第12話竜殺し、国盗りを命じられる
「…………」
瓦礫を椅子にしてシグルドは休憩をしていた。
自らにルーンを刻んだことによって自分自身が術式の一部になる馬鹿げたことをやったシグルドの体には凍傷や打撲痕が残っている。
依頼を達成したことを依頼人に話したいが、結局巨人が出現するまでに依頼人は現れなかった。ここで待っていれば現れるのか疑問だが、場所も分からないため、ここで待つしかない。
東の山から顔を出し始めた太陽が顔を照らす。どうやら自分達は一晩中戦っていたらしい。
太陽の眩しさに目を細めていると、こちらに走ってくる人の気配を感じる。十中八九あの少女だろう。
霜の巨人を討伐できたのは殆ど彼女による所が大きい。侮ったことも謝罪しなければと思い、出迎えるために腰を上げると同時に少女が瓦礫の山の向こうから顔を出す。
「おいっ!手が空いているなら私を助けろ」
いつも通りの少女に笑みが出てくる。投げ飛ばされてどうなったか分からなかったが、あの声を聞く限りどうやら無事のようだ。
無事ならば、自分で解決してくれとは言わないし、顔にも出さない。何故ならこの短い付き合いでそういったものも少しでも出せば確実に面倒くさくなると分かったからだ。
小さな背丈で背伸びをして何とか登ろうとする少女の手を取り引っ張り上げる。引っ張り上げる際も何やら不満げな顔をしていたが、もうシグルドは気にしなかった。
「さて、と……お疲れ様って言った方が良いか?」
「ダメだ、それでは足りん。もっと私を褒めろ」
「はいはい、よしよし」
「不敬ェッ!!」
褒めろと言われて頭を撫でようとしたら蹴られました。
少女も体力の限界だったのだろう、特に威力はなかった。むしろ蹴った側の少女の方が足を押さえている。ざまあみろとは思ってない。………………ホントだよ?
「(ため息が出そうになるのを飲み込んで)おい、大丈夫か?」
「ぐぅぅぅ……畜生」
少女が脛を押さえながら立ち上がり、ベオークのルーンを刻む。すると痛みが治まったのか、こちらをフード越しだが睨んできた。
「おいおい、蹴ってきたのはそっちだぞ」
両手を小さく挙げて講義する。
少女も流石に自分で蹴っておいて負傷したのが恥ずかしかったのか何も言い返さなかった。
「取りあえず、座れよ。疲れただろ?」
「確かに疲労はあるが、その前に私は腹が減った」
瓦礫の上を指差しながら、先程まで座っていた場所に戻る。動けないことはないが、しばらくはじっとしていたい。
それを示すかのように少女のお腹から可愛らしい音が鳴る。それを聞いたシグルドは思わず吹き出し、少女が真っ赤になってシグルドに詰め寄った。
「おおお、おま、お前っ……これは、違くてっ」
「ククっ――ハハハッ……別に否定しなくて良いだろ?腹が減ったってさっき言っていたじゃないか」
「これとそれとは別なんだよっ」
少女がシグルドに詰め寄って肩を掴み、グラグラと前後に揺らす。それに抵抗せずに頭を揺らされるシグルドだがしばらくするとホントに気持ち悪くなってきたので少女を引きはがした。
「ほらっ……商人の屋台か何かあっただろう。そこで何か食べられるものを探してくレバ良い」
戦いによって倒壊しているだろうが、探せば食べられるものぐらいはあるだろう。そう思って少女の背中を押す。
「何だ、お前ここにいるつもりなのか?」
少女があり得ないという顔をする。当然だろう、周りにはまだ魔術による熱が冷めておらず、巨人の死体もある。そこで食事となれば嫌な顔をしないほうがおかしい。
それでもシグルドは戻ってくる気だった。なんせこんなここには巨人の死体があるのだ。ここに人が来るならば、必ず見に来るだろう。それは依頼人も同じはずだ。手柄などに執着する気はないが、報酬は欲しい。激戦で忘れていたが、自分は今金欠なのだ。
「ここで依頼人が来るかを待つから行ってくれば良い。何かあれば呼んでくれ」
ああそういうことか……と少女が納得した顔をする。
「依頼人ならここにいるぞ」
「は?」
軽い口調で発せられた言葉にシグルドは一瞬意味が分からなかった。周りを見ても、人影は確認できず、気配もない。
そして、少女が自分を指差しているのを見てさらに困惑する。
「おいおいおいおい、待て待て待て待て……………………………………依頼人?」
「依頼人だ」
シグルドの言葉を少女が反復する。
それを見てもいやいやいやと顔を横に振る。依頼人が自分で出した依頼に出るなど聞いたことがない。それもこんな小さな少女が、だ。
他にも質問したいことがシグルドの頭の中に次々とわき出てくるが、そんなシグルドを無視して少女は話を続ける。
「まぁ、そうだな。依頼人なら顔ぐらいは見せておくさ」
怪しむような視線を受けた少女が初めて自分からフードを脱ぐ。馬小屋で見た時と同じ透き通るような白い髪が揺れた。
鮮やかなオールブルーの目に整った顔立ち。今はまだ少女だが、その顔立ちからは必ず美女へと変貌するであろうことは想像に難しくない。
「ミーシャ・フィリム・オーディスと申します。どうぞ宜しくお願い致します、竜殺し殿?」
淑女のように華麗に一礼をした少女。その動作は見る者が見れば、少しのミスを許されることがないように磨かれているのが分かる。
丁寧な言葉使いはその一瞬で終わり、シグルドを指差して命令する。
「貴方……私と一緒に国盗りをして貰おうか」
そんな命令に対して、シグルドは頭に出てきたことばを素直に、そのまま口にした。
「いや、何でだよ」
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