敵は夜の静寂の中から

 クゼル王国 国境沿い




 クゼル王国は南は海であり、北は2つの大国と面した横長の国だ。

 その特性から2つの国を監視するように国境警備隊が配備されている。

 大きな要所となる砦が両国側に1つずつ設置され、国境に沿う形で城壁が建てられているがただでさえ横長に長いだけあり、未だに工事が続き、空いた隙間には巡回の兵士を配備している始末だ。


 散発する帝国との小競り合いがあるくらいであり、今日の夜も至って平穏な夜でいつもの習慣だけに兵士達の気緩み、欠伸を掻く者や仲間内での雑談や中には酒を飲む者までいた。

 ただ、そんな夜を切り裂くような騒音が遠くから聴こえた事で事態が動く。

 帝国側の砦にいた兵士が聴きなれない騒音のような音を聴き音のした方角に望遠鏡で覗き込んだ。




「なんだ?アレは?」




 月に雲がかかりよく分からなかったが、巨大な何かが複数こちらに高速で近づくのが見えた。

 始めは魔物かと思ったが、連合側ならいざ知らず、帝国側から魔物が現れる事は滅多にない。

 馬車にしても速すぎる気がするが、やはり魔物だろうか?などと近くにいた仲間と相談していたが、月明かりが辺りを照らし始めるとようやく、そのシルエットが見えた。


 それは見た事もない人の形をした巨人の魔物……皮膚ではなく何か硬質な物で出来たような外皮に覆われた高速移動する巨人が30機……こちらに向かって来るのが見えた。

 彼らはその存在を知らないので巨人型の魔物と勘違いしたが、それは間違いなくAPネクシル……帝国の黒と赤を基調としたカラーリングのネクシル100式のダガマ帝国正式採用仕様であるネクシル・プラドティスだった。

 すぐに砦に緊張が奔り、警らの鐘が蹴魂しく鳴り響く。




「敵襲だ!敵襲!巨大な未確認の魔物の大群が接近している!」




 それと共に眠っていた者達も全員城壁の上に集まり、対大型魔物用極大魔術支援火器……通称、バリスを魔物に向けて構えた。

 バリスの大型突撃槍のような先端を遠くの魔物に向けて射程に入るまで待機しながら神力を溜め込む。


 大昔とは違い、今のバリスの性能ならS級の魔物の外皮にダメージが与えられるほどの威力がある。

 仮に1発で倒せなくても最大まで溜め込めば、3発の連射が可能だ。


 更に”火炎魔術”系の”極大魔術”を使う事でその効果範囲は広く、合計7門になるバリスがあれば、どんな魔物も倒せると打算していた。

 このバリスこそ王国の最新兵器であり、長年帝国の侵略を止めて来た虎の子の兵器と言うのは誰でも知る周知だ。

 だから、どんな魔物が来てもその勝利に揺らぎはないと確信していた。




「撃て!」




“極大魔術”による圧倒的なジュール熱が魔物の大群に直撃する。

 爆音が轟き、爆煙が空へと舞い上がる。

 その衝撃波遠くにまで響き、クリハ村やアリシアのいる平野にまで届いた。




「よし!効果を確認するぞ!」




 指揮官の指示で次弾発射を止める。

 相手がどんな魔物から分からない以上、無駄弾を撃つ訳にはいかない。

 今の一撃で倒せるならそれでも良い。

 今後の事を考えても敵である魔物の”スクリプト”を無闇に傷つけ、”スクリプト”の解析が難航して、対策が講じられない様な事態になるのも良くないと言う判断だ。

 尤も、今の一撃で倒せない魔物などいるはずがないのだが……爆煙が突然、吹いた海側の潮風に煽られて晴れていき、そこには何事も無かったように紫光の膜を纏い立ち尽くす巨人の魔物の姿があった。




「ば、馬鹿な……いえ!次弾発射だ!」




 指揮官は動揺したが、すぐに判断を切り替え、もう一度、バリスを向ける。

 魔物など人知の及ばぬ怪物だ。

 1発くらい耐えても不思議ではなかった。

 それにこの武装でもS級の魔物にダメージを負わせるだけで完全に殺すには数発は撃たねばならない。

 敵がその手の魔物なら”スクリプト”の採取など気にせず、倒すしかないと切り替えた。

 バリスの次弾が7ヶ所から一斉に放たれる。


 だが、次の瞬間、巨人は飛んだ。

 ……のだ。

 空中に飛び上がり城壁の上を浮遊しながら飛び越えたのだ。

 放たれた”極大魔術”は虚しく地面を抉るだけだった。




「ば、馬鹿な……あり得ない……」




 今までの魔物の常識から考えてもこの巨人は以上だった。

 鳥などのように翼がある訳でもないのに空を飛んでいるのだ。

 こんな魔物は彼らの常識にはなく上空を通り過ぎる巨人に思わず、目を見張る。

 だが、飛び上がった最後の2機が空中で反転、こちらを睨みつけ、黒い謎の金属板のようなモノを向けた……それは知る者が見れば、Rk95アサルトライフルの派生である事を理解できる。


 それが彼らの最後だった。

 火炎を纏った弾丸が彼らの頭上から降り注ぎ、彼らの血肉が焼かれ、悲鳴と断末魔が闇夜に木霊して、城壁は破壊されていく。

 後には城壁が決壊、爆風で破片は四散、城壁を貫通するように道が出来ていた。


 そして、遠くから雄叫びと共に2匹の対面した黒の皮膚と赤の瞳を持つ獅子をモチーフにした国旗を掲げた帝国の騎兵隊を筆頭に多くの帝国兵が決壊した城壁から流れ込むのであった。

“高速移動術”系のスクリプトを装備していた騎兵隊は高い機動力でサバロン平野を猛進する。

 そして、帝国軍はそのまま、サバロン平野を駆け抜け、王国の首都ネメントを目指す。




 ◇◇◇




 一方、ネメントでは、王国に配備した優秀の監視兵達により国境の事態にいち早く、察知しそれがすぐに国王レフトメイス・ハオ・クゼルの耳に入り、臨戦態勢を整え、侵入した帝国兵を迎え撃とうと王国から兵士をサバロン平野に向かわせ、謎の空中飛行型の魔物は首都に配備したワイバーン迎撃用光魔術式のバリスを展開して待機させた。

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