第2話 お掃除

 起きると午後一時だった。昨日のG騒動のあと結構飲んだからな……。合間に水は飲んでたから頭は痛くないのが幸いだ。今日は土曜だし、のんびり過ごそう。っとその前に腹減ったから何か食うか。と思ったら、朝食べるパンがない。


 困った。俺は朝はパン派なのだ。米ならあるが朝から米はキツすぎる。今は朝じゃねえよっていうツッコミはノーサンキュー。起きて最初に食べるご飯が朝ご飯。異論は認めない。


 仕方ないので買いに行くか。俺はそう決めるとさっさと着替え始めた。スーパーに行くだけだし、適当な半袖Tシャツとジーパンでいいか。


 外に出ると、どんよりと重い雲がかかっていた。今は降っていないみたいだし、さっさとスーパーに行ってしまおう。買う物は……、食パンと牛乳、あと安い野菜があれば買っておこう。もちろん酒も。


* * * *


 手早く買い物を済ませて家に戻ってくる。野菜は最近の雨続きのせいか高かったので今回はスルー。恨むぞ梅雨。家のドアに鍵を差し込もうとすると、ちょうど昨日の騒動の主犯と会った。服装は白Tシャツとジーパン。俺と似たような格好なのに、彼女は上手いこと着こなしていた。


「こんにちは、難波なんばさん、昨日はありがとうございました」


「こんにちは南正覚みなみしょうがくさん、どうも」


「あの、お礼のお酒なんですけど」


「ああ、そうですね。部屋は片付きましたか?」


「んーとそうですね~……? あはは」


「片付いてないんですね」


「すみません……」


 はよ片付けなさいよ、もう。あの部屋の状態のまま放置していたぐらいだから、今更って言っちゃあそうだけれども。


「友達に手伝ってもらったりとかしないんですか?」


「あの惨状はなかなか見せられないので……」


「俺には見せておいて?」


「ウッ、すみません……。緊急事態だったもので」


 この様子じゃあ片付けるのにも腰が重いだろうな。なんか放っておけないんだよな妹みたいで。俺の妹も部屋の片付けしなかったもんな……。あそこまで酷くないが。


「追加報酬あるなら手伝いますよ」


「え、いいんですか? 正直お願いしたいです」


「了解です。じゃあ、さっさと済ませてしまいましょう」


「あっ、ちょっと五分ほど待ってもらってもいいですか?」


「分かりました。ピンポンして下さい」


 ひとまず家に入り、買った物を冷蔵庫に入れておく。この時間に腹も満たしておくかということで、食パンもトーストせずにかぶりつく。にしても、見せたらマズいもんでも隠すのだろうか。てか、この立場男女逆だよな。俺はお母さんか。


 二枚目の食パンを食べているときに玄関のチャイムがなる。俺はパンを押し込みつつドアを開ける。


「お待たせしました」


「大丈夫です。じゃあ、掃除しましょうか」


 彼女の家に入ると、昨日となんら変わりの無い汚部屋のままだった。予想通りだけどさ……。


「とりあえず、段ボールはGが湧く原因になるんで早く中身出しちゃいましょう。見られて困るものは無いですよね? 下着とか」


「あ、はい。三箱は食器と台所周りのもので、あとは実家から送られてきた野菜です。」


「うん? なんで食器とかがまだ開封されて無いんですか? 野菜はともかく」


「えっと、お恥ずかしながら……、料理はしたことなくて」


 このお嬢様大丈夫? 今までどういう風に生活してきたのだろうか。


「一人暮らし始めてからご飯は?」


「新入生歓迎期間は結構ご飯連れてってもらえるじゃないですか」


「それ長くて五月まででしょ、今六月ですけど」


「えっと、割と外食で済ませたりとか……」


 外食で? どんだけ金あるの? なんでこのマンション住んでるの? ここ家賃五万ぐらいだぜ。もっと良いとこ住めるでしょ。あと、新歓期間どうの言ってたって事は一年生かな?駄目だ、質問点が多すぎる。


