第125話『大お祖母ちゃんの腰を揉む』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
125『大お祖母ちゃんの腰を揉む』
そこが難しんだよ……
「腰のこのへんが?」
美晴は、揉むポイントを少しだけ下にずらした。
「あーーーそこそこ、意外にうまいじゃないの」
「自分が凝るのもこの辺だから……」
風呂上りに大お祖母ちゃんに呼ばれ、かれこれ十分もマッサージしているのだ。
「凝るところがいっしょだなんて、やっぱり遺伝なんだね……」
「あ……うん」
胸にこみ上げたものを静かに呑み込んだ。
大お祖母ちゃんの言葉には裏が無い。美晴のマッサージの上手さが血族であることの証であることにシミジミしているだけなのだが、よけいに大お祖母ちゃんの希望に添えない痛みが胸に走る。でも、口に出して言ってしまえばズルズルになりそうなので、黙々とマッサージを続ける美晴だ。
生徒会の副会長を四期も務めた美晴は、労う気持ちが湧いてくるのだけど、さすがに卒寿の大お祖母ちゃんには言葉が出てこない。そうだね……という相槌だけは出てくるのだが、たった四文字の言葉でさえ口にしてしまえば、一気に気持ちが傾斜してしまいそうなのだ。
「さっきの難しいは、美麗ちゃんのことさね」
「美麗が……?」
「というか、美麗ちゃんを取り巻く身内がさ……中国人が日本の山林や水資源を買いあさるのは、正直たいへんな脅威なんだよ。このまんまにしておくと、山林のおいしいところはみんな中国人に持っていかれる。それを防ぐのが、このお婆の仕事なんだがね。買いにくる中国人は身内のためなんだ……林さんたちは国を信じちゃいないからね、一族身内の未来は自分が保障しなきゃならないと思ってる。林さんたちが邪まな気持ちだけなら戦えば済む話なんだけどね……林さんたちにも、きちんと正義があるんだ」
「そんなことって、政府の偉い人の仕事じゃないの」
「そうとばかりは言っていられないところまで来てるんだよ……美晴が美麗ちゃんと仲良くなってくれたことは良かったと思うよ。同じ美の字が頭に付くんだ、これからも仲良しでいておくれ」
「うん、仲良くする」
「このお婆は、お父さんの林(りん)さんとガチバトルになるだろうからね……いい気持ち……美晴、こういうのはどう思う?」
「どいいう?」
「………………………………。」
大お祖母ちゃんは、美晴が住んでいる大阪で実際に起こったトラブルを話して感想を求めてきた。
「……そんなの許せないよ」
「だと思ったら、あした美麗ちゃんに聞いてみるといい……」
大お祖母ちゃんは、そこまで言うと寝息を立ててしまった。
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