ルミア

黒木悠里

ルミアと反抗


この惑星はもういらない。ルミアより年を何百倍もとった尊い人たちは、そんな内容の話をしていた。もちろんそんな議論をしている人たちの姿も”惑星が必要”かどうかの話し合いを何十回、何百回もしかしたら尊い人たちは何億回と続けてきたのかもしれない。


彼らの自身の職業を惑星選別と呼んでいた。

どの惑星が宇宙にとって必要であるか、もしくはその惑星の年齢が平均惑星の年齢に達しているか、選別をする。

ルミアにとって祖母にあたる女の人がルミアに何十回とそう言い聞かせていた。

でもルミアは、ルミアにとってその議論は惑星選別をしている人たちが自分たちがいかに生を受けているものの中での最高の支配者であるかを示したいだけなんじゃないかとそう見えていた。

それを15の時に祖母にいったルミアは祖母に思い切り頬を叩かれ


「そんなこと2度というんじゃないよ」


といった後に祖母の家の物置小屋にちょうど720時間もの間閉じ込められてしまった。



ルミアが生を受けて17520時間、つまり20年経った日だった。

その日もまた議論をしていた。ルミアも聞いていた。というより尊い人たちと呼ばれる人たち全てが、その話を聞いていた。

議論をしている惑星の名前は地球。広い宇宙の中で最も”人”が多く住む青い星。

ルミアが自分の住んでいる星以外で唯一知っている星の名前であった。正確に言うとすればルミアが名前だけ知っている惑星というのは何百とある。その中で唯一”行ったことがある”惑星、それが地球だ。


ルミアは議論の内容を頭にはたきこむように聞いていた。ルミアはふと頭に思い浮かんだことを同じグレーソファーに座っていた、ルミアとまったく同じ紺瑠璃色の髪の青年に訪ねてみる。


「生き物がすんでいる惑星の選別って始めて見たんだけど、今までそんなことあったの?」


「この議論。どのくらいの人が見てると思う?」


ルミアの質問は跳ね返された

青年のブラウンの瞳はまだモ二ターのほうを向いたままであった。

質問したのは私なんだけどな・・・


「この惑星の人口って100億人くらいいたよね?・・・・・うーん、えと70億人くらい?」


ルミアは24時間に1度発行される紙と周りの人たちのうわさで十分にこの議論が今までとは違う異常なものだと分かっていた。


「--------この惑星に住んでいる人だけならきっとそれぐらいの人たちがこの議論を見ているんだろうと思うよ

ルミアもきっとわかっていると思うけどこの議論は特殊でね、生き物が住んでいる・・・というより知識と科学力、宇宙を少しでも手に入れた生物の住んでいる惑星の選別をすること自体に前例がないんだよ」


ルミアは偉い人たちが紅の椅子に踏ん反り返った姿の見えるモニターに向き直った。


「じゃあ、なんで・・・」


「ルーミーアー。今の議論聞いてたろ。地球の人口は多すぎる。種族的な問題だろうけど・・・・。これじゃ後50年もしたらこの惑星と同じくらいかそれ以上の人口になるはずだろ」


「知ってますー。イルフの馬鹿」


モニターに映っている偉い人は手を挙げている。

”地球へと衝突する隕石のうち、12分の1以上の損失を与えるものはこれから50年もの間ではないと研究ではわかっております”


「馬鹿はお前だルミア。お前、地理と化学サボっているだろ。地球の衛星、あ、月な、月。あれ何でできてるって習った?」


「ジダン石光って言いたいんでしょ、あと、化学はサボってないとかじゃなくてそんな範囲は最近改正されて習ってないだけ


ジダン石光っていうのは、地波光の原石、ちなみに地波光惑星の軸を変えたり、隕石の進行方向を変える、としか言いようがないけど、ああ

そういえばよく偉い人たちが議会を終えた後、その地波光やらジタン石光の採掘場を探すかの見当会を開いてた」


「ん?最近の学校じゃあ習わせないってことか、ていうか前にジダン石光について教えたのは俺だっけか?あーーーーんでな、そのジダン石光を地球人が使ったりしたら大変ね、じゃあ手をうっとかなきゃねって話」


