若い日
まだ寒さが残る、もう少しで春に差し掛かろうかという三月上旬、某日の夜更け。古びたボロボロの一軒家、蛍光灯の人工的な乳白色に照らされた狭い空間の冷えた便座に、女が用を足すでもなく腰掛けていた。
タンクの上、女の後方には板を張っただけの簡易な棚が取り付けられており、そこへ近い未来に使われるのであろうトイレットペーパーが三つ、一時的に置かれている。うち一つへと乗せられたiPhoneから、某ロックバンドの名曲が大音量でリピート再生されていた。
女の右手に居座るWinston.CABINが、
頭の中では、世間への苛立ちや自身に対する嫌悪、漠然とした未来への不安がグルグルと渦を巻いている。
"もう二度と戻らない日々を俺たちは走り続ける"
男性ボーカルが歌う。
女は若さ故、血気盛んに湧き上がる活力を上手く生かせぬことで不完全燃焼を起こす、心の奥底にモゾモゾと
いつの間にか涙が溢れ、流れる寸前でどうにか耐えている。瞬きをするといよいよ結界が破れ、温かく冷たい涙が頬を伝う。下を向き、流れ続けるのを拭うでもなく左手で顔を覆う。
殆ど嗚咽のような、声にならない声で男性ボーカルと共に歌い出す。
「"いつの日か輝くだろう今宵の月のように"」
右手のCABINは、灰を長くしていた。
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