第31話 ベルリン・天使の詩

1987年の西ドイツ、フランス合作映画です。


もし、あなたが今までに観た映画の中で、美しい映画ベスト5を挙げろと言われたら、私は間違いなくその中にこの1本を入れるだろう。


そして間違いなく、これはヴィム・ヴェンダース監督の代表作であり、80年代の洋画の頂点に立つ作品であると思う。


それほどこの映画は美しかった。


まず、この映画の予告編で紹介されている、欧米の当時の新聞の評価を見てみよう。


・詩情と人間愛に満ちた映画の誕生。

 ドイツ「フランクフルター・アルゲマイネ」紙


・はかり知れないやさしさ。傑作。

 フランス「ラ・リベラシオン」紙


・驚異的に美しい映像。夢のような演出。

 イギリス「タイム・アウト」紙


・ベルリンを描き出す美しい抒情。

 スペイン「エル・パイス」紙


・美しく、深く、ロマンチック。

 アメリカ「ヴァラエティ」紙


・奇跡が静かに燦然とここにある。

 フランス「ル・モンド」紙


・何度でも見たい、心こもる傑作。

 ドイツ「ディー・ヴェルト」紙


おそらく、こうした賛辞は限りなくあると思う。


天使(ブルーノ・ガンツ)が主役である。天使と言っても普通の服を着た、中年に近いおじさんだ。そうした天使が街のあちこちにいる。

そして彼らはどうやら子供には見えるらしい。


彼らは街で人々を観察したり、人々に寄り添ってひそかに勇気づけたりし、その日あったことを報告し合って暮らしている。


ある日のこと。ブルーノ・ガンツがサーカスを見て、そこのブランコ乗りの女性に恋してしまう。


彼は、天使であることをやめ、人間になって人間として生きることを決意する。


人間であることの素晴らしさ。

たとえば冷たい冬の空気の心地よさ。

たった一杯のコーヒーの旨さ。

そして人を愛することの素晴らしさ。

これがこの映画のテーマのひとつだと思う。


もうひとつのテーマは、それに重なって、まさに詩のように綴られるベルリンという町についての、作り手たちの様々な考察と想いだろう。


この映画は「子供が子供だった頃〜」という詩で始まり、全編に詩が綴られていく。言葉が、映像が、音楽が、全て類い稀なる美しさをたたえている。


最後はブランコ乗りの女性と、もと天使のブルーノ・ガンツが結ばれる。ハッピーエンドである。


そしてこれ以上、この映画の美しさを称えるのはやめにしよう。私よりも、最初に書いた新聞各紙の言葉が、充分それを伝えてくれるだろうから。


最後に、刑事コロンボで一世を風靡したピーターフォークが本人役で出演し、いい味を醸し出していたことを付記しておきたいと思う。


追記

普段の、何気ない物事、ホントに冷たい空気に手をこすったり、一杯のコーヒーを味わったり、気持ち次第で、世界は美しくなるということを、この映画は教えてくれます。

とりわけ、恋をするーこの時これを作った監督も主人公のように恋をしていたのでしょうー人を愛する。その気持ちは、世界を輝かせます。


この映画に満ちているもの、それは何よりも、この監督のこころ、それも恋するこころなのだと思います。

レネ 2021年6月17日

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