第五章 地下世界編

第一話  ユースイル

シャウル「では私は治療室にユミユルを回収しに行ってきます。」

ハーナイル「ではまた後で。」

シャウル「そういえば今更ですがこの度にはハーナイルも一緒に行くのですか?」

ハーナイル「いえ、私はジュコイルでやらなければならないことがありますので。」

シャウル「そうですか。」

そう言うとシャウルは二階の治療室に寝かせてあるユミユルのところへ行った。

ユミユルはベッドの上で眠っていて、傷は完治していた。

シャウルはベッドに取り付けられている曲がった金の棒をそっとユミユルから取り外し、ユミユルを手で抱えて床に置いた。

少しの間見ているとユミユルは目をぱちくりさせながら起きた。シャウルはユミユルに手を触れ(ついてきて)と念じて、治療室を出ると、ユミユルは後ろからテクテクついてきた。

シャウルがユミユルと一緒に一階へ下りるとハーナイルとマユイルが待っていた。マユイルはジュコイルの魔術師の衣装に食料袋をリュックサックのようにして背負い、右手に先端に青の玉が取り付けられた大きな金色の杖を持って準備を済ませた服装になっていた。

ハーナイル「それでは行きますか。」

そう言うとハーナイル、マユイル、シャウルの三人は再び洞窟の入り口に向かった。

シャウルが右手の人差し指にはめている緑玉の指輪を階段の一段目にかざすと、崖に刺さった青い石板がスルッと抜け落ち、周りの岩が崩れ、洞窟の入り口が現れた。

ハーナイル「では二人に幸運を祈っています。」

マユイル「母上は行かれないのですか?」

ハーナイル「私はこちらでやることがあるので。」

マユイル「そうですか。少し心もとないですね。」

シャウル「行きましょう。」

シャウルがそう言うとマユイルとシャウルの二人は洞窟の中に入っていった。

洞窟の中は入り口からほのかにさすジュコイルの光で薄暗く、奥へ奥へと行くほど暗くなっていった。ユミユル(巨犬)はテクテク後ろからついてきている。しばらく洞窟の中を進むと崩れていた入り口の岩が一つ一つパズルのように自然に組みなおされ元に戻り、洞窟の入り口がふさがれ、洞窟の中は真っ暗になった。シャウルが魔法を使って洞窟の中を照らそうとすると先にマユイルが光の呪文で持っている長い杖の先端の青い玉を発光させて周りを照らした。洞窟の中はジュコイルの中よりも湿度が高くジメジメしていて蒸し暑い。

マユイル「この洞窟の異常な湿度と暑さはいったいどこから来ているのでしょう」

シャウル「洞窟は日の光が届かないので基本肌寒いはずなので湿度はともかくこの暑さは洞窟の中にある何かが作り出しているのでしょう」

二人がしばらく歩いていくと壁に突き当たった。

シャウル「まさかここで終わりじゃないでしょうねえ。」

マユイル「待ってください。壁に何か書かれています。」

そう言ってマユイルが杖の先を壁に近づけると、壁に緑の文字で「緑玉の指輪」と書かれている。

マユイル「ユリギエルの失われた杖を隠した人はよっぽど謎解きがお好きなんですね。」

シャウル「まあでもこの謎の解き方は知っています。」

シャウルはそう言うと人差し指にはめた指輪を壁にかざした。すると行き当たりだと思っていた壁は音を立てだんだんと小さくなり、最終的には小さな手紙に変わり、洞窟の奥へと道が開けた。

シャウルが得意げな目でマユイルの方を見て言った。

シャウル「ほらね?」

マユイル「それはそうとこの手紙は何でしょう?」

シャウル「確かに気になりますねえ。」

マユイル「一応読んでみましょう」

シャウルが手紙を拾い、読んでみた。手紙の書きだしにはこう書かれていた。


(この手紙を読んでいるものへ。私の名前はユースイル、ユリギエルの杖を隠した張本人です。この手紙をあなたが読むのは、おそらく私がこの世を去った何百年も後でしょう。ここに記すのは邪神ファボール討伐のための最強の武器ユリギエルの杖のありかについてです。しかし、そのありかについて知る前にまずは過去のこと、なぜ私がユリギエルの杖を隠したのかを知るのです。)

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