「まあ、なんか、いいや。色々ツッコミどころあるけど。とりあえず掃除してしまいましょうか。今二時前なんで、割と時間ないですし」


「わ、分かりました」


「物片付けていきましょうか。雑誌とかは基本処分で良いと思いますよ」


「はい」


「そういや、昨日も思ったんですけど」


「何でしょう?」


「汚い割に、服は散らかっていないんですね」


「ええ、オシャレは大事なので。服にシワついたら嫌じゃないですか」


「その努力を少しは家の方に向けましょうよ……」


 オシャレには気を配るのね……。女の子ってオシャレが一番大事なのかね。妹もだけど、この前まで付き合っていた子もやたら気にしていたような。元カノのことを考えると、ウッ頭が。


「難波さん、どうしました? 頭でも痛いんですか?」


「いや、大丈夫です。俺段ボールの中身出すんで、部屋に出てるもの片付けてもらっていいですか?」


「かしこまり、です」


 そうして俺たちは手を動かしていき、小島を地続きの陸へと開拓していった。合間に会話を挟みながら。


「まだ自己紹介してませんでしたよね。俺は難波なんばりつ、大学二年生です」


「へえ、やっぱり先輩だったんですねえ。私は南正覚みなみしょうがくあかねです。大学一年生です」


「一年生か。大学はあそこだよね。徒歩二十分ぐらいの」


「ああーそうですそうです。ていうか、ここら辺に住んでる人、基本そこの大学の生徒しかいないですよね」


「まあ、そうだよね。ここら辺大学ないし」――とか。


「サークルは何入ってるの?」


「映画研とバトミントンです。難波さんは?」


「バレーボール」


「身長何センチですか?」


「百七十八センチ。南正覚さんはどれぐらい?」


「私は百六十三センチです」


「女子のなかでは高い方だよね、それ」――とか。


「難波さんどこ出身ですか?」


「神奈川。南正覚さんは?」


「神奈川って超都会じゃないですか!私なんて宮崎ですよ」


「宮崎?宮城とかなり距離あるな。方言とかは?」


「浪人中に全力で直しました」


「全力尽くす方向違くない?まあ、旧帝受かったからいいのか……。ちなみに俺も浪人だよ」


「へえー!同じですねえー」――とか。


 そんなかんやで色々話していると、すっかり四時間経ってしまった。南正覚さんのコミュニケーション能力はかなり高いのだろう。時間を忘れるほど話してしまった。可愛いくてコミュ力高いなんて、もうそれ反則スペック。その分家事には全くと行っていいほど低スペックなんだが……。


「よし、見違えるほど綺麗になったな。じゃあ、俺はそろそろ帰るね」


「あ、難波さん! 難波さん料理しますよね?」


「うん、するけど」


「もし良ければ野菜もらってくれませんか?」


「まじ? ありがたくいただきます」


 南正覚さんが段ボールを開けると、そこには立派な野菜が大量にあった。


「もう、実家から大量に送られてきて正直困っているんですよね。送られたのは一昨日なので鮮度には問題ないかと」


「うわーお……。何この野菜たち。超うまそう。特にこのピーマンとキュウリとか超ツヤツヤだぞ……。」


「難波さん料理上手そうなんで、好きなだけ取っちゃって下さい」


「こんなに立派な野菜がご実家から?」


「うち農家なんですよ。中学の時に父親が突如脱サラして始めたんですけど、結構上手くいっているみたいで」


「野菜も貰えて、酒も奢ってもらうのは流石に申し訳ないな……」


「へ? いいですよいいですよ。凄いお世話になったんで」


 南正覚さんはそう言うが、申し訳ないのは本当。この野菜も見た感じ無農薬野菜だし、丹精こめて作っているのだろう。普通に買うとかなり高価なはずだ。何かお礼は出来ないだろうか。


「そうだ、ウチでご飯食べる?」


 特に考えもせず、俺はそう言ってのけてしまったのだった。







 


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