ダークネスドラゴン

「そんな……何故だ、何故こんな……」


(何故、こんなにもこの娘を苦しめようとするのだ)




 リバインはそう思えてならない。

 リバインは謂れのない事を言われ、迫害された経験がある。

 だからこそ、分かるのだ。

 迫害されている者の空気感と言うモノが……アリシアが記憶を失ったのはそれに起因しているのだと考えられる。

 辛い過去のトラウマで記憶を失う人間は初めて出会った時にアリシアのように全てを敵と見据え、警戒するような顔をするからだ。

 その顔は今でも忘れられない。

 今まで幾人のそう言った人間の顔を見たが、アリシアはそれは極めつけに酷かったからだ。


 だからこそ、今起きようとしている現実はあまりに酷い。

 まるで世界がアリシアに敵対しているかの如く不幸が発生し過ぎている。

 リバインとアリシアは隔てる事をまるで計ったようなタイミングで光の壁が展開され、ダークネスドラゴンが他の獣を無視してアリシアに真っ直ぐ敵意を向ける事、その全てがアリシアを嘲笑い、苦しめるように環境を整えている。


 そもそも、誰がこの光の壁を用意した?と言う疑念が浮かぶ。

 リバインが知る限り、ダークネスドラゴンは”火炎魔術”を扱うが”光魔術”系統の能力はない。

 この光の壁が”光魔術”の産物である事は見れば、分かる。

 その事からダークネスドラゴンの仕業ではない。

 何度もリバインは自らの”千里眼”と言う相手の量子情報分析系の能力を使っても、2匹とも光の壁を張るような能力は確認できない。

 つまりは第3者の介入と言う答えに帰結する。


 しかし、一体誰がなんの為にこんな事をするのか理由は分からない。

 記憶の失う前のアリシアに恨みでも持っていた者だろうか?等とリバインは考えたが、考えても憶測の域は出ない。

 しかし、この理不尽を敷く感覚、覚えがあった。




(もしかすると、これを手引きしているのは……)




 リバインはこれを起こした存在に薄々感づいていたが、そうであってもなくても今はとにかく、アリシアを活かす為に出来る事を伝えねばならないと考えた。




「アリシア!聴くんだ!ダークネスドラゴンは確かに強大だ。殆ど無敵と言っていい!だが、奴らは大技を放つ時、天を仰ぐように首を高く上げてブレスを吐く。その威力は天地を砕くほどだ。だが、その後、奴らの動きが微かに鈍る!その間は一切動けなくなる!」




 ダークネスドラゴンには弱点はない。

 魔術的に補強された強固な鱗に大地を沈めるほどの灼熱のブレスを持つ。

 この状態のダークネスドラゴンを倒せた者は1人としておらず……ただ、自然災害が過ぎ去るのを待つしかない。


 リバインが教えた弱点とて決定打と言えるほどの弱点ではない。

 ドラゴンは強靭な肉体を持つと共に魔術耐性も極めて高い。

 剣や槍、如何なる魔術も殆ど効かない。

 それでも倒せる望みがあるとすれば、”極大魔術”と言う魔術を行使するしかない。


 今のアリシアなら使えるが本来、100人の魔術師を用いて発動する魔術を1人で発動する事ができる

 ただ、”極大魔術”と分類される術は破壊力が高い代わりに比較的に発射までの時間を要し、発動までの時間がかかる。

 術者の練度によって、発射までの時間が2秒や1秒になるが、単発の”火炎魔術”や”雷鳴魔術”等よりも発動に時間を要するのは変わらない。

 ただ、”極大魔術”であっても、1000年繁殖期のドラゴンに使った事例がないのでそれでも倒せるか分からない。

 だが、微かな望みを切実に託す。

 全ては自分の孫のように愛する娘が生きられるようにだ。




「うん、わかった。お爺ちゃんも万一があるからここを離れて、わたしは必ず生き残る!」




 その目はリバインとは違い絶望にくれる事もなくただ、真っ直ぐと敵を見据える。

 まるでこの戦いすら何でもないと思わせるほどその瞳は力強く、憧れてしまうほどだった。




(無事でいてくれ!)




