第128話『福引・1』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)


128『福引・1』   






 旧校舎の解体がストップしている。




 なんでも非常に珍しい工法で作られていて調査に時間がかかるのと、旧校舎の下に秀吉時代の大坂城の遺構が発見されたためらしい。


 こんなとこに大坂城!?


 いまの大阪城の外堀から二キロ以上離れているが、校名にもある通り、秀吉の時代には総堀と呼ばれた空堀があったのだ。当然空堀に沿って、屋敷や陣地などがあったわけで、場所によっては文化財級の発見になるらしい。


 二階の角部屋に部室が移ったのが文化祭の前、当初はタコ部屋の部室よりも広々したことと、眺めがよくなったことにワクワクしたが、ちょっと冷めてきた。タコ部屋の部室ではミリーが両足首ねん座で半月ほど車いすだった、元々車いすの千歳と二台の車いすになって、そのうえ交換留学生のミッキーまで入部してきたので鬼狭かった。


 ま、その不自由さもあって引っ越しできたわけなんだがな……ちょいとアンニュイだ。


 かさばるミッキーがアメリカに帰っちまって、ミリーも捻挫が直って車いすを止めた。


 思えば、あの不自由さが楽しかったのかもしれない。


 ちょっとお茶を淹れるにしても、ゴミを捨てるにしても、お互いの前や後ろや、時には跨いでいかなければならなかった。車いすの方向転換でスカートが引っかかって千歳の太ももが露わになったり、後通る時に須磨先輩の胸の谷間が覗いたり……あ、いやいや、その、なんだ……お互い肌感覚で……いや、胸襟を開いてというか、ひざを突き合わせてというか、そういう近さで部活やるのがな、いまの高校教育に欠けて……。


「なに、赤い顔してんのよ、啓介」


「ゲ、先輩」


 ヤマシイわけじゃないが、虚を突かれてアタフタする(^_^;)ぜ。松井先輩は、なぜかテーブルの斜め向かいに腰掛ける。揃えた膝の上に鞄載せるし。


「たまたまね、こっちに座ってみたい気分なのよ」


「あ、そすか……あ、なんで、こんなに早いんすか」


「図書室にもタコ部屋にも飽きたしね……ていうか、みんな揃うまでに、これ行ってきて」


 先輩は、やおら制服の胸に手を突っ込んで茶封筒を取り出した。


「な、なんなんですか、それ?」


「まあ、中を見て」


 手に取った茶封筒は、ほのかに熱を帯びていて、なんかやらしい。


「温もりを楽しんでるんじゃないわよ、さっさと中を見る」


「ひゃ、ひゃい!」


 焦りながら中のものを引き出した。それは、五十枚はあろうかと思われる空堀商店街の福引券だ。


「五枚で一回くじが引けるの、十回ひけるから、一等賞を当ててきなさい」


「え、一等賞!?」


「近場だけど、温泉ご優待。四人いけるわ」


「四人?」


「うちのクラブにピッタリでしょ、さ、商店街にひとっ走り!」


「あ、でも当たるかどうか……」


「胸に抱いて願いを込めといたから当たるわ」


 なんか、先輩の目、マヂすぎるんですけど……。


「万一、当たらなかったら」


「その時は、わたしの奴隷になりなさい……わたしが卒業するまでね」


 


 そんなご無体な……。

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