閑話 玉の輿大作戦、再び(グリンダ視点)
脳内お花畑のグリンダちゃんです。広い心でお読み下さい。
* * * * * *
マティアス様と正式に婚約を結んだ時が、私の人生において最高の瞬間だったわ。
容姿端麗で穏やかな性格のマティアス様は、とても優しくて本当に素敵な方。こんな方と結婚出来るなんて、私ったら幸せものね! と良く思っていたわ。
……なのに、何時からか私はマティアス様一人では物足りなくなってしまったの。
だって、私のような美しい女が、たった一人のものになるだなんて勿体無いじゃない?
それに、マティアス様の周りにはステキな男性がたくさん居て、誰もが私に熱い眼差しを向けてくるんだもの。
マティアス様と言う婚約者がいる私に気持ちを伝える訳にはいかないからって、皆んな遠くから私を眺めるだけなんて……! それってすっごく可哀想!
だから私はそんな皆んなのために、声を掛けたりお茶に誘ってあげているのに、王宮の女使用人たちからは不潔だのふしだらだの陰口を叩かれて……酷いと思わない?
しかも貴族の夫人たちからも、はしたないとか浅ましいとか言われているらしく、この前お母様から叱られてしまったわ!
……ほんと、女の嫉妬って醜いわね!
そんな女たちのせいで最近、私を慕ってくれる者たちがめっきり近寄って来なくなったのよ!
今まで熱い眼差しを向けてきた近衛や文官たちも、最近は目を合わせると、辛そうな表情で逸してしまうし! 声を掛けたら顔を青くするって、どんだけあの女たちが怖いのよ! だらしないったら!
だからなのか、最近何だか王宮に行っても楽しくないのよね。
せめてマティアス様達に囲まれてお茶会が出来れば良いんだけど……エリーアス様が反対しちゃうし。
『殿下はグリンダ様のために執務を頑張っておられるのですよ。だから邪魔をされないようにお願いします』
私は邪魔なんてしていないのに!! 一緒に休憩してるだけなのに!!
前はあんなに優しかったエリーアス様は最近冷たいし。
……そう言えば、最近王宮で眼鏡をかけている人間が増えた気がするわね。流行りなのかしら?
ま、流行っていたとしても私はかけないけどね。折角の美貌が隠れてしまうもの。
あーあ。こんなことならお母様がおっしゃる通り、マリウス様に乗り換えておけば良かったわ。
帝国次期皇帝の側近で、公爵家嫡男で、なんて言ったってあの麗しい見た目!
王国の男たちとは違う垢抜けた雰囲気や佇まいは王国中の貴族令嬢が溜息をつくほどだったしね!
そんなマリウス様と恋仲になれたら……いえ、結婚なんてしたら、貴族連中を見返せるのに!
今は帝国に戻ってしまったけれど、また会いに来てくれるって言っていたし、私の欲しいものを贈ってくれるって約束もしたし……再会が待ち遠しいわ!
あ、でも欲しいものにドレスや装飾品も入れておくんだったわ。
最近のドレスって何だか野暮ったいのよね。それに仕立てもいつもの商会じゃないし。どうしたのかしら?
マリウス様ともう一度再会できたら今度こそ……既成事実を作ってやるの!
私の純潔を捧げてあげるんだから、マリウス様もきっと喜んでくれるはず。
前回は何かと邪魔が入ったけど、今度は確実に一線を越えてみせるわ……!
そうして私がマリウス様との再会を夢見ていたからかしら、何と明日マリウス様が急遽王国へ来る事になったらしいの! もうびっくりよ! きっと神様が私の願いを叶えてくれたんだって思ったわ。さすが神に愛された女よね。
今回は緊急を要するらしく、今王宮中は迎え入れる準備で大慌てなの。
緊急の用事って何かしら……? 噂では帝国の皇太子も来るらしいけれど……。
でも、帝国の皇太子って髪の色が黒いって聞いた事があるわ。しかも異世界人の血を引いているとか。
……ヤダ何それ怖い。
この世界の獣人ですら嫌なのに、異世界人なんて近寄りたくもないわ。
きっと野蛮で見るに堪えない姿をしていそうよね。それに黒い髪の毛ってキモチワルイ。
でも、こんなに美しい私だもの、きっと見初められてしまうわね。
もしかすると、王国と帝国で私を巡る戦いが始まってしまうかもしれない!