イルフは少し話しすぎたと思ったのか、もうそれから何も言わなくなった。それを察したのかルミアはお尻をあげ、ポンと音を立てて立ち上がった。モニターから聞こえる声をモニターを見て議論をする年を取った人たちの声をシャットアウトして



青い惑星がある。初めはそんな認識だった。

だからどうとか、そんなん関係なくて、ルミアが地球を 切実に 思っていたのは10の時だった。10の時にはまだ、父や母と呼べる人と住まいを共にしていて、どこに行くにも何をするのもみんなたいてい一緒だった。

今思い返してみれば一緒にいられるときの長さがロックでルミアがこれから100年、200年・・・

生きていく年齢と比例するとあまりにも短かったなと感じた。


父が地球へ行こうといった。その言葉をすぐに母は受け入れ、旅行の準備をしたのかわからないくらいの速さで、家族は宇宙船に乗っていた。

両親にとっても宇宙旅行は初めてだったみたいで、10年しか生きていないルミアだが彼らの喜びはかつて見たことがないような笑みを浮かべていた。

地球が見えた時もそうだった

ああ、なんて素敵なんだろう。生きていてよかったわ。

そう言っていた。言葉とはこういう時に出るものなのね



モニタールームから出てきたルミアは特に行くあてもなく家に帰ろうと思っていた。廊下は私の足音さえも反響しない。

無機質。ゴム製の廊下には人も少なく静かである。ただでさえこんな時間だというのに、さらなる静寂が押し寄せる。

地球にいたときはどこにいても、何処へたどり着いたとしたってうるさくて、かろうじて静かだと感じられたのは、滞在場所として用意された部屋の中だけだった。

家へ帰る道のりのエレベーターだって”ドアが閉まります”なんてこれから何百年とこの星で生きていたってしゃべることなどないと思う。無機質なボタン音で始まり、縦に揺れることも横に揺れることもなくいつの間にかポーンという音でドアが開く。

外に出るトランプは私を照らしてくれる。この惑星にはきっと暗いところなんてないんじゃないか、空を見上げれば真っ黒。何処へ行ったって星がきれいに見えるところなんてない。


「私は知ってる」


真っ黒な空の中には光の粒が無数にあること、空気が匂いを運んできてくれること、住みにくい温度があること、立っているだけで汗をかくときだってあること。

地球の青は海の色だってこと。


ルミアは走った。秒速6.2mの足は赤銅色の横に長い建物に吸い込まれていく。ルミアが毎日昼間の9時から16時までは行く所、だから今日は特別。少しドキドキする。中は真っ黒だった。もしかしたら人もいないんじゃないか、ここはもう今日で閉校したんじゃないかとか、そんなんだったら面白いなって思った。2階、実験室

