日曜日のホットケーキ

梔子

『日曜日のホットケーキ』

琴乃(ことの)……21歳女性。裕福だが複雑な家庭に育った。今はほのかと二人暮し。

ほのか(22)……22歳女性。引きこもりだった過去がある。琴乃と家族以外の人間が怖い。


琴乃「おはよう……」

ほのか「おはよ!」

琴乃「いつもより早いね。」

ほのか「やりたいことがあって、ほら。」

(ほのか、琴乃にホットケーキミックスの素が入ったボウルを見せる)


琴乃「ん、これは……?」

ほのか「ホットケーキだよ。」

琴乃「ほっとけーき?」

ほのか「え、琴乃知らない?」

琴乃「知らないわけじゃないけど、お家では食べたことなくて……」

ほのか「流石だ……」

琴乃「そんなんじゃないって。」

ほのか「ごめんごめん。」

(琴乃、ほのかが混ぜているのをじっと見ている)

ほのか「琴乃もやる?」

琴乃「へっ?」

ほのか「気になってるみたいだし。」

琴乃「やりたい!」

ほのか「じゃあ、材料は全部混ぜたから、フライパンに流し込もっか。」

琴乃「一気に……?」

ほのか「一気?あー、フライパンいっぱいに作るのもいいね。やってみちゃおっか!」

琴乃「うんっ!あ、それと、ホットケーキの上に生クリームとフルーツを飾ったら素敵じゃない?」

ほのか「いいね。それもやろう!」

琴乃「朝から楽しい。」

ほのか「琴乃と一緒ならいつでも楽しいよ。」

琴乃「ふふっ、じゃあ私生クリーム泡立てて、フルーツ切っておくね。」

ほのか「じゃあ、私はホットケーキのお守り(おもり)してるよ。」


琴乃「でも、今日はなんでまたこんなことしようと思ったの?」

ほのか「んー気分かな。」

琴乃「気分なの?」

ほのか「いや、冗談。だって今日私たちの友だち記念日じゃん。」

琴乃「あっ、そっか。忘れてた。」

ほのか「えー、私は覚えてたのになぁー」

琴乃「ごめんって」

ほのか「いいけど。いや、ね、私は忘れるはずないんだよな。琴乃が助けてくれた日だから。」

琴乃「そんな大それたことしてないよ。ただ、その時のこと振り返ると、二人で進んできたんだなって思うことはあるよ。」

ほのか「二人で、かぁ。最初は琴乃に手を引いてもらってばっかりだったけど、今では一緒に隣を歩けてるなって思う。」

琴乃「ほのかは本当に成長したよね。もう私なんて要らないんじゃないかってくらいに。」

ほのか「そんなぁ」

琴乃「嘘だよ。でも本当に、私の手が要らないくらい強くなったよ。」

ほのか「(いばる感じで)一人で買い物も行けなかったからねっ!」

琴乃「そこ威張るとこ?まぁ、私も一人じゃお出かけさせてもらえなかったし、ほのかと出会えたから自由になれたんだよね。」

ほのか「へへっ……私さ、琴乃のこと縛っちゃってるんじゃないかって心配だったんだぁ。」

琴乃「どうして?」

ほのか「だってさ、琴乃には大切なお家があって大変なのに、私なんかと住んでくれててさ。ただの友達なのに、家族みたいにしてくれてて……いいのかなって。」

琴乃「いいに決まってるじゃん。それにただの、友達じゃないでしょ?」

ほのか「……うん、ありがと。」

琴乃「こちらこそ。」


ほのか「流石にこの量流し込むと、なかなか焼けないね。」

琴乃「じっくりでいいんじゃない?レシピだとフタして20分でしょ?」

ほのか「そっか。ふふっ、楽しみだね。」

琴乃「うん、生クリームの方はもうできちゃったから、冷蔵庫入れとくね。」

ほのか「ありがと。」

琴乃「フルーツは、イチゴとバナナならあるね。」

ほのか「考えただけでも美味しそう。」

琴乃「うん。きっと、うちの母が焼いたシフォンケーキよりも美味しいと思う。」

ほのか「それは言い過ぎじゃない?」

琴乃「そんなことないよ。だってほのかが作ったものだから。」

ほのか「まーたそういうこと言って……」

