101 ぬりかべ令嬢、目を覚ます。
光の洪水の中で、身体が作り変えられていく。
自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされて、五感が一つ一つ戻っていく──そんな不思議感覚だった。
五感全てが戻ったと思ったら、手に感じる温もりと、風が動く気配を肌に感じ、ゆっくりと目を開く。
するとそこには、青空のような綺麗な蒼色があって……。
──ああ、私が大好きな──ハルの瞳の色だ。
目を開けた時に見た色が、ハルの色なのが嬉しくて、私の顔は自然に緩む。
すると、綺麗な蒼い瞳が驚いたように見開かれる。
その驚いている蒼い瞳に、この世界では珍しい黒い髪がサラリと流れ──ああ、なんて綺麗な人なんだろう、夢で見たハルとよく似ているな……と思って気が付いた。
……あれ? 何だかハルの顔がとても近くにあって、その体温や息遣いを間近に感じるのだけれど……。
────!? まさか本物……!?
私がカッと目を開いたら、しばらく固まっていたハルが「うわぁっ!!」と驚いて仰け反ったから、離れていく体温を逃さないように、ハルのローブをぐっと掴み、引っ張る力で身体を起こしてハルの胸の中に飛び込んだ。
「ミ、ミアっ!? えっ? 起きた? えっ? ホントに!?」
突然飛び起きた私に、ハルがパニックになっていたけれど、恐る恐る手を伸ばすと、私をしっかりと抱きしめてくれた。
「……ミア! ミアっ!! ……ああ、良かったっ……!!」
「ハルっ! 会いたかったよ……っ!!」
「俺もっ……!! ずっと会いたかった……!!」
私はハルのローブを掴んでいた手を離して、ハルの背中へと手を回す。七年前とは違う、しっかりと筋肉がついた背中に、男らしく成長したハルを実感してドキドキする。
……うぅ……思わず勢いで抱きついちゃったけど……っ!! よく考えたらすごく恥ずかしい事をしているよね……!? どうしよう、きっと顔真っ赤だよ……!
今更ながら、自分の行動に恥ずかしくなってしまったけれど、ずっと待ち望んでいたハルの体温を感じているうちに、そんな事どうでも良くなって来た。
──やっと、やっとハルに逢えたんだ……!! 嬉しい!! 嬉しい!!
七年間の空白を埋めるかのように、二人してぎゅうぎゅう抱きしめ合っているとドアをノックする音がして、驚いた私達は同時にパッと離れてしまう。
離れた途端、ハルの体温が空気に溶けて失くなっていくのを感じて寂しくなる。
──少し離れただけなのに、こんなに寂しく思うなんて……。
私が残念そうな顔をしたのに気が付いたのか、ハルがそっと私の手を握ってくれた。そんなハルの気遣いに嬉しくなる。
ハルも私と同じ気持ちだったらいいな……なんて。
ふと周りを見渡すと、見覚えのある部屋だったので、今更ながら自分の部屋にいた事に気が付いた。
ハルが居るから、いつの間にか帝国に来たのかな、と思ったけど、でもベッドはマリカのだよね……? んー?
私が不思議に思っていると、ハルがドアに向かって「どうぞ」と声を掛けた。
ドアが開くと、白い髪の可愛い女の子がひょこっと顔を出す。
「マリカ……!!」
その可愛い女の子、マリカは私の姿を見て驚いたと思ったら、今度は私に向かって走り出し、がばっと抱きついて来た。
「……ミア! 良かった……!」
心の底から安心したような声で、マリカが嬉しそうに言ってくれたから、私も同じ様に嬉しくなる。
そして私もマリカをぎゅっと抱きしめ返すと、マリカが小刻みに震えて泣いている事に気が付いた。そんなマリカの様子に、随分心配をかけてしまったのだと申し訳なく思う。
「心配をかけてごめんね。マリカは大丈夫? お腹痛くない?」
アードラー伯爵にお腹を殴られていたし、気を失ってしまっていたから心配だったのだ。
「……私は大丈夫。あの時の怪我はもう治ったから」
「あの時……?」
マリカの言葉を聞いて、アードラー伯爵に捕まったのはそんなに前だったっけ? と不思議に思う。
「あのな、ミア。ミアがヴァ……アードラー伯爵の屋敷で意識を失ってからもう十日は経っているんだ」
ハルの言葉に驚いた。え? そんなに経っていたの!?
