かぐや姫の成長
かぐや姫について語るには、その特異な出自まで遡らねばならない。
そこで我々は、かぐや姫の育ての親である
――こんにちは。「プロジェクトK」という番組の者なんですが。
「ああどうも、こんにちは。どうぞ中へ」
我々を出迎えてくれたのは、八十を過ぎたとは思えないほど
昔は熟練の竹細工師だったそうだが、家の中に置いてある作業道具はどれもこれも埃を被っていた。
「かぐや姫について話してほしい、ということでしたね」
――ええ。血が繋がった親子ではないとお聞きしました。
「不躾だなんてとんでもない。信じてもらえるかどうかはわかりませんが……ある日、いつも通り竹林に出かけると、なんだか遠くのほうがぼんやりと光っていたんです。近づいてみると、それは竹でした。一本の竹の根元が、それはもう眩しく光り輝いていたんです」
――なるほど。そして、その竹をどうしたんですか?
「そりゃあ、切って確かめてみましたよ。光っている部分より少し上に刃を入れて、切り倒しました。そうしたら、中から可愛らしい女の子が出てきたんです。とても小さくてね。あれは……3寸くらいだったかな」
――3寸の、女の子ですか。不審には思わなかったんですか?
「思いましたよ。手のひらに乗るぐらいですからね。生まれたばかりの赤ん坊だってここまで小さくはない。でもまあ……私と妻との間には、ずっと子どもができませんで。もう諦めてたところにあれですから……神様からの授かりものだと思ったんですよ。でないと説明がつかない。ともかく、いったん連れて帰って妻に話すことにしました」
翁は小さな女の子を家に連れて帰った。奥さんと話し合い、やはり神様からの授かりものであるという意見で一致したという。こうして、女の子は二人に育てられることとなった。
「その次の日のことです。別に光ってもない、何の変哲もない竹なんですが……切ったら、中に金色の石がぎっしり詰まっていたんです。びっくりしましたよ。手にとってみると、こう、ずっしりとしていて……
――不思議なこともあるものですね。
「ええ。しかも、その日だけではありませんでした。毎日というわけではありませんが、竹を切ったら金が詰まっていることが多々ありまして。その度に麓へ売りに行きまして……お金が使いきれないほど貯まりましてね。恥ずかしながら、そのお金で家を改築したり使用人を雇ったりもしました」
竹の中から見つかる金を、夫婦は同じく神様からの授かりものだと思ったのだという。これで赤ん坊をしっかり育てなさい、ということだと。夫婦はどんどん豊かになっていき、貴族のような暮らしができるようになっていたが、お金は常に少女のために使うようにしていた。優しい夫婦の庇護と才人たちによる教育の下で、少女はすくすくと成長した。
「あの子はどんどん大きくなりました。毎日少しずつ、けれど着実に。拾ってから――そうですね、三ヶ月ほどでしょうか――経ったときには、見た目はもう十歳を超えるほどでした。異常? そうかもしれませんね。でも、もう何があっても驚きはしませんでした。そもそも最初は竹の中に入っていたんですから(笑)」
――確かに(笑)。それで、成長したかぐや姫はどうなったのでしょうか。
「これが、大層美しい娘に育ちましてね。この世のものとは思えないほどの美しさなんです。親の贔屓目で、というのもあるかもしれませんが……あの子がいるだけで、家の中が光で満ちているようでした。どんなに苦しくつらいときでも、あの子を見れば穏やかな気分になれた。多少不思議なことがあろうとも、あの子は確かに私たちの子でした」
――わかります。私も小さな息子がいるんですが、仕事を終えて家に帰って息子の寝顔を見るのが楽しみで楽しみで。
「いいですよね。嬉しかったですよ、もう自分には手が届かないと思っていた幸せでしたから。そして一年ほどが経ちまして、年齢でいえば一歳なんですが、外見は十四歳ほどになりました。そろそろ
――なるほど、それで『かぐや姫』と呼ばれるようになったと。
「はい。名付けというのは一大行事ですから、このときは大勢の人を呼んで祝宴を開きました。竹から出てきた金がなければ、とてもこんな豪華なことはできなかったでしょうね……三日にわたって詩歌や舞など色々なイベントを催しました。素晴らしい時間でしたよ。あの子も嬉しそうで」
