短篇集(仮)

貴音真

第1回「瞳」

 息苦しさを感じて目を覚ました俺の目に飛び込んできたものはいつもの光景だった。


 暗闇からこちらをじっと見つめる2つの瞳。


 真っ暗な部屋の中でその瞳だけがまるで光っているかのようにハッキリと見えている。


(またか…)


 ここ最近、毎日のように繰り返される現象に慣れてしまった俺は驚くこともなかった。

 いつものようにそれを消すためにテレビを点けようとした。


(動けない…)


 こんなことは初めてだった。

 少し前から起き始めたこの現象はいつも決まってテレビを点けて終わる…それだけの現象のはずだった。

 それが今回に限って体が動かない。

 瞼を閉じることも出来ずに暗闇の中で光る瞳と目が合っているのを感じる。

 天井近くに浮かぶ瞳がゆっくりと降りてきているのがわかる。

 その瞳が手を伸ばせば届きそうな距離まで降りてきたときにやっと気がついた。

 それは瞳だけでなくうっすらと輪郭があり、顔の形をしていた。

 そして、瞳が光っていたと思っていた部分、そこには何もなかった。

 あるはずのものがなく、ただの窪みとなった部分から鈍く光る何かがこっちを見ていた。

 さらに近くに来たとき、強烈な臭いとともに耳元に聞き取れない言葉のような音がした。


 その後、そいつがどうなったかは覚えていない。

 俺はそこで気を失ったらしい。

 以来、その現象は二度と起きていない。

 寝惚けていた、あるいは夢だったと言われたらそれまでだが、あと30センチくらいまで来たときの強烈な臭いと聞き取れない言葉のような音、そして目玉がないのに何かがこっちを見ていて、確かに目があっていた感覚、それらは鮮明に残っている。

 おそらく目玉は腐り落ちていて、あの臭いは人が腐った臭いで、音は何かを言っていたんだと思う。

 ちなみに俺は所謂霊感というものはない。

 霊感がないから最初にそれが始まったときも目の錯覚か何かと思ったし、テレビを点けたら終わったから気にもしていなかった。

 ただ一つ、言えること。


 もうあんな体験はしたくない。













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