廊下の隅っこに1部屋だけ自己主張の激しい部屋を発見した。

つまり、明かりのついたそこは、誰かがいるんだろう、そしてその誰かはルミアが探しているんだろう。そう願った。

ノブを手にひっかけ押す。

「ナギ先生」

窓際のテーブルで本と書類に目を通していたショートカットの女性は、顔をあげた。


「あらあら、ルミアちゃんじゃない。どうしたの?」


ナギはルミアの先生であるが家が近いせいで授業の時以外はいつもこんな態度だ


「こんばんは、遅い時間にごめんなさい。少し聞きたいことがあって・・・」

「聞きたいこと?あ、そういえば私もルミアちゃんに渡したいものがあったのよ」

「私に?」

「うん、そうそうごめんね、ちょっと中に何が入っているか分からなかったから確認しちゃったんだけど・・・」


ナギは、何十枚もある書類を集めて茶封筒に入れた。


「な、なんか私が知っちゃいけなさそうな・・・・あの、ごめんなさいね」

ナギは気まずそうにルミアに茶封筒を手渡した。


「何が書いてあったの?」


ルミアは気にするそびれもなく尋ねた。


「ち・・・・地球人が月のかけらを拾った。って感じのね」

「そうなの?どれくらいの重さなの?」


月のかけらかぁー地球人はもしかして月に住みたいとか思っているのかな・・・

でも、そんな淡い希望は生まれるものでもあるよね


「100kgあ、重さは関係なくてね」

「かけらじゃないじゃん、でもさ、月ってジダン石光でできてるって言われてるでしょ?」

「そうよ・・・ジダン石光でできてるっていうか、まんまジダン石こーーっていうか・・・」


そういうとナギは今日塩酸を大量にこぼした,テーブルの上に頬を張り付けた。


「ああ、そうね、これ重要機密の書類ね。でも大丈夫よ、地球人はまだ地波光もジダン石光のことも知らないんだから!」

「それでも。私たちロックに住んでいる人たちの中ででも地球に行ったことがある人だっているでしょう?行ったことあるんだったら地球人と仲良くなりたいなーとか思う人とかがロックで情報漏えいしないよう規制を作ったとしても、ぽろっとジダン石光の話をしちゃったり・・・とかね」


ルミアの表情はみるみる青ざめていった。


「どうなるの?」


ルミアは低い声でナギにいった。


「そこまでは、何とも・・・。書類にはまだ月から輸送中って書いてたから、かわいそうだけどまだ、その宇宙船を打ち落としちゃえば何とかなるし、失敗しても、こちら側の政府が本気を出せば、盗むことだってできるからね」

「でも、それって地球側に地球の他にあなたたち以上の生物がいるんですよっていう意思表示になるんじゃないの?」


ナギはルミアの青い瞳を覗き込むようにした


「そう、そうねルミア。じゃあ、あなたならどうする?」

「私・・・なら、こっそり持って帰る」


ナギは冷たく笑った。


「なんてできると思う?本当に、失敗なく?

―――――きっと、地球側にばれちゃうわ。で、そうなる前に倒しましょうって」

「そんなん」

「宇宙戦争ね。もちろんロックの科学力に勝てるわけなんてないんだけどね」

「なら、この紙燃やしたらいいの?捨てたらいいの?」

「おばかさん。そんなことしたって今話をした通り、無駄だってわかっているでしょう?この情報自体機密だけど、お偉いさんにとっては周知の事実。」


ルミアはうつむいた。考えたって事実は事実


「地球人は何も知らないんだよ」

「ええ」

「―――――――――――ナギ先生、そういえば聞きたいことがあったの。そうだった、私は聞きたかったの。ナギ先生が惑星選別を行うことについてどう思っているかってこと」

ナギは一呼吸した。


「私がどう思っていようが、どう思っていまいがこの体制を変えることはできないわ」


ルミアはナギを見据えた。そこにいつもの気さくな笑顔も、授業の時のイキイキした時の表情でもなく、惑星ロックの一市民の大人の顔があるだけだった。


「そうだよね、うん、分かってた。」


もしかしたら、違う回答が出てくるんじゃないかと、うぬぼれていたのかもしれない自分はこらえきれそうのない気持ちが噴出した。

ルミアはドアノブをグルンと回すと、外へ出てってしまった。そこにナギがとめる余地なんてないほど速く。

また、静まり返った空間で気づいた。ルミアの忘れてしまった茶封筒を見ながら、ボウっとした。

「何で、こんな情報を茶封筒で送ったのかしら、ルミアちゃんのお父さんは政府の人だし、お祖父さんも政府の人、しかも位も相当高かったし、間違いをおかすなんて・・・・

まぁ、あて名がないのはお祖父さんの名前なんて書いたら確かに大層な感じがしちゃうものね。私のところに届いたのも住所がほとんど違わないから、まぁ納得いくもんだわ。けど、なんで紙に書いたの?書類にした理由って何なのかしら」


ナギは茶封筒をもう一度あける。中身は出さず封の所をしっかり糊付けする。ルミアにちょっときつく言い過ぎたかなぁ・・・本当いうと私も反対、地球の支援者じゃないけどルミアちゃんが言うように地球と戦争、なんて起こってほしくないし、惑星選別さえ無くなってほしい。ルミアちゃんと同じ意見を持つ人だってたくさんいる・・・。


