第9話 ニャン Love

 蒲団を敷いて、正座をして、私は彼女が来るのを待っていた。

 -カタッ-

(あっ)

 猫窓が開いて、ももちゃんがソロソロと確かめるように入って来た。

(あっ、謝らなくちゃ)

「も、ももちゃん! ももちゃん、疵つけるような事を言ってごめんなさい! この通り。許して下さい。ごめんなさい」

 私は、手をついて謝った。


 帰宅後、真中さんと繭ちゃんが、

 -ちゃんとももちゃんにも言っておいたから。きっと伝わるよ-

 って言ってくれていたけれど。

 本当にももちゃんは、私の所に戻って来てくれた。




(花ちゃん。本当に謝罪してくれてる……)

 まあ。

 私もちょっと大人気なかったし。

「ニャー(もういいよ、花ちゃん)」

 私は花ちゃんの腕に擦り寄っていった。

「ゆ、許してくれるのっ」

「ニャー」

「ももちゃーん」

 私を抱きしめて、花ちゃんは再びオイオイ泣き始めた。


 ひとしきり泣いた後。

「ももちゃんは悪くないの」

 呟くように花ちゃんはそう言った。

「私が悪いの。私が小さい人間だから。ももちゃんが羨ましくて仕方なくなっちゃったのよ」

 花ちゃんは寂しそうに笑った。


「いくら、20歳の姿になっても中身は57歳のオバさんなんだもの。今時の子の会話だってわからないし、ケータイもうまく使いこなせないし…」

「ニャー」

「それとね…。ももちゃんにだけ、本当の事教えるわね。私、キスもした事ないの。男の人とも女の人とも、一度も付き合ったことがないの。だから、飼い猫が、自分の好きな人の香りを移して来ただけで、大パニックになっちゃったの。イタ…そう、イタいの、私」


 花ちゃんは、少しだけ。

 少しだけ辛そうに、微笑わらってみせた。


「ニャー(そんなことないよ!)」

 私は両手を広げて届くかぎりの腕で、花ちゃんを抱きしめた。




 介護なんて、一度もしたことのないお姉さんたちが、花ちゃんに文句とか言っても。


 -また、ごしゃがれた-

 先生、いつもそう言ってたよね。

 言い訳もしないで。

 山形で産まれたってだけで。

 山形弁、全然喋れないのに。

 怒られることなんて、全然してないのに。


 -また、怒られたごしゃがれた

 って。

 たった一言だけ。

 その一言で我慢してたんだ。


 私、全部見てきたの。

 猫だけど、見てきたよ。

 私だけじゃない。

 ノラ猫のバースも見てたし。

 ヤモリさんも見てたよ。


 何もしないでさ、あげくに花ちゃん実家から追い出して。

 いつかきっと。

 あいつらの嘘なんて全部バレるから。

 だからね。


 だから……。

 私が先生を幸せにしてあげる。

 うん、決めた。

 私が花ちゃんを、世界で一番幸せにしてあげる!



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