更に訓練とスクリプト改造

「これは……一体どう言う事なんだ?さっきよりも神力の供給は抑えられていたはずだが、威力が10倍以上に跳ね上がっているだと……」




 これには流石にリバインも舌を巻いた。

 リバインは徐に”スクリプト”の板を手に取り、具に確認する。

 木の板を叩き、神力を流し、流れ具合等を確認していた。

 そして、一通り確認するとどこか厳かな感じでアリシアに寄って来た。




「君はこれをどうやって作ったんだ?」


「どうやって、ですか?それはこうやって?」




 アリシアは板の余白になんの意味も持たない黄金の線を引いた。

 リバインはそれに目を凝視させる。

 よほど、あり得ないモノを見たような奇異な目で黄金の線を見つめる。




「これは一体何だ!?」


「神刻術と言う術です」


「神刻術だと……」




 リバインは聴いたことがないと言わんばかりに”神刻術”とは何か、根掘り葉掘り聞いて来た。

 アリシアもこの術に関して思い出した事は少なく知っている事だけを答えた。




「ふん……物や人に能力を付与する魔術か……ワシは聴いた事はないな」


「やはり、珍しいですか?」


「珍しいな。しかも、凄すぎる。この黄金の配線の伝導率を調べたが、軽く1000%を超えているな」


「ふぇ?それってつまり……」


「この配線に通すだけで寧ろ、神力が増大すると言う今までの理論に反する夢の素材という事だな」


「なら、これで問題は解決ですね」


「ただ、これはこれで問題だな……」




 リバインは悩ましそうに髭を撫で項垂れる。

 リバインの話ではこの手の素材は論文などで仮想物質として定義され、研究されているらしいが、未だ誰も実用出来ていない夢の物質ようだ。


 偶に伝導率110%の物質が生まれた事もあったが、それも1つの”魔術”を組み上げる事すら出来ないような量しか生成できず、劣化も激しい……しかも、国家予算10年分をつぎ込んでその程度の量しか作れなかったと言う。


 だが、もし一個人が安定的にこの素材を供給出来たなら、国によってはそれだけで戦争を起こす事も辞さないかも知れないと説明を受ける。


 リバインはアリシアが将来的に人間と関わった際の影響力を懸念した。

 彼女が記憶の探る上でいつか誰かに会うかも知れない。

 その場合、悪意ある第3者にアリシアが利用される事を恐れているのだ。

 この術1つで国家バランスを揺るがす危険性をリバインはアリシアに示唆した。




「なら、人間には秘匿した方が良いと?」


「それはお前さんの分別だが、少なくとも人間とは悪い人間が多い。特に人間は亜神に対する風当たりが厳しい。亜神と分かれば、それだけで迫害される事もある。場合によっては「亜神は人類に利益を齎す為に存在する」とか「能力のある人間は人類に貢献する義務がある」とか好き勝手いる連中ばかりだ。よほど、信頼できる人間でない限り伏せた方が良いな」




 その時のリバインの顔はまるで過去の苦い記憶を思い出しているような苦々しい顔だった。

 今の話は経験談だろうか?アリシアも何故から知らないが、”人間”と聴くと心が荒れる様な嫌悪感があった。

 リバインと初めて会った時の事を踏まえるとどうやら、自分は人間が嫌いらしい。

 アリシアはリバインが人間だと思い一瞬、距離を取ろうとしたほどだ。


 だが、”亜神”と分かった直後、彼が人間でない事に凄く安堵していた。

 リバインの話を纏めると人間とは、亜神を神と崇めながらその実、冷遇しており、リバインも過去そんな扱いを受けたのかもしれない。

 そして、アリシアが記憶を忘れてもなお、人間嫌いと言うのはそれほど過去のトラウマが強かった事の裏返しではないだろうか?と思った。


 だとすると、自分は人間に相当酷い事をされた”亜神”だった可能性はある。

 あくまで憶測ではあるが、”神刻術”を持った自分が関われば、人間の世界で争うが起こる可能性は高い。

 

 なら、関わらないように記憶を探した方が良いのだろう?とも考えたが、よく考えるとこの世界の人間社会についてアリシアは何も知らない。


 それこそ、リバインからある程度学んだ後で考えても遅くはないと思い、その考えは頭の片隅に置いた。


 それからアリシアは基礎体力を鍛えながら”神刻術”を基礎とした”魔術”と研究と研鑽を積み、時にリバインと模擬戦を行いながら神力の制御を鍛錬、時に森の中の魔物とも戦った。




 ◇◇◇




 それから半年


 森の中で一迅の強風が吹き荒れる。

 深い森の木々や雑草が強風に煽られ、吹き荒ぶ。

 強風が強い方角に向かうとそこには剣を振るう少女と老人がいた。

 少女と老人は人間離れした速度で剣を振り、肉迫、常人では捉えられないような速度で剣をやり取りし合い、体をぶつけ合う。

 アリシアとリバインは互いの剣を寸分のところで避けながら体を捻り、紙一重に躱す。


 アリシアは袈裟懸けでリバインに斬りかかるがその直後、リバインは飄々として体を半身にして避け、透かさず、アリシアの背後に移動し剣を振り下ろす。

 だが、アリシアはそれを上回る速度でリバインの背後に回り、それを読んで移動したリバインを更に先読み、気配を読み、更に加速を駆け、リバインの右側を取り剣で薙ぎ払う。


 リバインは更に速度を上げ前方に移動する。

 アリシアも更に速度を上げようとするが、体が軋みをあげ、震え始め動きが鈍る。

 そこに反転したリバインがアリシアのわき腹に強力な一撃を放ちアリシアは後方に大きく飛ばされる。

 一瞬、気を失いそうになるが、即座に舌を噛み切り、なんとか意識を保ち、両足を抱えながら回転、地面に着地する。




「どうした?疲れたか?」




 リバインは皮肉を言っている訳ではない。

 単純にアリシアを観察して、アリシアの限界を測ろうとして尋ねただけだ。

 だが、アリシアの目からは悲壮そうな色は出ない。

 脚は立っているだけでやっとで剣もまともに握れないほど震え、体の節々を痛みが蹂躙する。




「まだ……やれる」




 底無しとも言える闘争心に更に火をつけ、アリシアは全身に力を籠める。

 リバインもそれに敬意を現し剣を構えた。




「そうか、ではいくぞ」




 これを毎日のように繰り返す。

 リバインの方針で”神呪詛術”である“制約”と言う魔術的な枷をつけたままでの訓練をアリシアはいつも続け何度も殴られ、蹴られ、体に傷をつけながら必死に食らいつくながら、剣を撃ち込み、体を鍛える。


“制約”により少なくされた神力を効率よく扱う為に体に徹底的に叩き込む。

 今のアリシアの力はかつての10分の1に抑えられ、リバインに毎日叩きのめされ、日々に辛い訓練に耐える。

 この枷はリバインが良いと言うまで決して外す事は許されず、この訓練に加えてローラーを引きながら全力で42kmを100本走り込み1秒でも遅れたら全部やり直す訓練をして3日3晩走り込んだ時もあった。


 とにかく、毎日限界を超えた訓練を課せられ、気絶しようと泡を拭こうと”魔術”で無理やり起こされ、ノルマを果たすまで休ませてはくれなかった。

 過酷とも思ったが、何故か懐かしくも感じだ。

 限界を超えて追い込みほど自分から余計なモノがなくなり、本当に大切な何かを思い出せそうな快感に囚われ、それを欲する為に自然と足が辛い訓練の方に向いた。

 辛い訓練だったが、その時がこの世界に来て一番充実していたのではないかと思う。

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