繋がるものの不快指数は
麻城すず
程度は如何ほど
私みたいなのは多分、世間一般に言うところの潔癖症というやつなのだ。
電車の吊り革に掴まれなかったり、外や学校のトイレに入る事が出来なかったり。例えば水道の蛇口を捻るときには、触れた途端に目に見えない何かが指から腕を伝い、口までザワザワと這い上がってくる様を想像してしまったりする。
もちろん他人に直接触れる事など論外で、色々とにかく、これは不便極まりない。
※※※
「美加理は…ダメだっけね」
「あ、うん。悪い」
「いやー、別にいーよぉ」
部活の後、着替えをしていた陸上部の部室はすごく蒸し暑くて。
味見に、と皆で回していたジュースの缶は、そのまま私の前を素通りしていく。
それを何ともなしに見送っていると、ジュースの購入主である絵衣子が顔を寄せて来た。
「…何?」
その距離が近すぎて、私も合わせて後ずさる。
「美加理はさぁ、いつからダメなわけ?」
怯まず、さらに距離を縮めようとする絵衣子に右手を突き出して止まるように促す。素直に動きを止めたのにホッとして私は答えた。
「いつから…、いつからかな。気付いたらもうこんな感じだったんだよね。昔さ、布団に触るのが気持ち悪くて真夏に冬の手袋はめて寝て、親にめちゃくちゃ怒られた事があるよ」
「何それ」
「さあ? なんだろうね」
言いながら、まだ途中だったブラウスのボタンを留めていると、小学校から一緒だった紗綾が笑いながらフォローする。
「別に不自由してないもんね。みかはちょっと繊細なんだよ」
「いやー、性格はそうでもないだろ」
パンツ丸出しで偉そうに言う知佳に「スカートを穿けよ」と由佳利が言って「でも、これからどうすんの」と今度は私に向かって言った。
「聞いたよー、小笠と付き合いだしたんだしょ?」
「そーそー、あたしもそこを追究したかったわけなのさ!」
我が意を得たりとばかりに絵衣子が叫ぶ。なるほど、そういう事なのか。紗綾をちらりと見ると、慌てて両手をパンと鳴らした。
「ごめんっ! だって紗綾、恋バナ好きなんだもん!! 特に皆、みかの初カレに興味ありまくりだったし!」
昔っから口が軽かったな紗綾は。こいつに相談した私が悪かった。
「まー、別にいいけどさ」
溜め息混じりに言うと、それを待っていたかのように皆が一斉に詰め寄ってくる。
「何、どっちから告白!? 付き合ってどのくらいなの?」
「手ぐらい繋いだっ? キスは? エッチは……まだか」
人の胸元を見下ろして納得するな。まだジャージのままの下半身を着替えたいなと思いつつ、私は簡潔極まりない答えを返す。
「あっちから。2週間。暑いから嫌だって拒否ったからなし。キスもしかり。その先も以下同文。他に質問は?」
私の答えに、そろそろと挙手する由佳。
「せんせぇー、質問」
だれがあんたの先生だと思いつつ
「はい、七瀬くん」
「あのぉ、ジュースの回し飲みすら出来ない美加理ちゃんに他人との直接チュー出来るのかどうかがすっごい気になるんですけどぉ」
「馬鹿ね由佳! 愛さえあればなんとかなるのよ!」
「知佳先輩っ、さすがですぅ。やっぱり世界は愛で回ってるんですね!!」
……って、お前ら何ごっこだそれはと脳内で密かに突っ込みをいれる私に絵衣子が笑う。
「もし小笠に迫られたらどうする? 手は繋げるの?」
「…頑張れば多分なんとか」
「じゃあキスは?」
キス…、小笠とキスかぁ。しばらく考えてはみたものの、
「ダメだ、いまいち想像できない」
「えー、何それぇ」
不満げな絵衣子は少し遠くをみたが、ふと何かを思いついたらしくおもむろに携帯を取り出し操作を始めた。
「最近は便利なものがあるのよ」
じゃーんと見せられた画面には文字の羅列。よく見ればはやりの携帯小説だ。
「こういうの読んでイメトレすんのよ。いい考えでしょ? これお気に入りのやつなんだ。読むわよー、よく聞いてんのよ! えーと……」
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