ああ、自分の美しさが恐ろしい……! 美しさは罪って本当ね。
──そうして迎えた翌日、帝国の皇太子達が飛竜に騎乗して、遂にやって来てしまったの。
私は行きたくなかったけれど、未来の王妃として出迎えないといけないし……。でも、マリウス様とお会いできるのなら我慢よね。
あら? もしかして緊急の用事って、マリウス様が私を奪いに来た、だったり……? そしてマティアス様と決闘するために、見届人として皇太子を連れてきた……とか! やだ! あり得るわ! どうしよう、心の準備が……!
私がドキドキしていると、空から飛竜が舞い降りて、ふわっと着地した。
凶暴だと思っていたけれど随分大人しいみたい。初めは警戒していた騎士団の人たちも感心して飛竜を見ていたわ。
次々と飛竜が着地していく中、マリウス様の姿を見つけて、つい胸が高鳴ってしまったのは仕方がない事よね。だって凄く格好良いんだもの……!
帝国皇太子の側近達をじっくり見たけれど、皆んな洗練されていて凄く美形! マティアス様ももちろん美形だけど、帝国の人たちと比べると田舎臭いと言うか……ちょっと残念なのよね。
やっぱり私には帝国の雰囲気が肌に合うのかもしれないわね! よし! やっぱりマリウス様と既成事実よ……!!
私がそう決心していると、マティアス様が黒いローブを深く被った人の所へ歩いて行くから、慌てて追いかけた。
するとマティアス様は、そのローブの人に深々と頭を下げて挨拶したの。
「レオンハルト殿下、お初にお目にかかります。私はナゼール王国王太子マティアス・ノディエ・ナゼールです。ようこそおいでいただきました」
──え!? この人が帝国の皇太子!? やだ、どんな恐ろしい顔をしているのかしら……!?
今は顔が分からないから良いけど、もしその姿を見たら気絶しちゃうかもしれないわ……!
私の心の準備はまだ出来ていなかったのに、レオンハルト殿下が深く被っていたフードを脱いでしまったの。
「レオンハルト・ティセリウス・エルネスト・バルドゥルだ。突然の来訪にも関わらず、多大なる配慮に感謝する」
「──────っ!?」
レオンハルト殿下の素顔を見て、私を含めたこの場にいる全員が息を呑んだ。
──だって、あんなに綺麗で格好いい人だなんて思わなかったんだもの……!!
無駄な脂肪も筋肉も付いていない、バランスが良くスラッとした身体に長い手足。
シャープな輪郭の小さめの顔には切れ長の目に宝石のような青い瞳が。
それに、何と言っても気持ち悪いものだと思っていた黒い髪は、美しく艶やかな輝きを放っていて、この世界に新しく生まれた様な、そんな瑞々しさを感じるわ!!
気持ち悪いなんてトンデモなかった!! むしろ良い! スッゴク良いじゃない!!
見た目も凄く良いけど、声も良いなんて反則よね! あんな声で甘い言葉を囁かれたら……!! ……きっと昇天してしまうわね。色んな意味で。
私がぼーっと見惚れている間、マティアス様やエリーアス様と軽く会話を交わしたレオンハルト殿下は、先を急いでいるみたいで早々に移動する様子だったわ。
だから、
……ヤダ!! 私を置いて行かないで……!!
って、思わず叫びそうになったのを、何とかぐっと我慢したわ。
でも、そんな私の想いが通じたのか、レオンハルト殿下が私に気付いてくれたの……!!
そしてあの青い瞳で私を見ると……とても甘い顔で微笑んでくれたのよ……!!
その時の感動を、どう表現すればいいのか……何と言うか、スゴイ破壊力だったわ。
とにかく、その笑顔一つで私の心は完全に奪われてしまったの……。
──ああ、あの笑顔を見た時が、私の人生において最高の瞬間だったわ。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
一生懸命お花畑を書いてみたのですが……物足りなかったらすみません。
今度の別視点はミアパパかなーと思ってます。
次回は久しぶりに本編の更新を再開しますので、
どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます