プロローグ3

「サーちゃん、ちょっと待ちなさい!」


覆る事のない事実にしぶしぶと顔を俯けて踵を返し、とぼとぼと館の出口に向かい歩いていたところ、久しぶりに聞いた母の声は、いつもの優しい声ではなく、辛くとげとげしい声やった。

 待て!と言われて待つ事なんか今までなかったけど、今日はさすがに素直に待ってしもた。

 皆を説得してくれるんやろうか?


「ねぇ、あなた。 さすがに着の身着のままで追い出すのは私には許容出来ませんわ」


 そっちか……


「むぅ、そうだな、確かにまだ未成年の身でこの領地から出ていけば、さすがに野たれ死ぬか。最悪、死んだ時の恨みでアンデットになって領内を荒らされるのも困るからな……」


 ってかどんだけ信用無いねん俺。

 死んでまで迷惑かけるとか思われとるなんて……


「サツキはおじい様に似て魔力だけは豊富だから、領内で死なれるのは厄介ですね。 領内からは何とか無事に出て行って欲しいものだね」


 やれやれといったポーズで、兄貴まで追い打ちをかけてくるとはこれ如何に。

 いつもの真面目な表情が一段と真面目腐ってやがるぜこんちくしょう。


「お父様!おじい様の土産品をいくらか渡してあげればどうでしょうか?」


 さすがヤヨイ! 我が妹よ!

 もっと言え、どんと言え!


「ふむ、あのガラクタか……」


 父は考える時によくする仕草である必殺”あごひげもみもみ”をしながら話を続けた。

 オヤジが王都魔法学園で学んでた頃にこの仕草をする事で周囲の女性たちはこぞって、”はふぅ”とか”はぁあぁん”とか謎めいたため息を吐くのだとかその度に母が奮闘していたと聞いたことがある。 全く理解出来へん。 


「好きに持って行くが良い。 但し、地下の物のみだ! それを手切れ金としてはなむけてやろう。 爺ちゃんっ子のお前には褒美になりそうで嫌ではあるのだが、どうせ大したものは持ち出せまい。」


 マジ?

 マジで?

 爺ちゃんのお宝を貰えんの?

 めっちゃラッキーやん。

 うっわ!やっば!


「分かったわ、ほな、地下のもん好きに持っていくでー。ほんで、こんな家おさらばや! せいぜい長生きしぃーやー」


 さっきまでの重い足取りではなく、嬉々として地下への足が弾む。

 薄暗い地下に乱雑に置かれている郷土品や魔道具の数々。

 あいつらには、この地下倉庫に置いてるもんの価値が分かってへん。

 アホやで、ほんまに。

 俺は地下にどんな便利な物がどんだけ眠っとるか知っとる。

 自分らが捨てた俺も地下の魔道具の価値も。

 全部全部見返したるわ!

 一世一代の成り上がり、見せてやろうやないの!

 見とれよアホども。

 ほんで、成り上がったらあいつらこき使ったる。

 まぁ、母ちゃんとヤヨイだけは、甘えるのを許したろ。


 心の妄想が激しく激化したところで、俺は意気揚々と爺ちゃんの数々の便利品を見繕う。

 知らず知らずのうちに鼻歌を歌っていた。 気分上々やで。

 爺ちゃんの言葉を借りると”アゲアゲだぜぇぃ”やったかな?

 元々、爺ちゃんは俺だけの為にこの魔道具達を持って帰ってくれてたんや。

 成人したら全部譲ってくれるて言うてたし、好きなだけ持って行こっと。

 せやけど、さすがに全部は持っていけへんなぁ……

 使い勝手のいい魔道具以外は確かにガラクタも雑じってるからなぁ。


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 広大な敷地の中で、その地下倉庫は拡張に拡張を重ねて領館の大きさの倍ほどの広さになっている。

 倉庫と言うよりももはや、展示場である。

 王都には展示場という珍しい品々や希少価値のある魔石、国に伝わる歴史の中で活躍した道工具など様々なものが綺麗に保管され、陳列し、入場料を払う事で誰もが、その品々とその説明を目にすることが出来る場所があるのだ。

 10歳の時に家族全員で王都旅行の際に見たのが記憶に新しい。


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 話が脱線したけど、地下倉庫に放置されている品々は大きいものは馬車の荷台と変わらない大きさの物から、小さなものは指輪のようなものまで千差万別で物が多すぎる。

 あれ?指輪?

 指輪で思い出した。

 昔、爺ちゃんに欲しい欲しいと強請ってた指輪。

 とうとう譲ってはくれんかったけど、それと同等もしくはその劣化版が地下倉庫に眠っていたはず……。

 いずれ成人した際に、正式にもらう事になっていた指輪やで。

 今貰って行ってもバチは当たらんよな?

 あったあった!

 俺の魔力に反応して、淡くうっすらと光が見えた。

 数々の品をかき分け、拾ったその指輪を右手の人差し指に嵌める。

 俺の指にはまだ大っきいな、指輪を嵌めるっちゅーより、指に指輪がぶら下がっとるようやで。

 成人するまで指に嵌めるなよと爺ちゃんに言われてた事を思い出し、時期尚早かとしょんぼりがっかりのため息が出たところ、いきなり指輪が一瞬眩く光り輝いたで。

 ちょっとびっくりしてしもたがな。

 あまりの眩しさに目を閉じてしもたけんど、指輪のあった、人差し指がぼんやりと温ったかい。

 何かの変化を感じた。

 ゆっくりと目を開け、指輪を見ると俺の指にピッタリと装着されとった。

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