第52話『地区総会・4』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

52『地区総会・4』   




 八年前のことを思い出していた。


 アベノハルカスが完成したり消費税が8%になった年だ。

 初めて携帯電話を持つことを許されて、わたしは大阪府立空堀高校に入学した。


 十五歳の女の子には目まぐるしい新時代の幕開けだった。


 だから、わたしは演劇部に入ったんだ。


 それまで人前で喋るなんてもってのほかで、中三の春に担任の気まぐれでHR一時間丸々使って自己紹介を強要した時は、あと三人で自分の番という時にお昼御飯がリバースしてきた。

 口を押えて、幸いにも教室の隣にあったトイレにダッシュ。

 いつも大人しいわたしが突然飛び出したので、担任もクラスメートもチョービックリしてた。

 胃の中のものを全部吐き出して教室に戻ると「大丈夫か松井?」と担任がクラス全員の前で聞く。


 そっとしといてよ。


 担任の無神経さに腹が立ったので、思わずこう返した。


「大丈夫です、ほんの悪阻(つわり)ですから」


 教室が凍り付いた。


 愛読書のラノベを真似して、ほんの冗談のつもりで言ったんだけど、それまで冗談なんか行ったことのないわたしは、その足で早退させられ、あくる日には保護者共々呼び出された。

 お父さんは変な人で「きわめて個人的なことなのでお話しできません、しばらく休ませます」と突っぱねた。

 半月たって復帰すると、みんな腫れ物に触るような扱いになった。

 おかげで苦手な体育は見学になったし、ウザイだけの修学旅行にも行かずに済んだ。

 この件でボッチが確定してしまったけど、もともと群れることを良しとしない私には苦ではなかった。


 こんなわたしだったけども、2014年というのは輝かしい。


 きっかけは入学式後のオリエンテーションだった。



 人権なんとか委員長の肩書で演壇に立ったのは八重桜こと敷島だ。なんだか与党を追及する女野党党首のように見えたのは白のスーツ姿だけではなかった。

 このオバサンが「外国籍の人は、ぜひ本名宣言を!」とぶち始めた。

 クラスには中一で一緒だったHさんが居た。Hさんは八重桜の演説に酔ってしまい、それまで使っていた通名を捨ててしまいそうになった。

「だめだよ、そんな簡単に決めちゃ!」

 中学での数少ない知り合いだったので、わたしは真剣に止めた。わたし学校は嫌いじゃなかったけど信用はしていない。学校や教師の言うことは、都合よく解釈や利用するものだと思っている。まして入学したばかりの高校、どこまで信用出来て利用できるか見届けるのには時間がかかる。

 Hさんは、中一の時の薄い付き合いにも関わらず真剣に説得するわたしに好感を持ってくれて「せやね、もうちょっと考えてからでも遅ないわね」と思いとどまってくれた。

 こんなわたしだけど、拙い説得で思いとどまってくれたことが嬉しくて、2014年の後押し気分もあって演劇部に入ってしまった。


 あの年も地区総会にやってきて、コンクールやら講習会のあれこれが議題に上がっていたのを思い出した。


 コンクールに出たいと、演劇部に関しては初心なわたしは熱望した。



 でも、連盟加盟が遅れた空堀はコンクールへの参加資格が無かったんだよね……。

 

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