それでも兄妹弟(きょうだい)

@shinonome862

第1話 空飛ぶ3歳児 これが徳松家

暖かい春の陽気。非常に気持ちが良い午後だ。公園は多くの人で賑わっている。青い空、白い雲に小鳥たちの鳴き声。ゆっくりとした時間が流れていく。そして、目の前には3歳児が空を飛んでいる。


「一体何故」


俺はそう呟きながら空飛ぶ3歳児を追うのだった。







~1時間前~



俺の名前は徳松 竹康(とくまつ たけやす)19歳。

近所の大学に通う、大学2年生だ。


「兄貴~。まー坊が公園行きたいんだって。一緒に行こうよ~。」


これは俺の妹、徳松 佳苗(とくまつ かなえ)13歳。

近所の中学に通う、中学2年生だ。


なんか、今すごく面倒な事を言われた気がする。


「にーにー、こーえん!こーえん!」

「ぶーらんこ!ぶーらんこ!」


これは俺の弟、徳松 雅康(とくまつ まさやす)3歳。

近所の幼稚園に通っている。


「んー、いや、俺はいいから2人で行ってこいよ。」


「なんでさ?天気もいいし、今日は公園日和だよ!」


「こーえん!こーえん!」


「いや、いいよ。ろくな事が起こらないから。」


「いやいや、お兄様。かわいい妹と弟が望んでいるんですぜ。公園で思いっきりかわいい妹と弟を披露しますぜ~。」


何を言っているのかよく分からない。こいつらが大事なのは確かだが、この2人と公園には心から行きたくない。理由はシンプルで、何かが起こるからだ。


こいつらと出掛けてトラブルが起きなかったことは無い。大抵は他愛のないことだが、大体の事後処理は俺がすることになる。




先週もかなが近所のコンビニで、当たったアイスの棒を交換するからと、まー坊を連れてついて行った。


コンビニを出ると、かなとまー坊の手にそれぞれアイスが1つずつ。


かなの手には交換したアイス。


まー坊が手にしていたのは、当たりのシステムなどない、超高級アイス。


慌てて追いかけてきた定員さんとコンビニに戻り、まー坊が万引き未遂をしたアイス代400円を支払った。


一度店の外に出してしまったため、返品は出来なかった。


家に帰ってアイスを食べるまー坊とかな。


「そいつを選ぶなんて、まー坊は違いの分かる男だな!www」


「わかゆー!!うめー!」


などと、違いの分からない2人の会話を聞いて無性にイラついたのを覚えている。


400円というアイス3つ分の金を失ったのに、俺はアイスが食べられなかった。




「先週のアイス事件を忘れたのか?」


「いやいや、兄貴!根に持ち過ぎだから!!」

「過ぎたるは及ばざるがごとしよ!」


「いや、お前意味わかってないだろ。」

「意味ちげーよ。」


「細かい事を気にする男子は生き残れないぜ!」

「それに今日はあたしがまー坊と一緒に遊ぶから、兄貴には面倒かけないよ!」


デジャブだ。というか、無限ループと言ってもいい。


「いや、俺課題もあるし。」


「そんなの後であたしが手伝ってやるよ!www」


「いや、お前自分の課題もろくにやらないだろ」


!?


急にお尻付近に違和感を感じて振り返ると、まー坊が無言でカンチョーをしてきた。


無表情なのが妙に怖い。


何故だ!?てかなんで今!?


「こら、まー坊何してんだ!?」


「ぎゃははは、兄貴~!隙ありよ!」


かなが下品に笑う。


「いや、お前に隙は見せてねーよ!」


!?


何故2発目!?