「けど、”先生”だからな」


ナギは茶封筒にきつくきつく封をすると、読んでいた本をしまった。


戦争、戦争、戦争


ルミアの頭の中で誰かが繰り返しつぶやく。確か、世界史で出てきた単語だった。国語の作文の時にも出てきた。

でも違う、全然違う、コピーのインクで書かれる文字なんかじゃないし、液晶越しに見る単語でもない、もっともっと生き物をナイフで切りこむ感じ、のど元に刺したナイフがのっちゃりした臓器という臓器をぐちゃぐちゃにして出す感じ、


でる、出る出る・・・なんか、喉から


「ウエェェ」


内臓が出てきたと思った。けど出てきたのは空気と唾液だった。

学校から出てきたルミアは、気づかぬ間に家の近くまで帰ってきていた。

そこで自分が気持ち悪くなるまで走ってきたことに気づく。

何に対しての思いか、ただ走ったからの気持ち悪さかはわからなかった。ルミアは混乱していた。


ルミアは自宅につくなり、ベットに仰向けに倒れこんだ。

四本の指を目にかぶせた。

何が悪いんだろう。私は地球が好き。無くなってほしくない。

こんなのただの私のわがままだ、エゴでしかない。でも、じゃあなんで私は地球が好きなの?思考回路が動き始めた気がした。

私を引き付ける”何か”地球にあったからよ。

それは、私だけなのかな?私だけが地球に行っていたの?こんな広いロックの星で

違う絶対違うわ。

突然玄関からガサガサという音がした。郵便受けに紙を入れる音だった。


「新聞?違うか、こんな時間に・・・

―――――なんだろう?」


ルミアは体を起こすとベットから飛びだした。

郵便受けをあけると、夕刊の新聞と手紙が入れてあった。ルミア宛の手紙。


「何処からだろう。これ、住所しかかいてないじゃん」


半分あきれつつもテーブルの上に夕刊を置き、丁寧に手紙を開ける。




ルミア様へ


この手紙は、この惑星の政治に対して、地球滅亡を阻止、反抗する思いがある者たちに届けています。

私たちの目的は、その思いを持った者たちを集めて惑星ロックの政治に対し、正しきことを通しぬくこと



私たちはあなたのような地球に行ったことがあり、なおかつ最年少宇宙パイロットの資格を持つ人材が、私たちには必要不可欠です。

あなたに地球への強い思いがあるのなら、どうか7/28の朝日が昇る前に住所の所へ来てください。

ルミアは急いでドアを開けて外を確認する。

人はいなかった。ゆっくりとノブから手を離し、ため息をつく

この日付は今日から三日後のこと、住所も知っている場所だった。

この手紙の主は、私が地球に行ったことがあると知ってるのね。

ルミアは手紙をたたみ枕の下に隠した。


それから二日が過ぎた。ルミアの心は揺れていた。

地球は無くなってほしくないけど、この手紙の通りにするのはなんだか、違うような気がする。第一怪しすぎる・・・し・・・・


「あーーーーもう、今日中に決めなきゃダメなのにーーーー」

そう、今日は7/27、手紙は7/28だが家を出るのは7/27。

飛び上がったルミアは手紙を学生用の鞄に詰め込むと簡素に食事を済ませ、支度をする。

今日は、小型の飛行訓練の日―――――


ルミアにとっては変わらない日常の一つである。

9:11 ルミアは、家を出た。

9:30 到着。準備体操を終え、ルミアはようやく訓練を行った。いつもと変わらず、完璧にコンピュータで制御された”敵”の物体を撃ち落としていく。ルミアにとって飛行訓練は陸上競技障害物競争であった。

2時間に及ぶ過酷な毎日。

休憩が一時間入った。

ルミアは、食事を済ませるため急ぎ足で食堂へ行った。イスとテーブルの並ぶ食堂とにぎわう人々


「おーい、ルミア」


ルミアを読んだのは同級生である、コトコとチェス。

ルミアもそれにこたえるように手を振る。けれどお弁当を持っていないルミアは、すぐに彼らのもとへは行かず、食堂の食券売り場に向かう。ルミアが食堂のおばちゃんと呼ぶ人に昼食を注文して、受け取るとやっとコトコとチェスの元へ行く。


