破壊神ガンダイン
ランスロットの洞窟
「そうか……彼は逝ったんだな……」
ランスロットは竜体の姿でどこか悲しげな顔で呟いた。
まるで良い友人を失ったような人の顔をしていた。
「彼とは今日という日の為に色々、語り明かした。時にわたしの事を気遣う事すらあった。素晴らしい男だった。だからこそ、感謝する。あなたが彼の魂を生かし送ってくれた。ありがとう」
ランスロットは慇懃な態度で頭を深く下げる。
心の底から彼の事を憐れみ顧みてくれた事が伝わる。
(嬉しいな……お爺ちゃんの事をこんなにも思い見送ってくれるなんて……ちょっとだけ羨ましいな)
記憶を失う前のアリシアは多分、アリシアの死を悪意に満ちた喜びで送られた。
そんな気がする。
それと比べるとやはり、羨ましい。
あまり人と比べるのは良くないが、そう思えてしまうのだ。
「少々、長話が過ぎたな。彼との約束を果たさねば彼に叱られるな。さて、まずは何が聴きたい?」
「何故、お爺ちゃんがわたしに刃を向けたのか知りたい」
その辺の謎は結局、分からず仕舞いだ。
リバインに悪意は無かったと分かっていてもどうしても心の中の異物のような不快感は消えない。
だからこそ、一番知りたいのはそれだった。
「それは破壊神ガンダインの所為だ」
「破壊神?」
「また、神か……」と聴く前から嫌な予感がして辟易しそうで憂鬱になりそうだ。
「原因はリバインが昔、破壊神ガンダインと戦った事に由来するそうだ」
ランスロットは事の詳細を教えてくれた。
リバインは昔、クゼル王国と言う国に仕えていたが、宰相の策謀で反逆者の汚名を着せられ、世界を放浪した。
汚名を着せられたリバインを雇う国等どこにも無くリバインは魔物退治を生業としながら、生計を立てていたそうだ。
そんなある日、ある街で破壊を司る神と出会った。
それが破壊神ガンダインだ。
”破壊の秩序”はリバインが神の秩序を破壊する者と宣言、街にいる者達はリバインの匿っている罪人として処刑すると宣布した。
リバインはただ、街に立ち寄っただけなのだが、街の市民は神を恐れ、リバインを排斥、リバインは街の外に出て破壊神と戦った。
三日三晩の戦闘の末に破壊神はリバインの手で弱体化、”神封じの剣”で秩序諸共神を封印しようとした時、神を殺そうとするリバインを恐れた信徒や信徒と徒党を組んだ人間達がリバインに弓矢で不意を突き、射ようとした事でリバインに僅かな隙が生まれ、剣の刺し込みが中途半端になり、破壊神はその隙にリバインの魂の一部を破壊して、リバインに棲みつきリバインの力を我が物として新たな”破壊の秩序”として君臨しようと画策した。
リバインはそれを機に人間と隔絶した”災いの森”に住み着き、息を潜める道を選んだようだ。
人間と関わりたくないと言う気持ちと人間に被害を出さない為と言うリバインらしいどこか利他的な考えで長い間、森で息を潜めた。
しかし、破壊の神が自分を乗っ取りより強大な力を得る事を恐れてもいたリバインはなんとか破壊の神を封じる方法を考えた。
神を封じる為に幸福な時間も自分の楽しみを全てを費やし犠牲して探した。
その結果、わかったのは自分を殺せる者がいるなら破壊神の力が弱まり、破壊神に不完全で刺さった”神封じの剣”が起動、神の秩序と力を封印出来ると言う可能性だった。
それなら世界に弊害を出さず、穏便に済ませられると思っていたが、残念ながら破壊神を倒せるほどの強者はこの森にはおらず、その時点ではランスロットの居場所やダークネスドラゴンの居場所すら判明していなかったので挑む事すら出来なかった。
仮に挑んでも破壊神ならダークネスドラゴンくらいは倒せる可能性があり、リバインの中では当時のランスロットをダークネスドラゴンと同格のS級と考えていた事もあり、可能性から除外していたのだ。
それから長い月日が流れ、彼自身諦めかけていた。
その時、アリシアに出会い、その可能性に惹かれた。
強大な力を持ちながら未だ伸びしろがある無限の可能性にかけたのだ。
そして、自分が破壊神に完全に呑まれた時に”制約”が外れるように設定、破壊神を蹂躙するように仕向けたのだ。
それが事も詳細だった。
「お爺ちゃんは最初からわたしに殺される為に……」
「彼自身はあなたの事を本当の孫のような可愛がっていたさ。あなたと長く居たいとも言っていた。だが、それは時間が許さなかった。彼を取り込んだ破壊の秩序は全盛期以上の破壊を齎す可能性があったからね」
「わたしも一緒に居たかった……もっと一緒に居たかった……なのに、こんな、こんなの……」
(理不尽だ。お爺ちゃんは聴いた限り良いことしかしていない。なのにそれを秩序の狂わせるとか言い掛かりをつけて、お爺ちゃんの魂を破壊しようとして幸せまで奪ってまでこんな辛い孤独な日々を押し付けて……こんな……こんな……わたしはもっとお爺ちゃんに教わりたかった……もっと一緒に居たかった……もっと一緒にお話したかった……そんな有り触れた普通の平穏が欲しかった……なのに……なんでみんな、わたしからそんな普通の幸せすら奪うの……なんで、なんで……)
アリシアの込み上げる気持ちが拳に力が入り、爪を皮膚に食い込ませ、血が滲み出る。
記憶は取り戻したいと思い、その為に努力したのは紛れも無い事実だ。
けれど、それと同時に大切な人と凄く平穏が楽しかった。
アリシアが心の底から望んだモノがそこにはあったからだ。
それを奪われ、家族を傷つけられ、自分に刃を向けて争いを起こそうとする者達がいる。
アリシアの中に込み上げる気持ちが沸々と湧く。
そして、その時、決意した。
(許さない……わたしに理不尽を押し付け者達は徹底的に滅ぼし尽くしてやる!)
その時、友軍から”蒼の英雄”と呼ばれ、敵からは”蒼の魔王”と呼ばれる彼女がその方針が決めた日であった。
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