第66話『思い出のサンフランシスコ・4』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

66『思い出のサンフランシスコ・4』  







 あべのハルカスどころか通天閣の展望台からでも全域が見渡せるほどに狭い大阪。


 なのに、何年も会わない人間もいる。


 同じ中学出て、引っ越しもしないで同じ校区に居るのに卒業このかた会ってないなんてザラよね。

 同窓会とか無かったら、ほんと死ぬまで会わないのが大方よ。


 それが、サンフランシスコでふと入った中華飯店。


 その背中隣の賑やかなテーブルにいたのが、我が天敵の演劇部四人組なんて信じられる!?


 生徒会副会長の瀬戸内美晴ーーーーーーー!?


 そう叫んだ松井須磨の怖気だけは共感できた。

「あ、あたしたちね、オルブライト奨学金! 懸賞が当たっちゃって! で、で、アメリカ旅行! 否! 研修旅行中!」

「なんです!」

「せやねん!」

「Yes it is!」


 バラバラだけど、言ってる中身はいっしょ。

 テーブルの下の手でエンガチョやってんだもん!


 わたしもエンガチョしたいけど、相方のアメリカ人は意味わかってないからエンガチョ切ってくれる者もいない。


「日本人でも、あんなにアグレッシブな会話するんだね」

 ハンドルを握りながら相方のアメリカ人。

「アメリカ人も約一名いたけどね」

「あ、あのブロンド?」

「シカゴの高校生、交換留学でうちの学校に来てるの」

「物腰は日本人だったね、ハーフか日本生まれかと思ったよ。ミハルのオオサカって、なんだかラテン系だね」

 こつはミッキー・ドナルドって、ネズミなんだかアヒルだか分かんない名前の十八歳。

 地元の高校で生徒会長をやっている。

 こいつとどういう因縁かは、今んとこ勘弁願いたい。


「え、家に帰る道じゃないでしょ!?」


 ボンヤリしてて気づくのが遅れた。わたしの宿は二つ手前の道を曲がっていなければならない。



「今夜は霧が出ないんだ」

「あ、ああ」

 危うく納得。

 サンフランシスコに来てからずっと霧にたたられ、サイトシーングが出来ていない。

 特にゴールデンゲートブリッジを見てみたかった。

 スコーンと晴れ渡った青空の下か、夕なずむシスコの街を背景に。

 それをミッキーは覚えていたのだ。


「ここは、百年前に砦が築かれてたとこで、GB(ゴールデンゲイトブリッジ)一押しのビュースポットなんだ」


 着いたところは丘の上で、見下ろすGBは絶景。背景になっている街が神戸や横浜の夜景みたいで、それよりもスケールが大きくって、わたしの憂さを晴らしてくれる。

「アメージング……」

 そう呟きながら涙がこぼれてしまったのは、やっぱ気が弱っていたせいかもしれない。

 だれかの胸に顔をうずめたくなった……しっかりしろ瀬戸内美晴!


 自分を叱った、その刹那。


 え!?


 ブチュ!


 ミッキーの顔が迫ってきて、初めてのキスを奪われてしまった!


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