終わった……

「それで人類の可能性を否定する絶対悪であるGG隊と倒す為にわたし達を選んだと?」


「倒す事など想定はしていない。そうなれば行幸ではあったが、お前達が戦えば戦乱が起き、我が力が高まる。例え、お前達がGG隊と共闘しようと我と繋がる事を選んだ者は神の言葉を聴き分けぬ。内部分裂は必至だっただろう」




 仮に真音土がアリシアをブレイバーに勧誘した時、アリシアが真音土の手を取っていたとしても内部分裂は起きていたと言う事だ。

 何せ、真音土は人間の正義を絶対視していたが、アリシアは人間の正義よりも神の正義を絶対視する。

 少なくとも仮に悪魔討伐の為に共闘したとしても近い将来に仲間内で争う事になっていたと言う事だ。

 アリシアもそれが分かっていたからこそ、真音土の申し出よりも真音土を諭す道を選んだのだろうが、結果は知っての通りだ。




 人間と悪魔を中心に置く信念か

 神を中心に置く信念か




 それにより両者は必ず争い、決して相いれる事はない。

 神側が人間側に理解を示そうと足並みを合わせようとするが、人間側は神側に理解を示そうとせず、頑なに否定するので決して相いれない。

 幾ら送信側の情報が的確でも受信側が意図的に受信を拒否するなら、その情報を永遠に届かない。

 その責任は当然だが、受信側が負う事になるのでそこまで来たら神側はその者は救えない。




「尤も予想外だったのが、この土壇場で貴様がネクシレイターになった事だ」


「あら、それは悪かったわね。あなたの計画狂わせたらごめんなさい」




 ミダレは皮肉たっぷりに太々しい物言いで振る舞う。

 だが、虚勢だ。

 一方のサタンは「ふふふ」と余裕に不敵な笑みを浮かべる。

 まるで自分の揺るぎない勝利に酔い痴れるように愉悦に浸っている。




「気に病むことはない。確かに予想外ではあったが貴様は十分に役目を果たした。それに貴様1人抜けた如きで計画に変更はない」




 そう言われるとなんか癪だ。

 まるで自分なんて取るに足りない代替えの効くパーツの様に聞こえる。

 そこにネクシレイターの持つ「温かさ」はない。




「ふ~ん。そう。なら、あの虫みたいな艦隊を遣わしたのもアンタの計画?大した計画には見えないけど?」


「確かに。あんなのはただの虫だ。ただ、総意志としての認識を明確化する上では最適な道具だ」


「総意志の決定?」




 ”総意志”と言う単語もミダレの認識共有の中に存在した。

 ”潜在集合無意識”により選定された人類全体の意思決定を担い、顕在世界の方向性を示す意志として扱える者達の総称と記憶している。

 ネクシレイター間ではユウキがその1人であったとされていたと言う事は今、知った。




「その総意志とあの艦隊になんの関係があるの?」


「事象とは物事を認識した時に起こる。この世界の物分かりの悪い総意志に我の分身ロアを送り付け、神を殺すように促したのだ」


「それがなんでアリシアの完全な打倒になる?」




 薄々、勘付いていたが、ミダレの目的はあくまで時間稼ぎ……どうせなら、本人から答えを聴いた方が効率も良い。

 それにネタが尽きて来た。




「言ったはずだ。認識が必要だと。総意志、強いては人類の意志で神への反逆の意志をこの期に及んでもより明確化すれば、認識が高まり我が力も増す。それを利用する事であの神の一撃を弱らせ、神のスピリットを枯渇させたところで我が全ての並行世界から搔き集めた人の意志からなる悪霊スピリットと十字架を模った潜在集合無意識が管理、保管する全ての並行世界の人間の根源思想を注ぎ、更に善悪の実を食べた天使達を伝い干渉、屈服させた原初創造神アステリスの裏切りの要素を加えてやれば、あの神は信じていた者から施された愛を裏切りによって全て失い、神としての力を失墜する」




 それを聴いて、「なるほど、確かにそうかも知れない」とミダレは思った。

 まだ、ネクシレイターになって日が浅いミダレは創造神がどんな者かよく知らないが、自分にこれだけの力を施せる源流となった存在だ。

 かなり強大で絶対的な力を持つくらいは分かる。

 況して、アリシアレベルになれば、自分の神に絶対の信頼を置くだろう。

 もう、その信頼している人が今まで自分が信じていた事を根底から覆す事を言ったらどうなるだろう?


