第39話 理想と事実

 人間は、こうだったら良いな、という理想を事実だと思い込む傾向がある。


 たとえば、テストが終わって満点の自信があったのに、あとになって自分がどこかで間違えていることに気づいたとき、色々と解釈の余地を考えて、合っていると判断される可能性もなくはない、と思い込もうとする。そういう可能性もなくはないだろうが、正常な思考をすれば、そんなことはないだろうと分かるはずなのに、ついつい満点をとるという理想をまるで事実のように扱ってしまう。この場合、テストが返ってくるまでは理想の時間を過ごすことができるかもしれないが、返ってきたら事実を突きつけられるだけだから、あまり良いとはいえない。それ以上に、危険だと言っても良いくらいである。


 理想と事実の認識を混同すると、次の行動に適切に移行できなくなる。今のその行動に執着しているのだから、次の行動に進めなくて当然である。反対に言えば、今のその行動にそこまで執着する価値が認められるのなら、そのような認識をしても構わないが、そういった場合はほとんどありえない。ほとんどの人間は明日も自分が生きていると信じているわけだから、今のその行動に執着しすぎるとあとで痛い目に遭う。


 そうはいっても、事実を事実として認めるのはかなり難しい。

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