「あ、今日も席ありがと」


いつも休憩をギリギリにとるので、コトコとチェスに席をあらかじめ取って置いてもらっている。


「うん。どう?どれくらい上手くなったの?」

「この前、2級の試験に受かったんだ」

ルミアは上機嫌に答えた。


「んーーー?2級ってお前・・・・わかんねーよ。地球にでも行けるのか?」

まるで分からんといった顔でチェスがルミアに話す


「あはは、さすがに、私の腕で地球にかぁ・・・・」

ふとあの手紙を思い出した。

「一人でなら、行けると思う。人を乗せてたりしたら、無理かな」


視線をどこかよそにやりながら、ルミアは力なく答えた。


「ん?ルミア。いつもより練習がハードだったの?かな?

なんかいつもより元気がないような」


コトコはルミアを見つめる。ルミアはちょっとうつむき。黙った。

しばらくして


「えと、コトコの言葉の意味が分からなかったわけじゃなかったんだけどそれとは別で、今は地球の惑星選別作業のことを考えてた」


ルミアが言ったとき、コトコとチェスは食べるのをやめていた。


「ほら、今言われているでしょ?地球を選別するとか・・・っての私は反対なんだよね」


「「だろーね」」


二人は同時につぶやいた。


「だからってわけではないけど、私はどうしたらいいんだろうかなって」


コトコはスプーンを置いた


「いやいやいや、ルミア。”どうしたらいいって”もしかして親父さんにでも惑星選別の事をいうのか?」

「あはは、違うよ――――そうじゃ、なくて」

「――――。何かあったの?ルミア、やっぱり今日変よ、あなた」


コトコはルミアの目を覗き込む。コトコは鋭かった。ルミアの言動、行動を見逃さない。


「確かに、あの地球選別を聞いた時にはあなたが反発するんだろーなーとか思ってたけどね、でもなんだかそれだけじゃないみたいね。何?隠してることある?」


コトコの眸は食い入るようにルミアの目を覗き込み離さなかった。流れるような紫の髪が横にかすかに揺れる。チェスもパスタのひっかかかっているフォークを置いた。コトコの強い視線に耐えられなくなった。ルミアは口を開く。


「何かがあった・・・っていうか、私が思っているだけなのかもしれないけど」


コトコとチェス頷づきながらしっかり聞いてくれている。大きなため息をついた。


「驚かないで聞いてよ、

宇宙戦争が起こるかもしれない」

「「え」」


小さい声で、コトコとチェスは言う。

ルミアはすぐさま自分の言動をひっくり返すように


「ごめん、浅はかな考えだよね。ううん、私が思っただけ、そう、思ったことを口にしちゃった、そんなことってあるじゃない?だから事実とは違うと思う。ううん、たぶん違う」


早口でまくしたてるかのようにルミアはそういった。そして思い切りルミアは首を横に振る。そんなルミアを落ち着かせるようにコトコは


「もう、やめなさいルミア。何?どうしたの?何かあったの?全部話してよ」

コトコはルミアの頬に手をくっつけ、首を自分に向ける。するとテレビのモニターを聞いていたチェスが


「コトコ、ルミア―――――あれ、モニター見て」

「も、ちょっと、チェ・・・ス」


そういう頃には、三人ともモニターを見ていた。周りにいた食堂に集まっている人もモニターに釘づけにされている。よく見たことのある議員の映っている映像と記者の声だけの映像


”え―――――では、今日12:00会議で可決された、地球選別の話ですが、具体的にどうやって行われるおつもりですか――――?”

”それは、また一週間後の会議で詳しくですね、検討していくつもりです・・・”



”では、地球は生物の住んでいる惑星ですが、そこの所、どう思われますか”

”・・・・・・”


記事の質問はきっと山のようにあるだろう。一つづつ潰していくように声を投げる


”満場一致の可決と聞きました”

”世論の声ははたして届いているのでしょうか?”