こうして、かぐや姫と名付けられた少女――いや、裳着を終えたので女性と呼ぶべきか――の評判は都じゅうに広まった。
その美しい姿を一目見ようとして、世間の男たちは皆、貴賤を問わず屋敷に押しかけた。中に入れてくれないとわかれば屋敷の周囲をうろつき、壁に穴を開けて垣間見しようとした。
しかし無駄であった。かぐや姫は屋敷の中心にある部屋で生活しており、外から見ることは不可能である。おまけに家の中の使用人もその頃はかなりの数になっていて、よほど近しい者以外はかぐや姫の姿を見ることさえできなかったのだ。
いくら通っても姿を見ることさえ叶わないので、やがて諦める男たちが増えてきた。屋敷を訪れる人の数は一人減り、二人減り……とうとう最後には五人の色男を残すのみとなった。この五人は幾度断られても決して挫けず、昼夜を問わず屋敷を訪れて面会を申し込んでいた。どこからその情熱が湧いてくるのか、と疑問に思うほどに足繁く通ってきていたのである。
その五人こそが、後にロケット製作の指揮をとる人物たちなのだ。
育ちの良く、食べることが大好きなお坊っちゃまである
考えるより先に体が動く体育会系男子、
最高位にして最高齢、落ち着きのあるダンディな佇まいの
勇気と知性を併せ持つ色男、
論理的思考を得意とする理系男子、
彼らはかぐや姫への思いを次々に訴え、手を替え品を替え、求婚を続けた。
だが、かぐや姫は頑なに会おうとしない。それを見かねた翁は、かぐや姫にこう言ったという。
「私もね、この歳になるといつまで生きられるかわからない。おまえの結婚を見ずに死ぬようなことがあっては心残りだ……と。ええ、そう言いました」
しかし、それでもかぐや姫は気乗りしない様子だったという。
「あの子は、こう言ったんです。『しかし、どうやって選べばよいのですか。顔も知らず、ただ求婚された中から適当に選んでしまうのはリスクが高すぎます。DV男だったり浮気性だったりする可能性が捨てきれないではありませんか』とね。まったく、返す言葉もありませんでした」
かぐや姫の言うことも、至極もっともである。とはいえ、翁がかぐや姫のためを思って言っていることは承知していたらしい。育ての親に心配をかけ続けるのも忍びないというかぐや姫なりの優しさだろうか、やがて少しずつ、彼女は結婚について前向きに考えるようになっていった。
そしてある日、翁と
「私が出した条件をクリアした人となら、結婚してもよいと思っています」
こうして、五人の求婚者たちが中庭に集った。ある者は花束を持ち、ある者は心を込めて書いた手紙を持参した。皆が固唾を飲んで見守る中、一人の女性が奥の部屋からしずしずと進み出てきた。
かぐや姫である。
その美しさたるや、
求婚者の一人である
「ええ、極楽へと誘われているようだというか……見る麻薬というか……目から入った幸福が全身を駆け巡るような心地でした。その後三日は夢精が止まりませんでしたよ」
さて、五人を前にしたかぐや姫は厳かに告げた。
「まずはこれまでの非礼をお詫びいたします。私がなよ竹のかぐや姫です。私が皆様にこうして姿を見せたのは、結婚について、とある条件を申し上げるため。ここにいらっしゃる皆様全員と結婚することはできませんので、私が提示する条件を満たした方とのみ結婚させていただきます。よろしいですね? 条件は極めて単純。今から私が申し渡す物を持ってきてください。そうですね……せっかく五人いらっしゃることですし、五行にまつわる至宝といたしましょうか」
そして五人それぞれに異なる品々を申し渡した。五行とは、万物は
どれも実在するかどうかさえ定かでないほどの珍しい物品である。
しかし、求婚者たちは奮い立った。指示されたものを探し出し、持参すれば、この美女と結婚できるのだ。
「必ずや、言われた通りの品をお目にかけましょう」
男たちは口々に誓い、屋敷を飛び出していった。ある者は大量の従者を連れ、ある者は信頼のおける部下と少人数で、それぞれ西へ東へ、至宝を求めて旅立っていった。そしてその後、誰一人として戻ることはなかったのである。
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