第19話 GIRL MEETS GIRL

「あ、あ、あの。わ、私と…、私と…、えっ映画に…行きません…か」

 ももを前に。

 花が、繭をデートに誘う練習をしていた。

「ニャー」

 チケットを肉球で掻き寄せる。


「ふう」

 花は息をついた。

「でも、もう一応付き合ってるんだものね。普通に誘えばいいのよね」

「ニャー」

「ごめんなさいね、引き止めて」

「ニャー」

 ももは、猫窓からゆっくりと出て行く。


(まあねー、自分で言うのも何だけど、繭って、ザ・生徒会長ってカンジだもんなァー)

 美少女で。

 サラサラの長い髪で。

 んでもって黒髪なのに、光を浴びると透けるような茶髪になって。

 切れ長の大きな瞳。

 成績だってイイ。

 花ちゃんが緊張しまくるのも、分かる気がするんだよね。


 よいしょ。

 猫窓をくぐり、繭のベッドによじ登った。

 最近は繭の部屋で寝ることが多くなった。


(ま、なんだかんだゆっくり出来るしね)

 それに。

 花ちゃんと真剣に向き合いたいというのも、嘘では無かった。

 だって。

 何もかも知ってたら恋の醍醐味減っちゃうし。


 花ちゃんは最近、サイズが合わなくなった白でコットン100%のババブラ&ショーツとサヨナラした。

 捨てようと思って洗濯をして、でもなぜかまた履いてしまう……を繰り返して、一人でぎゃあぎゃあ騒いでいた。


 そんな花ちゃんを見ていたら、可愛すぎてますます好きになったけど。

 -絶対こんな姿、繭ちゃんに見せられないわ-

 って言ってるのを聞くと…。

(まあ、知りすぎてもね)

 ももは、ゆっくり目を閉じた。




 翌朝。


 朝食が済むと、マシューは徒歩数分の実家に戻り、万副さんも買い物に出かけ、寮には花と繭の二人きりになった。

 テレビのあるスペースに、古びた三畳ほどのカーペットが敷いてある。

 繭はそこで横になってケータイをイジっていた。

(めっちゃ見てる)

 まだ椅子に座ったままの花が、ポケットからチケットを出したり、また入れたりしながらタイミングを計っている。

(こっちの方がキンチョーするわ)

 仕方ない。


 -ゴロン-

 テレビの方を向いて、テレビに集中しているテイを装った。

 すると、

「ねえ、繭ちゃんは実家に帰らないの?」

 まずは当たり障りのないことを花が尋ねてきた。

「んー、夕方帰ろうかなー」

「そうなの…」

「でもさー、土曜のお昼まで万副さんに作らせちゃ申し訳ないんだよねー」

 繭が寝たまま、少しだけ顔をもたげて花を見た。

「そっ、そうよね。土曜日まで万副さんにお昼御飯作ってもらうのは申し訳ないわね」

(よし、いい流れだわっ)


「あ、あのね繭ちゃん。な、な、な、なぜか、映画のチケ、チケチケットがあるんだけど…。いっ一緒に…一緒に…観に行かない? これ、一日一組限定の特別な映画なの…。一組だけなら、いろいろと安心でしょ…」

「えっ、うちらだけ?」

 膝立ちになって、繭が花の膝近くに来た。

「うん、だったら静かに観れるね。あ、じゃあさ、二人でお昼食べて来ようよ。先生と一緒なら外食OKでしょ?」

「……うん、そうね。二人で外で食べましょうか」

 花の表情が、ぱっと明るくなった。

 寮生の外食は、保護者か教師が同伴の場合のみ可、となっていた。

「じゃあ、私着替えてくるね」

 繭は立ち上がった。

「え、ええ」

 花が頷く。

(良かったー。すごい、すごい自然な流れだったわ)




 二人だけでゆっくりと映画を楽しんだ後、早めのランチを取っている時だった。

 レジで支払いを終えた女性が、じっとこちらを見つめている事に、繭は気づいた。

 その女性は、やがてゆっくりとこちらに近づいて来て。


「ねえ、もしかして、お花⁉︎」

「え………?」

「お花…だよね。めちゃくちゃ若くなってるけど。そうでしょ?」

「あ……、おシゲ⁉︎」

「やっぱりー! やだあ、久しぶりぃー」

 バリバリのキャリアウーマンタイプの女性が、繭の目の前で花に抱きついた。


 このとき。

(この人だ)

 繭は直感で理解わかった。

(先生が恋文を書いて出せなかった、あの人だ)


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