第129話『福引・2』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
129『福引・2』
校門を出て、ちょっと歩いて左に曲がると商店街だ。
谷町筋に向かって上り坂になっていて、そこを高校生らしく駆け足で上がっていく。
中学では野球部に居たのは知ってるよな。
いちおうピッチャーだったんだけど、攻守換わってマウンドに上がる時は駆けていく。ベンチからの短い距離を歩こうが走ろうが大して変わりはないんだけど、ノタクラしていては勝てる気がしない。
監督は嫌いだったけど『試合中は走れ!』というコンセプトは正しいと思う。
レトロな商店街のテーマ曲が流れ、そこを曲がったら『ふれあい広場』という角に福引のコーナーがある。まずまずの人気で、すでに五人のオッチャンやオバチャンが並んでいる。
赤いハッピと鉢巻のオッチャンがニコニコと番をしている……と思ったら先輩でもある薬局のオッチャン。
「お、空堀演劇部、四等はフライドチキンのビッグバレルやで!」
高校生には食い気のフライドチキンが有難いやろという気持ちなんだろうけど、こっちは一等狙いだ。
「一等狙いです!」
高らかに宣言する。
「欲かいたら、早死にするでえ」
「ええがな、志は高い方がええ」
「アメチャンあげよ」
「ありがとう、いただきます」
「惚れ薬入りやでえ」
「え!?」
「てんごいいな(^▽^)/」
先客のオバチャンたちがいじってくる。カラカラと福引のガラガラが回る。次の次がオレの番だ。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ……。
「どんだけ回すねんな」
「いや、念を籠めんとなあ……えい!」
「おめでとう、四等ビッグバレル!」
「え、これが賞品?」
アメチャンのオバチャンが四等を引き当てた。でも、渡されたバレルは空っぽ。
「これ持って、『肉よし』(商店街の精肉屋)に行ったら一杯入れてくれるさかい」
なるほど、食品だから揚げたての新鮮さを大事にしてる……というか、思いっきり地元商店街の商品じゃねえか……五等フライパン……六等食用油……七等ティッシュペーパー……上がって三等は洗剤一年分……二等テーブルゲームセット……そして一等南河内温泉宿泊券……これだ! でも、南河内? なんだかショボイ。
「ショボイ思たらあかんで、近場やけど、一等は三本もあるねんでえ!」
三本!?
福引券は十回分ある。野球だって九回の裏までやらなければ結果は分からない。それが、もう一回多い十回分だ、可能性はあるかもな!
カランカランカラン! 一等賞!
いや、まだ早いって(n*´ω`*n)、まだガラガラ回してねえし。
え? なんということだ、アメチャンくれたオバチャンが当てちまった!
い、いや、まだ二本ある。勝負は勢いだからな! オバチャンにあやかって……エイ!
「七等ティッシュペーパー!」
まあ、一等が出た直後だからな……ガラガラガラ……エイ!
「七等ティッシュペーパー!」
くそ、つぎこそは!
ガラガラガラ……エイ!
「七等ティッシュペーパー!」
く、くそ、もう一回!
こんな調子で九回連続のティッシュペーパーだ。
いよいよ最後の一球。
オレは、福引台の前で、九回の裏同点の試合を思った。攻守どっちだ? ピッチャーでは苦杯をなめ続け、あげくに肩を痛めて引退の憂き目にあったので、バッターのフルスィングのモーションをとってからガラガラに向かった。
期せずして「かっ飛ばせー、かっらほり!」のコールが湧きおこる、オバチャンたち、意外に若い声だ!
ツーストライク、スリーボール! あとはねえ! エーーーーーイ!!
「おめでとう! 二等、テーブルゲームセットオオオオオオオオオオオ!!」
え……二等賞?
しまったあ、オレはピッチャーだったんだから、とことんピッチャーで行くべきだったんだ。ピッチャーが打撃で勝負してどーーする!
それでも地元の商店街だ、オレは薬局のオッチャンから恭しく賞品を授与される。
「おめでとさん、ほら、お仲間も応援に来てくれてたんやし。またがんばろ」
え、お仲間……?
振り返ると、演劇部の三人が残念な笑顔で並んでいた……。
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