 リバインにはそう祈る事しか出来なかった。

 無理にでも孫娘の側にいてやるのが良い祖父なのかも知れない。

 だが、だからこそリバインは生き残らねばならない。

 あの孫娘は必ず生き残ると信じて未来の為に生き残る必要があるのだ。

 歯痒いが今回、リバインの戦場はここではないのだ。

 口惜しいがリバインはここを去る際に「必ず帰って来い」と声をかける事しか出来なかった。




 ◇◇◇




 森の中で轟音が鳴り響く。

 全高1000m近い巨体が地面を響かせ、アリシア目掛けて走ってくる有様は圧巻だ。

 森の木々が根っこから圧し折られる音が鳴り響く。

 アリシアは目にも止まらぬ速さで森を駆け抜け、竜達を感知を欺く。

 ダークネスドラゴンはどうやら、目でモノを見ている訳ではなく対象の神力を察知して、それを追尾しているようだ。


 目を欺く速度で移動しても捕捉されるので可笑しいと思ったのが、気づいた理由だ。

 アリシアは”隠密戦術コンバット1”と言うオブジェクトを使いながら、”天授眼”で情報を集めながらダークネスドラゴンを狩るオブジェクトを作成する為に戦闘を続ける。




 ダークネスドラゴン


 古竜 S


 筋力 35000000


 神力 25400000


 忍耐力 17000000


 因果力 16200000


 セットオブジェクト 古竜の武勇


 火炎魔術10 自動回復10 術耐性10 神力探知10 魔術昇華10 神力生成10 神力吸収10 神力励起10 耐衝撃10 硬化10 強靭10 軽量化10…… 


 エクストラ・スキル


 番の共鳴



 情報を見る限り、攻撃手段は”火炎魔術”を主眼に”神力生成”や”神力吸収”により得た莫大な神力を利用、力押しで火炎を吐く事を主眼に置いた戦術と分かった。

 しかも、”術耐性”はカンストしており、直感的な話だが、カンストした能力はそこが上限と言う事はなく、あくまで”評価可能範囲”でのアリシアが”知認し易い認識”が視覚化されたものなので、実際はこれよりも大きい可能性すらある。

 それを踏まえると並みの術をほとんど効かないと考えられ、物理攻撃にも高い耐性、更に”自動回復”を持っており、更にステータスなら筋力と神力の面でランスロットを超えていた。


 加えて、1000年繁殖期による力の蓄積とエクストラ・スキル”番の共鳴”でダークネスドラゴンの雄と雌が近くにいる時、ステータスをバフする能力であると判明した。

 現状、考えられる作戦は”術耐性”を貫通する術を使った魔術戦、もしくはアリシアが得意な斬撃で急所を狙うかのどれかだ。


 アリシアは耐性を貫通する術は確かに持っているが、相手の神力が高すぎる場合、耐性の能力が貫通能力を上回り、効かない可能性があった。

 そうなれば、斬撃しかないが、この古竜はただの脳筋パワーファイターと言う訳ではなく戦い慣れているようで急所となる首筋を狙わせてはくれない。


 ”来の蒼陽”の”急所必中”と”急所創造”を使えば、極端な話どこを狙っても急所になる可能性は極めて高い。

 だが、あくまで可能性の話だ。

 神術の安定性を高める為の設計になっている様で”急所必中”や”急所創造”どこを狙っても絶対に急所になると言う事はない。

 急所になり易いところを狙う事でその能力を発揮し易くなり、急所になり易いところに剣を入れれば、それが必中、急所になり易いところに成れば、剣を入れり、更に急所を拡大、創造すると言った”神創造術”の派生の神術なのだ。


