前世がカマキリの僕の切ない恋の話
大蒜檸檬
第1話前世がカマキリの僕の切ない恋の話
僕の前世は、カマキリだった。
そう。昆虫のカマキリだ。
よく転生したら人外だったパターンのラノベをよく見るが、僕は逆のパターン。
転生したら、人でした。
僕のカマキリ人生は、意外と人間と何ら遜色ない人生だった。
ある日俺は、とあるカマキリの卵から、183生児として生まれた僕は、母からとても愛でられて育ってきた。
母のよく捕まえてくるものはコオロギで、僕の好きな食べ物もコオロギだった。
僕らはとても幸せに暮らしていた。
だけど、その幸せも終わりを告げた。
母が人間の子供に捕まってしまったのだ。
僕のせいで。
母は人間の高い体温と力にに苦しみながらも僕を葉っぱで隠した。
生きて。
母の最後の言葉は、僕の心に入り込んだままだ。
母の葬儀が終わっても、僕の心にはぽっかり穴が空いたようだった。
しばらく僕は引きこもった。
だけどそんな時、僕を薄暗い穴から出してくれたのは、幼なじみの雌カマキリだった。
その子の親は生まれた時からおらず、一時期僕と母と一緒に暮らしていたが、大きくなって自分で食料は取れるからと、1人で暮らしていた。
その子の眼を見た時、僕の眼には涙が自然と出てきた。
僕のぽっかり空いた穴は、雌カマキリによって綺麗に塞がれた。
その時から僕は、恋に落ちた。
すぐに僕は野生の本能にしたがって、結婚を前提に付き合いを申し上げた。
彼女は満面の笑みでOKしてくれた。
しばらく清く正しい交際が続き、僕は付き合いながら大きなコオロギを探していた。
結婚コオロギを渡してプロポーズするためだ。
必死に探した。草むらを飛び回って探した。
そしてついに見つけた。
キングオブコオロギを。
僕はそいつを狩って彼女にプロポーズした。
好きです。僕と結婚してください。
彼女はまた、満面の笑みでOKしてくれた。
いや、彼女の眼にはうっすら涙が溜まっていた。
初めての夜。彼女と僕は朝まで愛し合った。
そして二日後、彼女の様子が変だった。
妊娠したらしい。
僕は諸手を挙げて喜んだが、彼女は顔を顰めていた。
このままじゃ産めない。
彼女はそう言った。
なんでもエネルギーが足りないらしい。
僕は急いでコオロギをかき集めた。
だがまだ足りない。
何度も何度もかき集めて、やっと彼女が落ち着いた。
「ありがとう。これで元気な子を埋めるわ!」
その言葉を聞いて、僕は安堵しながらも飛び跳ねて喜んだ。
自分の子が生まれる。
母がしてくれたように、僕も心から深く愛したい。
「良かった!生まれる子の名前は何にしようか?僕はやっぱり
「ありがとう本当に。これで産めるもの、あなたも本望よね。
」」
自分の子が生まれる。そんな期待を膨らまして、幸せを噛み締めるまもなく、俺は。
彼女に捕食された。
気がついたら、僕は息ができない体になっていた。
体もぬちょぬちょ、喉の水を出そうと俺は咳き込んだが、代わりにおぎゃああ!と叫んでしまっていた。
俺は。人間に転生した。
「鎌田さん!お昼どうですか!?」
明るい声が、社内に響く。
「すみません。今日も用事があって....」
「いつもそうじゃないですか!1年経ってるのにずっとじゃないですか!本当に用事なんですか?」
「ええ、すみません急いでいるもので。」
「ああ!もう!次こそは行きましょうね!」
「誘ってくれてありがとうございます。」
誘って貰えるのはありがたいのだが、あまりお昼は一緒になりたくない。
食べてる女性の顔を見ると、彼女を思い出すからだ。
俺は少し早足で歩く。
ちんたらしてれば昼休みが終わってしまうからだ。
向かっているのは、自分のアパート。
自分の数少ない安心出来るところである。
自分の部屋につくと、俺は早速ベッドに座り、おにぎりを食べる。
たったこれだけの為に俺は1回家に帰る。
職場に戻って自分のディスクを確認すると、やはりいつも通りお菓子とコーヒー、それとメッセージ付箋が置いてあった。
