第88話『ジャングルジムのてっぺん』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)88


『ジャングルジムのてっぺん』              





 ペダルが軽い。


 パンクの修理だけじゃなくて、あちこち油をさしてくれたようだ。


 やっぱり、基本的にミッキーはいいやつなんだ。


「どうもありがとう、とっても快調になった!」


「いやあ、ついでだよ、ついで」


 そう言うとミッキーはジャングルジムに上っていく。

 つけあがらせることなく誉めながら話そうと思っていたら、さっさと公園で一番高いところに上っていくわけ。

 女の子にもよるけど、ジャングルジムのテッペンなんてところで男の子と並んだら少しドキドキする。

 家の二階ほどの高さもないんだけど、お尻の下がスケルトンなためのムズムズドキドキ。

 この状況で恋を語られたら、自分の胸の高鳴りを誤解してしまいそう。


 もっとも、そんな『吊り橋効果』的なことを企んで上ったわけではない。


 単にこういう場所が好きなだけなんだろう。

 自転車の修理といいジャングルジムといい、ハックルベリーのようなところがあるみたい。

 ハックルベリーには直球がいい。

「ミッキー、清美のこと誤解してるのよ」

「なにを!?」

 直球過ぎて目を剥いている。

「I can cook pretty って言ったのよね」

「そうだよ。グループで自己紹介しあってるときに、清美のことをみんながprettyだとかcuteだとか騒いでる時に、彼女言ったんだ」

「though I can only cook……pretty でしょ」

「うん『お料理が上手いだけ……けっこうね』だよ。日本人て変な謙遜ばっかりするけど、あの言い回しは上手いと思ったよ、控えめに自分の長所をアピールしてるしね」

「清美はんぱに英語出来るから、ちょっと言い間違えたのよ」

「言い間違い?」

「ほんとは、こう言いたかったのよ。though I can only cook……little. ユーアンダスタン?」

「though I can only cook……little?」

「そ、prettyって単語が出たんで、うまいこと返そうと思って、とっさに間違えたのよね。でも、みんなが感心してくれるし、旅先だし『ま、いっか』にしちゃったわけ。まさか、あんたが日本に来て自分ちにホームステイするなんて思いもしないもんね」

「……そっか」

「だから、あの料理は、あたしのレクチャーと演劇部のアシストでやったってわけ」

 ここまで言うと、ミッキーは黙り込んだ。

 やっぱ直球はまずかった……フォローしようと思ったら、いきなりジャングルジムを飛び降りた。


 体操選手みたいに着地すると、クルッと振り返った。


「かわいいじゃないか! なんだかアニメの萌えキャラだ! ちょっとツンデレだけど!」


 いや、ツンはあるけど、デレは無いから……。


 こいつを野放しにしてはいけない! そう思って、わたしも飛び降りた!


「ミッキー、あんた演劇部に入んなさい!」

「演劇部?」

「そう、そして……」

「ミリー、ちょっと目が怖いよ……」

「い、いま、足を……く、くじいたの(-_-;)……家まで送ってちょーーー」


 ちょーー痛いいいいいいいいいいいいっ!!

 

 

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