第37話 メトロニャーム

 -マシューの実家-


「ニャー!(うわーん、マシュー!)」

 あと三日間が勝負、なんて言っておきながら、マシューの顔を見た途端堪えきれずにももは、にゃんにゃん泣き始めた。

「お帰り、もも」

 マシューはTシャツが汚れるのも気にせず、ももをしっかり抱きしめた。


「ニャー‼︎(花ちゃんが、花ちゃんがぁ‼︎)」

 しゃくりあげるももに、

「辛かったね」

 全てを覚ったマシューは、子供をあやすようにその背をポンポンと叩いた。

、とりあえず拭こうか」

「ニャア」

 座布団に、仰向けにそっとももを抱き下ろす。



「あっ」

 タオルを持って戻って来ると、ももは疲れたのだろう、小さな小さな寝息をたてていた。




 -翌朝-


「ももちゃんカワイー、イイコイイコ」

 マシューの妹の冬子とうこと、弟の裕太ゆうたが、かわるがわるももを抱っこしていた。

「ねえ、大丈夫なの?」

 マシューが箸を並べながら、ももに囁いた。

「ニャー(大丈夫だよ。この三日間は八時まで戻らないようにしてもらったから)」

「へー」


 やがてマシューの両親が働きに出かけ、弟妹たちを学校に送り出すと、少し遅い朝食を二人で向かい合って取っていた。

「ごめんね、昨日。気づいたら寝ちゃってて」

「いーよ、いーよ。今日だって、裕太たちがももちゃんと一緒に過ごしたいって言うからさ、無理して頼んだんだし」

「優しいね、マシューは」


 実家に戻ると、二重生活が始まり、むしろヘトヘトになる。

 弟妹たちがももと過ごすのを望んだのは事実だが、それを口実にこの三日間、ももを実家に預かりたいと花に話してくれたのは、マシューだった。


「で? やっぱ先生、お茂さんにぐらついてんの?」

 シャケのおにぎりを食べながら、マシューが繭を見た。

「ぐらんぐらん」

「マジか……」

「ずーっと、ずーっと、好きだった人に、好きって言われたんだよ。そりゃそうなるよね……」

 おかかのおにぎりを、ゆっくりとお皿の上に置いた。

「そっか」

「うん…」

 二人は、また静かにおにぎりを口に運んだ。


「あ、そーだ。今日、留学生のホームステイ先での交流会に誘われてるんだけど、繭も行かない? 先生今日は、昼は学校あるでしょ?」

「交流会?」

「ま、誘われたってゆーか、行きたーいって言ったんだけどね。留学生から借りてる本返す口実に」

「やっぱり」

 繭が笑った。

「明日から先生にアプローチすりゃーいいじゃん。ね、行こうよ」

「うーん、まあ…、平日だしね。実家うち帰っても親もいないし…。行こうかな、せっかくだから」

「良し、決まり。じゃあ、食べたら行こ」

「うん」




 -ホームステイ先 田中邸-


「いらっしゃーい! あ、こんにちは」

 クラスの違う、田中亜実あみがドアを開けた。

 マシューの挨拶の後、

「こんにちは」

 ぺこりと繭も頭を下げた。

「エミリー、フローラ、お友だち来たよー!」


(え?)

 亜実が奥へ声をかけると、やがてパタパタという足音とともに。

「わー、繭だぁー!」

 玄関から駆けて飛びつくように、繭をハグしたのは、フローラだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る