かなの方を見た隙に2発目が刺さった。

てか、なんでカンチョーして無表情なんだ。


「あーこりゃあ、ガオレンジャーの影響だな!」


ガオレンジャーとは、正式名を猫科戦隊ガオレンジャーという、毎週水曜の夕方に放送される、いわゆる戦隊ヒーローだ。

まー坊はこの番組が大好きで、毎週必ず見て、ほかの日は録画したガオレンジャーをヘビロテする。


「戦隊ヒーローの必殺技がカンチョーはねーだろ。」

「そんなの放送したら、必ず殺られるのはガオレンジャーの方だろ。」

「大人の事情で。」


「ぎゃははは、兄貴よ!こりゃあ行くしかあるめえよ!」


「そのぎゃはははって笑うのはやめろ。」

「話し方と合わせて山賊だよ?」


こいつはこいつで一体何の影響を受けたんだ。





結局、まー坊が無言で3発目を構えたところで、俺が折れた。


確かに今日は気候も良く、過ごしやすい。


ずっと家に居るよりもはるかに健康的だ。


そんな訳で公園はそれなりの人で賑わっていた。


「じゃあ、兄貴。あたしはまー坊と遊んでくるからな。」

「知らない人に声かけられてもついていくなよ!」


俺はそのセリフをそのままバットで打ち返し、2人が遊ぶブランコの近くにある木陰のベンチに腰をおろした。


しかし、側から見ていて、公園ではしゃぐ2人はかわいらしい。

相手にしたいような、したくないような不思議な気持ちだ。

などと考えているうちにまぶたが落ちてきた。

そういえば最近課題に追われて、あまり寝ていなかったかもしれない。

俺はまぶたが促すままに、ゆっくりと目を閉じた。







「兄貴!!」


公園中に響くようなかなの声で俺は不意に目を覚ました。


目を覚ました俺には、一瞬で様々な情報が入ってきた。


暖かい春の陽気。非常に気持ちが良い午後だ。公園は多くの人で賑わっている。青い空、白い雲に小鳥たちの鳴き声。ゆっくりとした時間が流れていく。そして、目の前には「満面の笑みで拍手をする」3歳児が空を飛んでいる。


「一体何故」


俺はそう呟きながら「笑いながら拍手をする」空飛ぶ3歳児を追うのだった。











考えるよりも早く、俺の体は動いていた。


10メートルは飛んだであろうまー坊を、俺は地面すれすれでキャッチした。


膝が痛い。ジーパン越しに擦りむいたのが分かる。


腰も痛い。3歳児とはいえ、飛んでいる14キロを捕まえるのはかなり負担がかかる。


慌てて近づいてくるかなを思わず怒った。


「かな!何やってんだ!」

「大けがするところだっただろ!」


「ごめんなさい。あたし。。。。」


「分かったもういいよ。」


今にも泣きだしそうなかなを見ていると、急に怒れなくなる。

昔からそうだ。

それに反省している人間を責める気にはなれない。


「で、なんでだ?」


「え?」


「どうして昼下がりの公園で、3歳児が空を舞っているんだ?」

「それも拍手しながら。」


俺はまー坊を立たせて、服についた砂を払いながら聞いた。


「最初は普通にブランコで遊んでたんだよ。」

「あたしが、まー坊の背中を押して揺らしてたんだ。」


かなは声を絞り出すように、話し始めた。


「うん」


「そうしたらまー坊が、急に目が痛いっていうからさ、」


「うん」


「目にゴミが入ったと思ったんだ。」

「でも、ブランコの途中で目を触ったら危険だろ?」

「結構勢いもついてたし。」


「そうだな」


「だから、ブランコを止めて、見てやろうと思って、とりあえずまー坊に言ったんだよ。」


「なんて?」


「パチパチしてごらんって」


「うん?」


「そしたら、まー坊のやつ目をパチパチするんじゃなくて、手をパチパチしたんだ。」


「。。。」


「それで両手を離したもんだから、ブランコの勢いのまま飛んでいったんだ。」


「落語みたいな話だ。」


俺は、なんとも言えない気分になった。

怒るに怒れない。笑うに笑えない。


ただ、その後に冷静になっていく自分を感じた。

安堵の気持ちが大きくなっていく。


「でもまあ、無事で本当に良かったよ。」

「怪我でもしたら大事だからな。」

「なあ、まー坊?ってあれ??」


俺はそこにいるはずのまー坊を見たが、まー坊がいない。


「おい、かな。まー坊は?」


「え??」


2人で周辺を見渡す。


すると遠くで泣き叫ぶまー坊の声が聞こえた。


2人で慌てて駆け寄ると、パンダの形をした、遊び方がよく分からない遊具の近くで、尻餅をついているまー坊を見つけた。


よく見ると指先から血が出ている。


「こいつ。。。パンダにカンチョーしたな。」


爆笑するかなを尻目に、まー坊を担ぎ上げ家に帰る。


見たところ、折れてはいないようだ。


良かった。


というか、怪我はするのかよ。。。








家に帰り、俺とまー坊はそれぞれ消毒をして、絆創膏を貼った。


そんな事をしているとすっかり外は暗くなっていた。


「やっぱり、何か起こったか。。。」


俺は誰にも聞こえないようにぼそっとつぶやいた。


あいつらとはもう絶対出掛けない。


今年に入って23回目の誓いを立てた。



でも、これが徳松家なのだ。

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