第四話  幻の神都市ジュコイル

怪物はゆっくりと後ろに重心を崩し、ドタッという音を立て、腹を上に向けたまま大の字で地面に倒れた。

次第に空を濁していた黒い雲が去り、吹雪も消え去った。しばらくシャウルが怪物を見ているとハーナイルが急いで走ってきた。

ハーナイル「シャウル、あなたの弓の腕をほめたいところですがあなたの乗っていた巨犬がひどいけがを負っています。」

そのことを聴いてシャウルはとっさにユミユルの方へ駆け寄っていった。ユミユルはシャウルが踏み台にしたとき腹に氷の柱の攻撃をもろに食らって腹がつぶれていた。ユミユルは苦しそうに(ハア、ハア)と悶えている。マユイルがユミユルの腹に手を当てて回復させているが、いまいち治りが悪いように見える。

シャウル「どうですか?」

マユイル「一応治すこともできますが完治には丸二日はかかります、その間に魔物に襲われると厄介です。」

ハーナイル「最低限の処置だけしてさっさとジュコイルへ行くのがよいでしょう。」

シャウル「では今はそうするしかないでしょう」

しばらくするとマユイルが手を止めた。

マユイル「折れた肋骨と傷ついた内臓は元に戻しておきました。あとは細かいところだけです。」

シャウル「ありがとうございます。ユミユルは私が運びます。」

シャウルはユミユルに手を当て、(小型化して)と念じるとユミユルは次第にちじみ、かわいらしい子犬に変わった。

シャウルはユミユルを腕で抱え、弓は首にかけた。

ハーナイル「では行きましょう。」

ハーナイルは山の頂上の開けた場所の中心に移動し、地面に手を触れ魔力を送り込むと辺りが次第にどこからか発生した霧に包まれて、少しする間に霧で周りは何も見えなくなった。シャウルは全身に霧を浴び、肌に細かい水滴が付く感じがした。そのまましばらく周りを見ていると突然バッと霧が開け、薄暗い断崖の上に出た。シャウルが崖沿いに移動し、崖の下を見ると四方を滝がゴーゴーと音を立てて流れる巨大な断崖に囲まれたオウルに匹敵するほどの大都市があった。大都市は大都市全体を照らす無数の黄色い明りがほんのりと黄色い光を放ち、太陽の光も霧で遮られ今は昼過ぎなのに夜明け前の様な不気味な雰囲気に包まれている。

シャウル「あれが幻の神都市ジュコイルですか?」

ハーナイル「その通りです。どうですか?なかなか幻想的な景観でしょう?」

シャウルはまあなかなか良いものを見ることができたとは思いつつも少し不気味な雰囲気と高い湿度に気持ち悪さを感じていた。

ハーナイル「こちらです。」

そう言うとハーナイルは崖沿いを右回りに歩いて行った。続いてシャウルとマユイルもハーナイルについていくと崖に沿って取り付けられた階段があった。だがそれは階段と言っても崖に板が刺さっただけのスロープもない危なげのあるものだった。

ハーナイルは崖に刺さった板を一段ずつ下りて行った。

階段は崖沿いを一周するようにぐるっと取り付けられ階段の板は青透明だ。階段を下りると、ジュコイルの街が広がっている。ジュコイルの家は全体的に薄い黄色ベースでなぜかどこにもドアがなく、外見的にはどれも小さなものばかりでシャウルの家の三分の一ほどしかない。通路は整備され、草一本ないような固い土で出来ていた。オレンジのろうそくが通路のそこらじゅうに設置されている。オウルのように防衛用の壁や城門はなく、家と通路がそのままむき出しになっており、何処からでも入れる。

ハーナイル「さあこちらですよ。」

そう言うとハーナイルはジュコイルの中に入って行った。ハーナイルについて行ってしばらくまっすぐ進むとハーナイルは直角に進行方向を変え、しばらく進んだ。

そのままハーナイルについていくと中央の大通りに出た。大通りにはたくさんの白い服を着て杖を持ったジュコイルの住人が通り、正面には大きな城というより巨大な門の集合体の様なものがある。どういうものかというと、まず建物はむき出しの奥行きのあるくねくねと曲がった太い二つの階段が上へ行くにつれ、一つにまとまり、二つに別れを五回繰り返し、その階段沿いにいくつもの特徴的な門がある。

ハーナイルは大通りを進むと階段には登らず、横に抜け、階段の真横に出た。シャウルはこの巨大な階段を真横から見てつくずく人間の文明とは奇怪なものだと思った。正面から見た階段と同じものが裏側にもあるのだ。

階段の真横に出たハーナイルの正面には小さな木造の地味なドアがあり、ドアは魔術式で閉じられており、ドアの周りには何もない。ハーナイルがドア魔術式に両手を触れ魔術式を解除すると、ガチャッという音とともにドアが開いた。


ハーナイル「こちらです。」

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