第8話 タタラを踏むカラス
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
008・タタラを踏むカラス
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです
「なんべんもやるもんやないで」
セーヤンの言葉には頷かざるえなかった。
高校生の水準をはるかに超えたCGの技術で、浄化槽の上にホログラムのバーチャル演劇部を出したのだ。
遠目には10人の演劇部員が発声練習をやっているように見えたはずだ。
「そやけど、あんな中庭の奥ではなあ……もっかい広いとこででけへんか?」
「言うたやろ、ホログラムは明るいとこでは見えへんし近くで見られたら、すぐにバレてしまう」
「そやけどなあ……」
簡易型のホログラムなので、ノーマルに比べれば撤収は簡単なはずだったが、さすがに二人では大変だ。
「たとえ完璧なホログラムを人目につくようにやっても、演劇部そのものに魅力が無かったら人は集まらんやろなあ……」
最後にパソコンの電源を落とすと、独り言のようにセーヤンがトドメを刺した。
「そやけど、車いすの子が見てくれてたで」
「冷めとったで。付き添いのオネエサンは熱心やったみたいやけど……たとえ入ってくれても、車いすの子ぉが演劇部やれるか?」
「そやけどなあ……」
啓介はベンチに腰掛けたままゴニョゴニョ言う。
「だいたいが、啓介自身が真っ当に演劇部やろいう気持ちないやろ。おまえは部室手放したないだけやろが」
図星ではあるが、素直に頷く啓介ではない。
「それは違うぞ」
「どないちゃうねん?」
「そら100%の気持ちがあるとは言わへんけどなあ、オレの中にも何パーセントかは気持ちがあるねん。そこを汲んでもらわんと」
「オレはなあ、部室棟を残したいねん。オレら情報部の活動拠点でもあるさかいなあ」
「部室棟が無くなることはないやろ。生徒会は演劇部放り出して別のクラブ入れようとしてるんやさかいなあ」
「それは考えが浅い」
「なんでや?」
「学校は部室棟そのものを壊したいんや」
「ええ、部室棟をか!?」
あらためて部室棟の旧校舎を見上げる。
カッ カァ~~
屋根の上で翼を休めていたカラスが飛び立とうとして足を滑らせ、あたふたタタラを踏んで飛び立っていった。
「部室棟は伝統的に文化部しか入ってない。そやけど文化部はどこも低落気味。元気のええ軽音とかダンス部は、もとから部室棟には入ってへんしな。ま、オレらの情報部みたいに元気なのんもあるけど、それはそれで鬱陶しい存在や。ま、それは置いといて、学校は部活の振興には力を尽くしたけどあかんかった。あかんから旧校舎の部室棟そのものを撤去する。そういうシナリオができてると思うで」
「そんな深慮遠謀があるのんか?」
「部室棟は維持費だけでも年間数百万円かかってる。まあ雰囲気の有る建物やけど、いつまでも雰囲気だけでは残されへんさかいなあ」
「せやけどなぁ、一寸の虫にも五分の魂や、オレかて、一発やったろかいう気持ちはあるねんぞ!」
啓介は腕をまくって力こぶを作って見せた。
「おお、啓介て案外マッチョやねんなあ!」
セーヤンは素直に驚いた。
いつものグータラな様子からはあり得ない体格だからだ。
ブン
その驚きが恥ずかしく、啓介は封印していた投球動作をしてしまった。
「なんや、啓介ほんまもんのピッチャーみたいやんけ」
「あ、ジェスチャージェスチャー、オレって演劇部だからよ!」
見上げた夕焼けは、あの時のそれに似ていた……。
☆彡 主な登場人物
小山内啓介 演劇部部長
沢村千歳 車いすの一年生 留美という姉がいる
ミリー 交換留学生
瀬戸内美春 生徒会副会長
生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン
先生たち 姫ちゃん 八重桜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます