第58話『夏休み編 千歳のお姉ちゃん』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)58


『夏休み編 千歳のお姉ちゃん』   





 変な演劇部ぅ~~~~!


 ひょっとこみたくお姉ちゃんは口を尖がらせた。


 妹のわたしが言うのもなんだけど、うちのお姉ちゃんはイケてる。

 イケてるという伝法な言い方は、イケてるという言葉がいろんな意味を含んでいるからなんだ。


 美人でスタイルもよく、頭の回転がいいのに偉ぶったところがなくて、どちらかというと普段は抜けた顔をしている。

 もの喜びする性質で、面白いことや素敵なことに出会うとアニメのキャラのように分かりやすいリアクションをする。

 そして、面白いとか素敵だと思う神経が人の三倍くらいに敏感。

 

 事故で足が動かなくなったとき、一番分かりやすく悲しんでくれたのはお姉ちゃん。


 お医者さんが宣告すると「どういうことなのよーーーー!!」と叫んでお医者さんの首を絞めた。

 看護師さんたちに引きはがされると、ベッドのわたしに覆いかぶさって泣き叫んだ。


 ウガアアアアアアアアアア!


 涙と涎でグチャグチャになりながら、怪獣みたいな泣き方だった。

「そうだ、わたしの脚を片方移植してやってください! 片方動けばなんとかなります! 千歳、そうしよう! でもって、お姉ちゃんと一緒にリハビリしよう!」

 愛情がなせる業なんだろうけで、その瞬間は本気で脚の移植を考えてしまうほどのオッチョコチョイ。


 本格的な車いすの生活に向けてのリハビリが始まると、脚の不自由な人の生活が面白くなってくる。

「へーー車いすって、こんなに種類があるんだ!」

 車いすを決めるのに丸二日かかったのは、お姉ちゃんがいちいち試乗してチェックをしたからだ。

 サポーターや業者の人は「熱意と愛情の有るお姉さんですね」と目を潤ませていたけど、わたしは分かってる。お姉ちゃんは単に楽しんでいるだけなんだ。


 空堀高校に入るにあたって大阪のお姉ちゃんのマンションに越して来たけど、お姉ちゃんはリカちゃん人形のドールハウスをコーディネートするように熱中していた。

 送迎用のウェルキャブも最新式で、初めて学校に乗り入れた時には校長先生やバリアフリー担当の先生や事務所の人たちまで見物にやって来た。

 わたしは恥ずかしかったけど「いいお姉さんを持ったわねえ!」と感心される。本当はお姉ちゃんが一人面白がってるだけなんだけどね。


 そのお姉ちゃんが「変な演劇部ぅ~~~~~~~~~!」というのだから、よっぽど変な演劇部。


 理由は、第一に演劇をやらない演劇部だから。

 それでも解散にはならずに続いているのは四人の部員のユニークさ。

 演劇はやらないけど、それぞれ学校生活に目的があって退屈するということが無い。

 一人一人語っていると夏休みが終わってしまいそうになるので、一つに絞ってお話するわね。

 

 なんと、演劇部が四人揃ってアメリカ旅行に行くことになってしまったのよ!


 いよいよ空堀高校演劇部は夏休み編突入!

 

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