ルミアは立ち上がっていた。ルミアの瑠璃色の瞳は揺れていた。


「地球選別が可決されたの?」


モニターを見ていたコトコとチェスだったがルミアのつぶやきに気づく、その瞬間にはもうルミアは、自分の荷物を持って食堂を走りさっていった。

コトコも急いであとを追おうとするがチェスにいきなり腕を強く掴まれ、急停止した


「ちょっと、何するの?!」


もちろん返ってくるのはコトコの怒った声、ルミアのことをすごく心配しているようだ。


「考えてみろ、ルミアの足に俺らはついていけない。ルミアは心配だけど、どうしようもない。」

「どうしようもないったって・・・」

「次は、生物だろ?行くぞ」

「・・・」


納得のいかない様子のコトコの腕を今度は優しく引っ張る。

コトコとチェスは、ルミアの食べ残しを申し訳なく思いながら返却口に反した。

コトコ達は、食堂を後にして、生物室に向かう。

コトコは少し背の高いチェスと肩を並べながら、ふと疑問に思ったことを言う。

さきほどから右腕の具合がよろしくないのと歩きにくいのもそれが原因だと思う。


「ねえ、チェス、腕が痛いんだけど」

「ああ、握っているからな」

「うん、だから離して」


チェスは目の表情を変えず返事を受け答えする。チェスは不意に窓の外を見た。飛行訓練の演習を行っているようだった。


「手を離してよ、別にもう行こうなんて思ってないから」

「分かった、じゃあ俺の生物の教科書持っていて」


そういうと、チェスはコトコの手を離し、自分の荷物をコトコに持たせた


「え、ち・・・ちょっと、何?チェス」


コトコはしっかりとチェスの分の教科書一式を持ったが表情はまったくもって理解できないわという感じ

そんなコトコを置いて、チェスはポケットに手を突っ込み取り出す。いつも携帯している電話だった。滑るようにボタンを押していき、窓の外の”飛行訓練”を見ながらかける


「”もしもし、チェスです。ルミアがそちらにいってないですか?え?あ、はいなんか具合が悪いとか言ってました。はい。すみません、あ、はい出来ればなんですが、そちらに来たら電話をください。失礼します”」