「そう、ミアはこの魔法のベッドで十日間ずっと眠っていた」
「魔力神経がズタボロだったからな。もう目覚めない可能性もあったんだが……そう言えばミア、もう身体は痛くないのか?」
ハルに言われて気が付いたけど、そう言えばあれだけ痛かった身体はもう全く痛くない。あの不思議な夢で見た通り、身体が新しくなったような気がする程調子が良い。
「うん。もう痛みは全く無いから大丈夫だよ。魔法のベッドのおかげかな?」
私がそう言うと、ハルとマリカがじっと私の身体中を眺めている。……えっと、視線がちょっと怖いです。
「マジかー……魔力神経が繋がっている……」
「あれだけの損傷が……たった一日で……?」
ハルとマリカが不思議そうな顔で話をしているけれど、私には全くわからない。
そんな私の表情に気が付いた二人は私にわかりやすく説明してくれた。
曰く、
私は魔力神経を損傷している状態で無理やり魔法を使ったため、魔力が枯渇していて、いつ死んでもおかしくない状態だった事、取り敢えず魔法のベッドで寝かせる事によって延命していた事、昨日まで魔力神経は殆ど治っておらず、目覚めるのにかなりの時間を要すると思っていた事──……。
………私、死にかけていたんだ。
「……じゃあ、やっぱりアレは死後の世界……」
本当にあのまま消えて亡くならなくて良かった……!
「え? 死後の世界を見たって?」
「気になる」
私の呟きを聞いた二人が興味津々に聞いてきたので、今度は私が夢で見た内容を二人に話した。ハル本人に話すのはとても恥ずかしかったけれど……っ!!
何とか話し終えたものの、恥ずかしさに震えながら赤い顔を両手で隠した私を、ハルがぎゅっと抱きしめてくれた。
「ミアっ……!! そんなに俺の事を想ってくれていたんだなっ……!! 俺も!! 俺もミアが大好きだ!! 初めて会った時からずっとずっと愛してる!!」
きゃーーーーーーっ!!!
ハルからの思わぬ愛の告白に嬉しいやら恥ずかしいやらで、沸騰しそうなぐらい身体中が熱い。
でも、ハルの言葉がすごく嬉しくて、ずっとずっと我慢していた感情と共に涙が溢れ出してくる。
「私も……っ!! ハルが大好きっ!! ずっと逢いたくてたまらなかったよ……!!」
ハルの肩口に頭を寄せてそう言うと、ハルが優しく私の頭を撫でてくれる。
──うわぁ。これ、すごく気持ちいいかも……。
「……迎えに行くのが遅くなって悪かったな。それと俺を助けてくれて有難う」
ハルがそう言ってくれた後、頭に何か柔らかい感触が落ちてきて、ハルがキスしてくれたんだとわかった。
はわわわわっ!! ど、どうしようっ!! し、心臓がっ!! も、持たないっ……!!
待ち望んでいたハルとの再会と思いもよらぬ甘い触れ合いに、耐性が全く無い私の心臓はこれ以上無いほどドキドキして、更に茹だった頭の中では、今私が死んだら原因は萌死だな、でも死ぬならそれが良いな、とか何とか、訳のわからない事を考えていた。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
何故ハルの顔が間近にあったのかはご想像にお任せします。(・∀・)ニヤニヤ
自分ではかなり糖度を高くしたつもりなのですが…もう限界。_(┐「ε:)_
こんな感じで明日も更新しますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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