いつも鯉口さんが入れてくれる。
ちなみに鯉口さんは先程俺をお昼に誘ってくれた女性だ。
俺はありがたくクッキーを頂いたあと、(無理しないでね?体は大切に!)と丸っこい文字と可愛いうさぎのイラストの書かれた付箋を大事に引き出しに入れた。
そして先程コンビニで買った飴ちゃんを1個出し、そこに(大丈夫です。お菓子とコーヒーいつもありがとうございます。)と書いたくまの付箋を貼って恋口さんのディスクに置いた。
部長のところから帰ってきた鯉口さんは、いつも通り置いてある飴ちゃんと付箋を見るとニコニコする。
社内ではこの笑顔がとても愛らしいと評判が良い。
俺はこの笑顔を見ると、心が温まると同時に、罪悪感を感じる。
僕は女性恐怖症だ。
前世で雌カマキリに裏切られ、食べられて死んだ。
そのせいで女性が心から信用出来なくなってしまった。
心温まるのだから大丈夫だろう。
そう言う人もいるかもしれない。
だけど、恐怖症は、抗えないから恐怖症なのだ。
普通の人のドキドキは、俺にとっては恐怖だ。
普通の人のトキメキは、僕にとっての寒気だ。
それゆえ、僕は女性を愛せない。
だから、彼女の優しさにも上手く答えられない。
そう考えると僕はいつも申し訳ない。
いつも通りの仕事が終わると、鯉口さんが話しかけてきた。
「鎌田さん。鎌田さん。この後予定ありますか?」
いつものご飯のお約束だろうか。
申し訳ないなあ。
「すいません。夜にも用事が。」
そういうと思っていたのか、鯉口さんは意を決したようにさらに言葉を重ねた。
「鎌田さんって!彼女いるんですか!?」
「ふぇ?いませんよ?」
「じゃあいつも断るのはなんでですか!?」
「それは用事が....」
「私の事が嫌いで断ってるならはっきり言ってください!」
鯉口さんの声はオフィス全体に響くくらいに大きくなり始めていて、会社の人達もなんだなんだと集まって来てしまった。
人に注目されるのが苦手な俺は鯉口さんの手を掴んで、とりあえず会社から引っ張り出した。
「申し訳ございませんでした。人前であんな事を大きな声で言ってしまって。迷惑でしたね。本当にすいません。」
「いえいえ気にしないでください!僕が悪いんです。いつも誘ってくれるのに断ってしまっていたから。別に鯉口さんの事が嫌いな訳では無いんです。」
「ではなんで用事なんて嘘つくんですか?私今日はおかしいと思ってついて行ったんですよ。」
まさかの尾行をしてるとは、やはり女性って怖い。
「そしたら古そうなアパート入っていったじゃないですか!あれ、彼女の家じゃないんですか!?」
どうしよう。ここで俺の家と言ったら住所がバレてしまう。
だけど彼女がいると言っても嘘は絶対バレる。
嘘がバレたらこの人をまた傷つけてしまう。
そう考えながらふと鯉口さんを見ると、泣いていた。
号泣だった。
俺は慌てて駆け寄って鯉口さんをなだめた。
「すみません。私が悪いのに鎌田さんを困らせてしまって。嫌いならはっきり言ってください。そしたら諦めがつきます。」
彼女は悩んでいた。
僕に嫌われているのではないかと、そう考えて。
俺は何をやっているんだ。いくら女性が怖くったって、泣かせてはいけないだろう。
俺はポケットからハンカチを出して鯉口さんの涙を拭いた。
「すみません。僕が不甲斐ないばっかりに。あのアパートは僕の家です。僕は女性が苦手で、いつも貴女の誘いを断ってしまった。申し訳ございません。決して貴女が嫌いだからという理由ではないのです。だから泣かないでください。」
そう言うと鯉口さんは俺を見て、さらに泣き始めてしまった。
でも、表情は不安から安堵に変わっていた。
女性恐怖症のことを母以外の女性に話したのは、この時が初めてだった。
前世がカマキリの僕の切ない恋の話 大蒜檸檬 @hagane56
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