第8話

 見てからの回避は困難。否、無理!

 ザガンが伝えし結論にバジラは悔しがるかとそう思われたが、大太刀の影に隠れながらの二人、ザガンが彼女を見るとその表情はまだ何か希望を持っているようなそんな表情をしていた。


「……兎に角、こうなっては残る里の皆の命が大事。もし本当に神がに宿っているのだとしても、本当まことに聡明であるなら分かってくださるはず――」

「……それだけは、ダメ」

何故なにゆえ!?」


 ザガンこそ悔しくないはずはない。仲間入りを果たした途端、その野郎衆の仲間たちを皆殺しにされた上、女も子供もその無辜の命を散らした。


 そして今もこうして大太刀の加護の影に隠れていなくてはどうしようもない状況。勝ち目のまるで無い、どうしようもない戦局に望まぬ降参が最上とあっては彼のはらわた、煮えくり返った挙げ句口から踊り出そうなほどである。


 それでも里者の全滅、ひいては里の壊滅に比べればとその苦渋を敢えて飲もうとしていた矢先のバジラの交戦意欲を前にザガンは声を荒げた。


「御神体を、アレだけは渡しちゃダメなの!」

「なんなのだ、御神体とは! アレはなんだと言うのだ!?」

「お願い、ザガン! もう少しだけ時間を……」


 質問に答えるでもなく懇願するバジラにザガンは歯噛みをしながら、ようやく痺れも抜け復調の兆しを見せる身体をさっそく行使し彼女を脇に抱えると残る左手に大太刀の柄を握り込む。

 片手で扱おうとでも言うのか、竜人であるバジラでさえ両手でなければ持ち上げられない得物である。無謀。


 ――たかが重量、なにするものぞ!!


 こめかみの血管を膨らませ、全身の古傷から鮮血を噴出させ全精力を右腕に込めたザガンは声を張り上げながら、そして遂に大太刀を持ち上げることに成功した。驚愕に目を丸くするバジラ。


 大太刀の影より姿を見せるは接近し、盾として彼らが隠れる大太刀を剥ぎ取ろうとしていたシュテンの朱き姿。しかし、今はザガンも血により赤く染め上げられた姿。


 ――これで差は縮まった!!


 予想外の行動に面食らったシュテンは僅かに弾丸の射出体勢を鈍らせてしまう。そうしている合間にもザガンは肩に担ぎ支えていた大太刀を薙ぎ払い、シュテンが差し伸べようとしていた左手を叩き逸らす。閃きと風切り音が鳴り、彼の五指の先より放たれた弾は彼方へ迷走し去る。


「なんの……ムゥッ!?」


 しかし超鋼に護られた左手は健在。すぐさま右手を突き付けんとシュテンはしたが、そこにはもうザガンもバジラも居ない。


「――――ッ!!」


 大太刀を薙いだ後、地面へと突き刺さったそれに振り回される勢いを利用し跳んでいたザガンは瞬く間にシュテンの側面へと回り込んでいた。そして血飛沫を舞わせながらザガンはシュテンが動作するよりも迅く大太刀を再び振るう。


 そこにはもはや声は無く、ザガンの渾身を込めて振るわれた大太刀はシュテンの胴を強かに打ち据えた。シュテンから苦痛に呻く声が挙がり、超重たるその体躯が、地面にめり込むその足が地より離れて宙を舞った。


「ぐぷっ……なん、のォ!!」

「――!!」

「ザガ――」


 しかし恐るべしシュテン! 彼は宙に舞った体が完全に死に体になる前に、強引に右手をザガンへと突き付けていた。

 着地を顧みぬ照準! それはザガンも行った決死の心意気!!


 対するザガンは二振りで大太刀に全ての精力を吸い取られたかのように身動ぎ取れず、シュテンの照準に気付いた時にはそれから逃れる術を成すことが叶わなかった。唯一出来たことと言えば、それは抱えていたバジラを手放すことくらいである。


 そして閃くシュテンの指先。放たれた神速、その一発がザガンの脇腹を直撃し、噴き出した鮮血が血に落ちたバジラの顔を塗らした。

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