第5話 幼女は聖女らしく、聖女を演じる
俺の目の前に立ち塞がった銀髪の巨乳美少女。彼女の名はイズ。貴族出身の火属性と風属性に適正があるのだが、彼女の魔力量は尋常ではない。
下級魔法だけで国を1つ滅ぼせるほどの魔力を持った彼女はまさに化け物だ。
「次期聖女様ともあろうお方が平気で殺人を犯すなんてホント、恐ろしいわね」
恐ろしいヤツに恐ろしいと言われた。
……もしかして、俺はここで殺される?
すると身体が震えてきた。おかしい。今まではこういうことは数えきれないほどあったというのに――――――
その答えはすぐにわかった。
ああ、そうか……幼児の身体というのはここまで臆病なのか。
「ねえ、私と取り引きしない?」
「……取り引きですか?」
思ってたよりも優しい声を掛けられ、俺は深く被っていたフードを脱いで、イズのことをジッと見つめる。気がついたら身体の震えも止まっていた。
コイツは目標のためなら何でも利用するヤツだ。そんなヤツが俺に取り引きしたいと言うのなら俺にはまだ生かす価値があるということなのだろう。
ここで殺されるぐらいなら仲良くした方がいい。
「今回は国王を殺さないこと。そしたら今日のことは上手く誤魔化してあげる」
「わかった。でもそれって、次回殺せと……?」
俺がイズに訴えると彼女はくすりと笑い、今回の件を誤魔化す為にそこら辺に適当な魔法を連射し床や壁、天井などを壊し始めた。
「ふふっ、さあどうかしらね? さて、取り引きはしたから、お部屋におかえり?」
イズは俺に向かって風魔法を放つと俺は自分の部屋まで吹き飛ばされた。
「あっ、コイツ処理しないと」
最初に殺した兵士の存在をすっかり忘れてた。カーペットには彼の血が染み込んでおり、既に手遅れという感じであった。これでは処理できないので、聖女風に対処しよう。
「夜風が気持ちいいですね……きゃあっ!? 兵士さん!? しっかりしてくださいっ! ……きゃあああああああッ!!!」
俺は窓を開けて1人演技をし、手袋と黒いローブを窓の外に投げ捨てる。今日は夜風も強いし、ローブと手袋は勝手に何処かへ飛んで行くだろう。
あとはエドワードが来る前に兵士の近くに座って寝たふりをすれば……
――――あれ、なんか……眠気が……
俺は兵士の死体の真横で彼にもたれ掛かる形で眠ってしまった。
それから少し経つと、俺の叫び声に反応した者たちが部屋へとやってきて、大騒ぎとなったのだった――――。
そして、夜食の枝豆を口に含みながら部屋まで走ってきた英雄、エドワード氏はその時のことを後にこう語った。
「アイツは俺の娘を……ティアを殺害しようとした悪党から命をかけて守ってくれたんだ。俺はアイツを尊敬する。アイツこそが真の英雄だッ!」
◇◇◇
翌朝、俺は聖誕祭を行うためのおめかしをさせられていた。
「ティア様、ご準備ができました」
「ありがとうございます」
衣装係りの人に鏡を見せてもらうと、そこには白銀の髪に金色の瞳を持つ聖女という名に相応しい美貌を持つ美幼女がいた。
自分で言うのもアレだが、客観的に見てもかわいいと思う。間違えなく将来は美少女に成長するだろう。
「ティア様、こちらです」
おめかしを終えると俺は馬車へと乗り込み、教会へと向かう。
王宮から教会までは市民による花道ができており、俺は馬車の中から市民に愛想笑いをしながら手を振って教会まで移動したのだった。
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