第三話 神器

シャウルは大樹ヨルフの葉の一枚が枯れ落ちて行くのを背に家に戻った。

いつものシャウルなら昼前までできのみ三つで朝から全力疾走すれば空腹が頂点に達するところだが、今日に限りシャウルはこれから出る旅への不安で食欲はさして出なかったが、グズグズしている暇もないと思いスープとパンを口に運んだ。

少し遅めの朝食というかもう昼食を済ませて早速ヨルフに言われた通りに例の指輪を持って家を出たが、いつものように走って森の中へは入らずに、人差し指を前に出しはめてある例の指輪に向かって呪文を唱えた。

シャウル「マートル (導け) 」

そう唱えると指輪に付いている緑透明の玉がパーッとさらに濃い緑に光り、シャウルは緑の光に包まれ森の中にワープした。

そこは森の中と言っても森の賢者であるシャウルでも知らないような綺麗な場所だった。シャウルの目に移ったのは森の中でも一部開けた半径五メートルほどの花畑のような場所だった。目の前には石造りの腰くらいの大きさの直方体の墓のような物が四つ並んでいる。途端に頭の中に大樹ヨルフの声が流れ込んできた。

ヨルフ「待っていたぞシャウル。」

シャウル「この四つの直方体は何ですか?」

ヨルフ「この直方体の中にそれぞれかつての偉大なる森の賢者モログが使用した神器が眠っている。神器はモログ亡き後その所有権は私に託されている。これをお前に使って欲しい。三百年の間私の魔力を注ぎ込み傷は全て修復してある」

シャウル「どうすれば神器は現れるのですか?」

ヨルフ「その石の直方体はある程度の魔力を注ぎ込むと壊れる。やり方は簡単だが必要な魔力の量が絶大で今までこの神器の後継者を探し、今まで17人の賢者に試してみたが神器を呼び出せたものは誰もいない。だがお前ならできるのではと考えている。ちなみにここは森の中にあるがモログのかけた特殊なバリアで守られているから内側から出ることはできない。出ようと思った時は指輪に向かって入ってきた時と同じことをやれば良い。また何度でも入り直すことはできるため。失敗してもやり直すと良い。これで説明は終わりだ。頑張れ。」


シャウルは大樹ヨルフの話が長すぎて半分が頭に入っていなかったがとりあえず言われた通りにまず一番右の石に手を触れ

魔力を注ぎ込んでいった。少し苦しくなってきたところでシャウルは不思議な感覚に襲われる自らが石に魔力を注いでいるのではなく石が魔力を吸い取っているのだ。石がシャウルの魔力を奪うにつれそれまで灰色だった石がだんだん透明に透けて四角い透明の箱のようになって行った。段々シャウルの意識が朦朧となって完全に石が透明の箱に変わった瞬間シャウルはバタッと地面に倒れた。

目を覚ますと夜だった。お腹が急激に空いている。シャウルがあたりを見渡すとさっきと同じく花畑にいた。正面には魔力を注ぎ込んで透明の箱になった直方体があった。

透明な箱の中にはボロボロの深緑色のマントがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る