琴乃「本心なんだからしょうがないでしょー?」

ほのか「なんかイチャついてるみたいだよね。」

琴乃「確かに。新婚さんみたいなシチュエーションだよね。」

ほのか「琴乃はさ、将来結婚とか、家族が欲しいとか、考えてるの?」

琴乃「そうだね……家族か。考えたくなかったから考えてこなかったかも。」

ほのか「あっ、ごめん。」

琴乃「いいのいいの。今は考えたくないとまでは思ってないんだ。」

ほのか「そう、なの?」

琴乃「うん。ほのかと暮らしてから他人と生活するって悪くないなって思ってきたの。ほのか以外の人と生活してそう思えるかは分からないんだけど、本当の家族と一緒にいるよりも窮屈さがなくて、ありのままでいられる気がして。」

ほのか「私も。私はね、他人と暮らすなんて無理って思ってたの。家が嫌いなわけじゃなかったんだけど、外の人のことが信じられなくて……でも、琴乃なら、大丈夫って。思って……」

琴乃「私なら、大丈夫かぁ。ほのかの為になれてるなら、いいんだけど。」

ほのか「でも、ずっと頼ってるわけにはいかないからさ、いつか琴乃と離れなきゃいけなくなった時、ちゃんと他の人とも付き合えるように頑張るからね。」

琴乃「今はゆっくりでいいから。私もしばらくは一緒にいたいし。相手もいないしね。」

ほのか「そう、だよね。琴乃も、私を頼ってよね……」

琴乃「ふふっ、こういう生活させてもらってる時点でほのかには甘えっぱなしなんですけどねー。」

ほのか「あははっ、そういうことにしておくか。」

琴乃「そうしておいて。」


ほのか「そろそろいいかな。よっ、と。」

琴乃「わぁ、美味しそう。」

ほのか「ねっ!お皿、出してくれる?」

琴乃「うん。飾り付けも準備OKだよ。」

ほのか「じゃあサクッとやっちゃおっか!」

琴乃「うん。」


琴乃「でーきたっ!」

ほのか「冷めちゃわないうちに食べよ!」

(目安、一拍おいて。)

ほのか・琴乃「いただきまーす!」


ほのか「んー、いけてる。」

琴乃「お家でもこんな風にできるんだね。」

ほのか「ねっ、こんなおっきいのは初めて焼いたから、上手くいくか不安だったけど。」

琴乃「……幸せ。」

ほのか「えへへ。」

琴乃「毎週焼かない?」

ほのか「そんなに気に入った?」

琴乃「うん、一緒になんか作るのいいなぁって思って。」

ほのか「そっか。」

琴乃「めんどくさい?」

ほのか「ううん。やろ。」

琴乃「やったぁ。」

ほのか「なんか、ホットケーキ一緒に焼くと家族っぽいなって思う。」

琴乃「家族?」

ほのか「うん、ホットケーキってそういうものかなぁって、今日琴乃と作ってみて思ったの。」

琴乃「そうね……よく分からないけど、確かに。一緒にいるって感じがする。」

ほのか「そうそう。血が繋がってなくても、こういう感じがすごく、落ち着くんだよね。」

琴乃「私も。丸くて柔らかくて温かくて……幸せ。」

ほのか「琴乃。」

琴乃「何?」

ほのか「幸せになろうね。」

琴乃「んー?幸せだけど?」

ほのか「もっとだよ、もっと。」

琴乃「……うん。」

ほのか「2人から、1人と1人になっても、幸せでいられるように、なろうね。」

琴乃「そうだね。でも、私たちなら大丈夫だと思うよ。」

ほのか「……うん。そうだね。」

琴乃「ホットケーキ、美味しいね。」

ほのか「うん。また焼こ?」

琴乃「もちろん。幸せになるまでずっと、ずっと焼こう?」

ほのか「うん。」


(琴乃・ほのか笑い合う)

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日曜日のホットケーキ 梔子 @rikka_1221

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