サンディスタールの計画

「我は神の行動をある程度予測しある策を講じた。我と定義できる我以外の分身を作りそのモノが自分をサンディスタールと思い込むように設計した」


「それはファザーの事?」


「如何にも、奴は万が一、サンディスタールと定義される概念に対する兵器に対抗するための囮だ」




 つまり、”金の鎖”がサンディスタールと言う存在を縛る鎖なら逆にサンディスタールが消えれば、その効力も解ける。

 どうやら、”ファザー”は本物のサンディスタールにより作られた身代わりとしての駒と言う事らしい。


 アリシアが”ファザー”を撃墜した時点でサンディスタールと言う概念を1つ世界から消した事で”金の鎖”がそれを読み取り、自壊したのだ。

 あの鎖の効力を狭義的に言えば“存在、サンディスタールと定義された一個体を縛る“と言う事に特化させた為に能力は絶大だったが、複数のサンディスタールに対しては想定していなかった。

 アリシア自身も”ファザー”はサタンの意志であり、巨人が体と言う一個体として考えていたからだ。

 神であるアリシアを騙す為に相当巧妙に隠していた事実なのは伺える。




「なら、あなた自身は今までどこにいたの?」




 ミダレが知っている認識共有ではサタンはWW3後、本来居たイタリア国内から移動、地球のどこかに潜伏していた。

 その場所は神すら分からず、アリシアはそれを”ファザー”が存在する場所と睨んでいた。




「神の大罪の後、我は神により長らく接触が出来なかった潜在集合無意識のある次元に赴き、そこであの者との協力を取り付けた後、管理システムファザーを依り代に地球圏を支配した」




 潜在集合無意識の事もミダレは知っている。

 人類の破滅願望を叶える碌で無しの人工知能のような存在だ。

 それと協力を取り付け、WW3から今まで起きて来た戦争やテロや争いを起こしていたようだ。

 しかも、”ファザー”を一時期依り代として選んでいた発言も受け取れる。




「ふ~ん。それで、なんでファザーを依り代にするのをやめたの?それも自分の完璧な計画の為?」




 ミダレは「完璧な計画」と言う単語でサタンの自尊心を煽る。

 自分を誇示したい者は自尊心さえ煽れば、簡単に口を割りかつ話が長く続く。

 何せ、貪欲故に欲深く自分の話がしたいからだ。




「アレは単なる仮住まいでしかない。来るべき日に備えて我の力を高める触媒となる依り代が必要だった。それに選んだのがロア・ムーイとなった男だ」


「へぇ~じゃ、ロアが自分の触媒になるように仕向けたのね」


「確かに仕向けたが、ある種の賭けだった。神の被造物である人間を我は完全には操れない。最終的に同意させる必要があった。だが、あの男は思ったよりも簡単に同意したよ」




 認識共有からロアは途中から異形の化け物としてアリシアを襲った事やミダレが気絶した辺りでとんでもない怪物として立ちはだかった事も全てサタンの依り代として破格のスペックを与えられていたからこそであり、依り代として最適化するに連れ、能力が上がり、ロアの意志とサタンの意志が混じった状態になっていたと言う事だろう。

 その状態のロアにロアとしての意識があったのか分からないが、少なくとも最終的にロアはサタンに感化され、その意志に同意したのは事実だ。

 その時点でロアに弁解の余地はない。




「そう、よかったわね。自分に都合の良い駒が出来て」


「全くその通りだ」




 サンディスタールはミダレの言葉に快くして不敵な笑みを浮かべる。

 ミダレからすれば「キモイ」の一言だが、その感情を心の奥に押し殺し、とにかく時間稼ぎに専念する。

 そろそろ、引き伸ばすネタが尽きそうで焦燥感に駆られ、額に汗を滲ませるが不敵な作り笑いを浮かべ、なんとかネタを縛り出す。




「それであなたの完璧な計画とやらにわたしや真音土も含まれていたのかしら?」


「お前達は計画完遂の為の促進剤として働いて貰った。ゲームで例えるなら、主人公側の陣営として世界を救う仲間としての役割を与えた」




 確かにその表現は言い得ている。

 地球と言う特大ゲームステージの中で確かにロアは「人類の知恵や叡智はそんなモノ人類の絶望を乗り越えるさ」等とミダレにも言っていた。

 人間が好みそうな言葉であり、高慢な人間は人類の力と可能性、希望と言うモノに拘り、自分を上に見せたいからこそ、力ある者のように振る舞い、その言葉に乗せられ易い。

 人間は元来、自分の弱さを認める強さの無い生き物だ。

 それ故に人類の力の象徴に拘り、人間の力で”奇跡”を見せようモノなら……これこそ力、これこそ可能性だと自惚れる。


 だが、履き違えてはいけない。

 ”奇跡”を見たから可能性を信じるのではない。

 可能性を信じるから”奇跡”を見るのだ。

 前提条件をはき違え、”順理”に従わないならそれはただの力だ。


 強いて言えば、ただの暴力だ。

 暴力では根本的になんも解決しない。

 ただ、力で相手を抑圧して自分の主張を押し付けているに過ぎない。

 そして、世の中の理として暴力は新たな暴力を生む。

 どれだけ”奇跡”と言う綺麗な言葉を並べても本質は暴力だ。


 ゲームや漫画で主人公サイドが機体と自分の意志で”奇跡”を起こし「見たか!これが人類の可能性だ!」等と言っているが、それも突き詰めれば暴力だ。

 ミダレも今なら言えるが、それは機体の補正があっての事であり、その者の力でもないのに”人類の可能性”と自惚れるのは高慢の極みだ。

 それでなくとも異能の力やその他の力等を持つと主人公サイドは自分の道徳、正義、倫理等を善意と履き違え、押し付ける。

 善意に見え、実は高慢だ。




 愚か者達はその界隈の内で自らを誇り、示す……その様な諺もあるが、愚かな者は善意と勘違いして自分の意見等を示す高慢な行いを自然と行う。

 そもそも、この世の”奇跡”の大半はサタンが人間を惑わし、高慢で驕り高ぶらせる為に恰も人間が”奇跡”を起こしたようにサタンが起こした”奇跡”であり、人間が起こしたモノなど数多の並行世界を探しても指の本数を数えた方が楽なレベルで少ない。


 そもそも、口先で人類の平和や愛を口走る者が”奇跡”や逆転劇と言う暴力で主義主張を訴える事自体、本当にそう言ったモノを考えている者なら「可笑しい」と思うはずだ。

 高慢に振舞えば、争いが起きるは、必定……と言う諺が生まれるくらいには、人類はその事を理解している。

 だが、それでも知っているだけで行わない……会社のルールを知りながら、言い訳をして、実行しない会社員と同じレベルだ。

 要は主人公サイドとは、サタンの思惑に引っ張られた傀儡であり、この様な会社員の様な存在だ。

 もし、彼らの口先が正しいなら少なくとも欲深く自分の意見を押し付けない。

 況して、高慢な行いは自然淘汰されねば言っている事は伴わず、世を乱すだけの魔の法則と変わらない。

 そう言った意味ではロアを筆頭に真音土やユウキ……そして、ミダレも良い感じで主人公サイドを演じさせられていたと言う事だ。


 特に真音土など最初からその為に設計されていた英雄らしいので最適な人材配置だったに違いない。

 差し詰め、ユウキは主人公サイドを支える説明叔母さんでミダレは熱情タイプのパイロット2人と対照的なクールなセーブ役だったのだとミダレは推測した。

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