を過ごした。


 月に一度の観測会は、顧問が許可したから夜まで学校に残れたし。夏休みには、顧問が許可しなそうだったから秘密で合宿もした。


 文化祭では部室をプラネタリウムにするという無茶な企画を出して、オレとゲイザーを遅くまで引っ張りまわした。二学期の終わりには、部室でクリスマス会。


 冬休みは三人で初詣にも行った。四回行ったが、二回目以降は初詣じゃないかもしれない。兎にも角にも、高校に入ってからはずっと三人で思い出を作ってきた。


 オレとゲイザーが二年、先輩が三年になった春。天文部にはクソ可愛い新入部員を二名を迎えるのに見事に成功した。


 可愛い二人の女の子は去年の文化祭の展示に感銘を受けて、受験ないし入部のきっかけになったのだという。自分たちの力で部員を増やせたのもそうだけど、何よりも先輩の力になれたのが一番の喜びだった。


 新入部員はどちらも可愛いんだが、対照的な二人だと思った。


 稲瀬実梨は利発な女の子で、星座の知識はオレの四十二一九五倍はある。よく出来た後輩だけど、背も胸も小さくて華奢で生意気な奴というのが我が第一印象だ。


 その一方、南珠希ちゃんは大人しい女の子だった。男が苦手なのだろう、入部から一度もオレと目を合わせてくれない。星座の知識もオレなりなので、きっと稲瀬実梨に誘われたのだろう。


 そんな可愛い彼女たちは、入部して一週間は経過してないが。これで先輩が卒業しても、廃部は免れる。


 そこまで考えてオレは首を左右に振った。先輩が卒業した後の我が部を考えるのではなく、これから一年の楽しみを考えよう。部員も五人になったし、きっと四十二一九五倍は楽しくなるに違いない。


 しかし、家に帰ったオレを待ち受けていたのは、一年生の入部より四十二一九五倍は衝撃的な出来事だった。

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