 どこを狙っても急所になると言う事はなく適当に斬っても鱗に阻まれ、隙を作るかも知れないのだ。

 現状、どちらにもメリットデメリットがあり、現状一概にどちらが良いとは判断できなかった。

 そうなると実際、戦ってみて確かめるしかない。




「色々、試して見るしかないか!」




 アリシアは”空間収納”から右手にオートマグⅦハンドガンを取り出した。

 敵のネクシルを鹵獲、内部のデータを漁っていると銃火器の設計データを見つけ、再現可能な武器をAPの火器にする為にこのオートマグⅦハンドガンを産み出した。

 銃の特徴や性能と言うのは”認識”により成り立つ。


 例えば、構造的な”理”により、高威力の弾丸が放てるなら、”高威力が出せる”と言う”認識”を生み、それにより弾丸と共に増幅された神術の威力や連射性、効率的な発動等が通常よりも上がる。

 その点、オートマグⅦハンドガンはマグナム弾が使え、単発なら、高威力の神術を放ち易い。

 加えて、アリシアが使っている弾丸は50AE弾を対魔物用にカスタムした50AE:AACアリシア・アップグレート・カスタム弾、12.7×37mm弾オリハルコンフルメタルジャケット弾だ。

 他にもホローポイント弾式等もあるが、ダークネスドラゴンのような硬い生き物が相手ならオリハルコンフルメタルジャケット弾を使うようにしている。


 更にAPの様な高機動を主眼にするなら、本体重量が重いデザートイーグルハンドガンよりもオートマグⅦハンドガンの方が利点が大きい。

 加えて、反動の制御もアリシアの練習次第で補正可能であり、旧式のオートマグとは違い、エイリアンピストルと同系の低銃身バレルを採用しているので扱い易い方だ。




「ケラウノス・ブレイズ!」




 オートマグⅦハンドガンの銃口から雷と炎の複合技で放つ。

 ”複合魔術”の中でも中級の技をぶつけてみた。

 ”術耐性”に対して”複合魔術”がどの程度の効果があるか試す為だ。

 技は雄のドラゴンの右前足に命中するが、傷1つつかず、鱗が焦げた程度だった。

 この世界で”複合魔術”と言うモノは存在しないらしくリバイン曰く、「中々、強力な魔術だ。制御が難しい極大魔術に類する技だろうが、極大魔術よりも早く発射でき、威力が高めなのが良い」と称されたのだが、それでもこの程度と言うのは中々、堪えた。


 ドラゴンはその攻撃を屁とも思っていないようで何事も無かったように巨体に見合わない突進を繰り返してくる。

 ただ、今度は左右から挟み撃ちにしようと雄が左、雌が右から攻めて来る。


 ただ、単調な動きなら幾らでも避けられる。

 突進程度なら高速で移動して距離を取れば良いと考えたが、流石にS級の魔物だけに知能は高いようだ。

 両者とも口から突然、火が溢れ始めたのだ。

 ランスロットとの戦いで何度も見たから分かる。




(炎を吐く気か……)




 アリシアは更に脚の力を込め、とにかく、遠くへ移動する。

 それと同時に2匹の竜が口から盛大に炎を吐いた。

 高温に熱しられた大気が上昇気流を生み、大地は融解、火の池を形作る。

 アリシアはなんとか逃げる事が出来たが、これにより森の魔物達の断末魔が森中に響き渡り、聴くに耐えない音と火の池に沈み、悶え苦しむ魔物の地獄絵図を見る。


 これによりアリシアが高速移動できる範囲が限定されてしまう。

 あの火の池の中では流石に活動出来ない。

 記憶を失う前なら何か手があったのかも知れないが、無いものに縋っても仕方がない。

 ドラゴン達もそれが分かっているようで自分達に優位な地形を取ろうとマグマの中央を陣取り、アリシアを近づけさせないようにしながら、高温のブレスを吐き、マグマの範囲を拡大させ、雄と雌が挟撃、アリシアを焼き殺そうと迫る。

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