第428話 世界は「ある」ことが前提になっている?

 「ある」の反対は「ない」だが、前者は動詞で、後者は形容詞である。


 動詞とは、その名の通り、ものの運動を表す品詞である。運動というのは広義の意味での運動で、単純な動きだけでなく、変化や状態を表すこともある。「走る」というのは単純な動きだが、「ある」というのは状態と言った方が正しい。けれど、「ある」というのは「今はある」という意味だから、広い目で見れば、それも一つの運動であることが分かる。


 一方で、形容詞は、ものの様子を表す品詞である。所謂学校文法では、形容詞と形容動詞を分けるが、言語学では分けないらしい。「格好良い」や「綺麗な」は形容詞であり、後ろに続く名詞(もしくは名詞相当のもの)を修飾する。「ない」もこちらに含まれる。


 「ある」と「ない」はそれぞれ異なる品詞なのだが、なぜか相対するものとして捉えられている。熟語でも「有無」というし、「あるなし」のように並べて使われることも少なくない。


 「ある」が動詞なのに、「ない」が形容詞というのは、この世界では、ものがあることが前提になっていることの証拠ではないだろうか。つまり、ものは最初から「ある」のであり、一時的に「ない」状態になることはあっても、完全に消えてなくなることはない。簡単な例でいうと、質量保存の法則がこれに近いかもしれない。

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