 例えば、悪魔と敵対しろと命令されたのにその命令した本人が悪魔の手先となり、自分に刃を向けたらどんな気持ちになるか?

 しかも、それが成り済ましではなく心の底からそう思っていたなら一体どうなのか?

 それに全ての熱情を傾けていた人間が最も信頼している者にそんな事をされて耐えられるのか?

 今までの愛が大きかった分が全て裏切りに変わった瞬間、一体どれだけ苦しいのか?


 神と言う絶対の希望を信じていた者が全てを捨て、その唯一の希望に縋って努力していたのに……その希望かみにすら裏切られ、打ち砕かれた時、どんな気分なのだろうか?

 何があっても裏切らないと言った者が自分に本気の敵意を向けたらどうなのだろうか?

 絶対である者が絶対ではなくなった衝撃は少なくともミダレよりアリシアの方が大きかったはずだ。

 加えて、全ての宇宙、全ての並行世界の人間がアリシアの目指した平和を否定したなら、少なくとも彼女は孤独に沈むだろう。

 世界のどこにも自分の居場所がないと悟り、全てが折れてしまう。


 そのくらいの事はミダレでも想像できた。それほど残忍な殺し方もないと思えた。

 挙句の果てに2341年前と同じように”異端”となったアリシアを磔にして世界の全てが嘲り、蔑み、罵っているのだから笑えない。

 彼女は間違っていたのか?

 アリシアの考え方は人間の考え方ではなかったが、目指していたモノは世界中の誰よりも真剣に平和を願って目指した事だ。

 真面目に真剣に努力して平和を掴み取る事が悪だとでも言いたいのか?だとしたらこの世界は完全に狂っている。

 アリシアを狂人と言う者達もいるだろうが、その者達も十分に狂人だ。


 この世界に真っ当に平和を考えている人間等どこにもいない。

 人類が平和を求めている事、そのもの自体が間違いだったのだ。

 アリシアへの行いがその全てを物語っていた。

 何故なら、人類は悪魔の望む平和を選択したからだ。




(終わったわね……)




 ミダレの溜息を吐くようにコックピットに背中を凭れた。

 その時、心が緩みサタンに思惑が発覚してしまう。




「ふふふ、なるほど我はまんまとお前の思惑に嵌ったわけだ。流石、元英雄だ。我の特性をよく弁えている」




 サタンは皮肉交じりに不敵な笑みを浮かべる。

 笑みこそ浮かべているが、その顔は笑っていない。

 忌々しい者でも見るようにミダレを見つめる。

 内心では騙された事にご立腹で今にでも食い殺しそうな勢いだ。

 だが、どうでも良い事だ。

 もう、世界は終わった。

 今後の自分の将来はいずれにせよ破滅だ。

 ここで死のうと結果は同じでしかない。




「では、死ぬがいい」




 サタンのレーザー攻撃がミダレに迫る。

 ミダレは死を覚悟した。

 視界前面を覆うほどのレーザーが追尾しながら、自分に迫る。

 更に背後からも挟み撃ちに会う。





(避けきれない)





 自分はここまでのようだ。

 これ以上、どう抗っても勝てそうに無い。

 そもそも、勝てる見込みすらなかった。

 この敵にとって自分はただの虫だ。

 勝てる見込みなど初めからありはしない。

 正面と背後からレーザーが寸前のところまで迫る。




(本当に……終わった)




 自分の死期を悟り、ミダレは目を閉じる。

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