第十話  勝利

退いていく魔物たちを取り逃がすまいとハーナイルが霧の呪文で四つ目の軍勢を取り囲もうとしたがメジクリアスと先頭の数人は足早に霧が取り囲む前に逃げていった。ジュコイルの魔術師はその後霧で取り囲んだ魔物たちを殲滅するため川を渡って魔物たちに戦いを挑みに行ったが、なんだかんだ言って彼らでも勝てるかどうか怪しいくらいの数はいる。ハーナイルは霧で両方の軍勢を取り囲むために動けずにいる。シャウルも弓で眉間を狙うが反応されてよけられるか防がれるだけで武器ごと貫くほどの魔力を込めて打たなければシャウルの攻撃は通らない。ジュコイルの魔術師たちも空と地上からの同時攻撃にいまいち受けきれずにいる。ジュコイルの魔術師たちは食らった攻撃を互いに回復しあい、場は長い長い耐久戦となった。シャウルはジュコイルの魔術師と戦っている魔物を打ち抜き続けた。そんな中、遠目にシャウルには一匹のガーゴイルに目が行った。そのガーゴイルは他のガーゴイルの倍の巨体で他のガーゴイルたちに指示を出しながら自身もジュコイルの魔術師たちを苦戦させている。シャウルはおそらくあれがガーゴイルたちの長なのだろうと思い、巨体のガーゴイルの眉間に照準を定め、ありったけの魔力を込めて矢を打ち込んだ。

次の瞬間巨体のガーゴイルはギャッと大きな声で叫びその場に倒れ、ガーゴイルたちは統率を失い、ジュコイルの魔術師たちは少し戦いやすくなった。戦いは朝まで続き、ジュコイルの魔術師たちは安定的に魔物の軍勢を殲滅していき、コスロー防衛戦はシャウル達の完全勝利で終わった。

ハーナイル「できればメジクリアスをここで倒しておきたいところでしたが、当分メジクリアスも動いてこないでしょう。」

シャウルはハーナイルに挨拶に行った。

シャウル「初めまして、そしてご加勢ありがとうございます。私は森の賢者シャウルです。」

ハーナイル「初めましてシャウル。遠目に見ていましたが弓の腕は大したものでした。旅を続ければさらに強くなることでしょう。」

シャウル「ありがとうございます。では今はこれで、また今度。」

そう言うとシャウルは必要最低限の挨拶をし、大樹ヨルフの方へ向かった。コスローの中はまだ木のゴーレムが徘徊しており、警戒態勢だった。

大樹ヨルフのもとへ着くと、心なしかシャウルにはヨルフが消耗しているように見えた。

シャウル「ヨルフ様、報告に参りました。メジクリアスの軍勢は敗走しました。」

ヨルフ「それは真か。正直言って勝てる望みは薄いと思っていた。

シャウル「ギリギリのところでジュコイルの魔術師たちが応援に駆けつけてくれました。」

ヨルフ「ではもうメジクリアスも当分は動けまい。本当によくやってくれた。これまでのお前の活躍も含めて褒美にお前の弓の神器を強化してやろう。」

シャウル「ありがとうござうます。ところで一つ聞いてもよろしいでしょうか。」

ヨルフ「なんだ?」

シャウル「そもそもこのコスローが弱っている原因は何なのですか?」

ヨルフはしばらく黙り、言った。

ヨルフ「ではこのことは教えておいた方がいいあろう」

ヨルフ「このコスローが弱っている原因を説明するにはコスローの魔力の源は何なのかということを説明する必要がある。」

シャウル「それは当然知っています。大海アルンの中心からコスローの地下に流れ込む魔力豊富な聖水を吸っているからでしょう?」

ヨルフ「その通りだ。つまりコスローが弱っているということはアルンの中心から流れ込む聖水に異常がある。メジクリアスの武力侵攻は避けられたが真にコスローを守るには海底都市ダラスの中心に発生しているであろう異常を解決する必要がある。」

シャウルは嫌な顔で初めて弱音を吐いた。

シャウル「また今から旅に出るのですか?正直疲れました。それにマユイルとの取引もあります。」

ヨルフ「これから出る旅はそのマユイルの探し物にも関係がある。」

シャウル「ではマユイルの旅の手伝いの名目で旅に出てくるということでよろしいですか?」

ヨルフ「それでいい、ではお前の弓を強化してやろう。弓はそこに置いていけ。」


コスロー防衛編  完

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