第316話 「分からない」だけでもコミュニケーション

 「君の言っていることが分からないよ」と発言することは、コミュニケーションの一つである。


 人間は天涯孤独だと言われる。それは、どれほど頑張っても、他者の心の内を理解することはできないからである。たとえば、「君のことが好きだ」と言われても、相手が本当にそう思っているのかは分からないし、疑おうと思えばどこまでも疑うことができてしまう。そういう意味で、人間は生まれてから死ぬまで、ずっと孤独なのである。


 しかしながら、本当のことが分からなくても、コミュニケーションをとることはできるし、実際に、現実では多くの(おそらく、すべての)人が他者とコミュニケーションをとっている。これができるのは、相手の言っていることが本当かどうか分からなくても、自分の側でそれを信じることができるからである。


 相手の言っていることが分からないときに、「分からない」と言うことは、自分が分からないことを相手に分からせようとしているということである。〈分からないこと〉が伝達の内容だから、〈分からないこと〉が伝達に失敗しない限り、コミュニケーションは成立しているといえる。

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