一通りの会話を終えるとコトコの方を向く。

「ルミアは、じゃあ、何処に行ったんだろうね。」

チェスは、コトコから生物の教科書一式をども、と言って受け取る。


「ん?今もしかして飛行場にかけてたの?」

「ああ、さらにルミアはまだ訓練場にいっていないんだと」

「な・・・・んかさ」


コトコは顔を俯ける


「嫌な感じするよね」


外は晴れていた。コトコとチェスの足音は同じ生物室へ向かっている。

二人の影は彼らの進行方向と同じ道を通っている。

部屋につき、二人は隣に居座る。席はどこでもいいと確か張り紙が貼ってあった。

コトコは口を開く。


「何回も聞くけどチェスって地球には行ったことないよね」

「ああ、大丈夫だ。今年に入ってそのセリフは初めてだから、------行ったことなんてないな」


コトコはチェスをにらむ、しかしチェスは先生を探すそぶりを見せる


「うー・・・私ももっとルミアみたいに速く走れたらなぁー」

「イヤイヤ、それでもだ持久力的にも無理があるからな」

「よくできた子に育ちすぎよールミアぁ」

「ああ、どうしたらああなるもんかね」


とたんにピシャリという地響きのような音がドアから鳴った。

そこには、籠いっぱいにプリントやファイルを手に持ったナギ先生がいた。いつもと変わらない白衣のよく似合うショートの髪のナギ先生は教卓に向かった。


「今日の授業はモニターでDVDを見るから、残念ながら生物の授業はできません。地球の歴史の復習をします。」


生徒たちの瞬間的などよめきと、納得する声を聴きながらナギ先生は今日のニュースのことを知ってか知らずかは分からないが

淡々とモニターの用意をする


「えーー地球の歴史って・・・」


コトコはげんなりする。それぐらいならこの授業休んでルミアを追いかけておけばよかったわとか思っていた。


「そういえばルミアって歴史の授業するたんびに変じゃなかったか?」


コトコはチェスに視線を送る。


「地球の戦争の勉強するたんび悩んでたって感じだったよね、最初は地球の批判ばかり言う教師に怒っているのかな?って勘違いしてたっけなぁ・・・」

「ああ、怒るっていうより悩んでるって感じだったよな。俺達はルミアをからかってたけどな」

「何が気に入らなかったのかな」

「気に入らなかった・・・・ね。でも結構点数良かったよな」

「チェスよりね」


コトコは軽く笑いながら、チェスの顔を覗く


「ハイハイ、始まりますよ”コトコさん”」


チェスは手のひらをひらひらさせる。


「あらあら、そうですね”チェスさん”」


モニターは1800年代~1940年代までの歴史を時代の変わる重大事項を主として映し出していた。

生徒たちはしゃべりあっている者たちもいれば黙って真剣にみている者たちもいる。時間がしばらくたったとき、ナギ先生は動き出した。真後ろから見るのかと思っていた、しばらくしてコトコとチェスの背を叩いた。


「あ、ナギ先生、飽きちゃいました?」


チェスはすぐさまナギ先生に反応した。


「チェス君は失礼なことしか言えないのかな、成績に響かないようにお世辞を言うとかね」

「え・・・えと、どうされました?」


ナギはチェスからコトコに向きかえる


「うん。昨日ルミアが生物室の来たんだけどね、大切な書類を持ち帰り忘れてしまったから渡しておいてほしいの」

「何でナギ先生の所へルミアが?」


コトコの眼球はナギをにらみつける


「なんでって・・・ルミアちゃん昨日の地球選別の会議みていて、私みたいな市民の意見が聞きたかったーじゃだめ?」

「だめです」


そうよね。と言っているように唇を突き出し、真一文字に結ぶ。そのあと、口を開く


「これは私の意見だからね。

ルミアちゃんは地球の惑星選別に反対しているでしょ。彼女のお祖父さんもお父さんも政府の人でしょ、しかもお祖父さんはトップの役職の方なのよ。素直に反対しているんだとか言う事ぐらいすると思うのよ、あんな無邪気な彼女でも、もうそんな事そろそろ意味がないことだって理解しているわ。

だったら次にどうしたらいいんだろうって考えるでしょうね。彼女はその事を常に考えていたわ

彼女がパイロットになったのだって、ただ飛ぶのが好きだからってわけじゃないと思うよ

地球選別だなんて誰よりもショックだったんでしょうね。けれどもそれだけじゃない。チャンスかもしれないって思ったんじゃないかな」

とそこで周りの生徒たちが


「先生、ナギ先生。モニター切れました」


ナギ先生はモニターの具合を見に行った。チェスはそれを見計らって


「コトコ。別にルミアはコトコを頼りにしてなかったわけじゃなくって」

「うん、”何か”ないか方法を探してたんだね」


そしてニコリと笑った。


「今日のルミア、変だったのはもしかしたら何かを見つけたのかもしれないな」


そういったチェスの目を見たコトコは


「どこ行けばルミアに会えると思う?」

「とりあえずルミアが行きそうなとこだろ、まずは家だな」


その直後、ナギ先生の声が部屋内を響き渡らせた。


「はい。チャイムは鳴っていなくても授業は終わりです。もう部屋から出てもいいですが静かに出てくださいね」


ナギ先生はそういうとコトコとチェスにアイコンタクトを交わす

コトコとチェスは、了解のポーズであるように手を軽く頭の横に添える


「ナギ先生ってさ。」


二人は部屋を出る。


「前から歴史嫌いだったよな」


チェスの双眸を暗ました。コトコはモニターを必死に直していた時のナギ先生を思い出す。ちょっと苦笑いをしつつ


「機械を直したいって言う気持ちの程度ぐらいには、頑張っていたと思うけどな」


チェスはコトコを見てポカンとする。コトコはチェスの態度に気づく。チェスの口が開いたかと思うとその唇はそれ以上開くことはなく再び閉ざされてしまった。


「どうしたの?」

「や、別に。たぶん俺のいつもの考え過ぎってやつだよ」


チェスはただそれだけ言うと、時計を見る。


「ルミアの家まで行くぞ」


そういうと二人とも走ってロッカーに素早く荷物を入れて学校を出た。



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