偽神に仕える英雄達
混沌を呼ぶ嵐がアリシア達も前に現れる。
自らを超越者と名乗る男が存在を誇示するようにアリシア達の前で急停止する。
「超越者ですか……自らを神と僭称するか」
アリシアは彼の態度に普段になく殊更、不機嫌な態度で発言する。
彼女にとってそれは自分に対する冒涜以前に自分の父と母に対する侮辱に聞こえてならない。
「事実を言ったまでだ。我は高次元存在。遥か高みからお前たちを観測する存在であり、お前たちを所詮、ゲームの駒に過ぎない」
ある意味、その表現は正しい。
高次元生命体であればあるほど見える次元は変わってくる。
人間にとって3次元が現実なら高次元生命体にとっては夢の中ともアニメや漫画の中とも言えなくはない。
「ゲームの駒ですか。随分、意味深ね。わたしもその駒なのかしら?」
「如何にも……お前は人類悪となり、人類に敵対する者として役割を与えられたに過ぎん。お前の集落を襲わせたのもお前が人類を憎む様に仕向ける為だった。尤も、貴様など私の気まぐれでそうしただけだ。アステリスの加護にあったお前が邪魔だったが始末するより、人類を憎み修羅に落ちた方が面白いと思ったまでの事だ」
それを聞いてアリシアの顔が険しくなる。
表情は無表情だが、内心ではかなり怒りを抱き、怪訝な態度を取る。
「つまり、それだけの事の為にあの子達を殺したの?」
「あの子?あぁ、あの道化か……あの者達を奪った方がお前が世界を憎むと踏んでいた。その為に消費アイテムとして使用しただけだ」
「わたしの故郷で可笑しな噂を流したのもあなたですね?」
「全てはゲームを面白くする為だ。愛が裏切られた時ほど人は憎む。お前がその憎しみを世界にぶつける事を期待したのだ。その為に方々でお前やNPがあの者達に接触できぬように断ち、あの者達の憎悪を育みさせ、時を見てお前にぶつけ、裏切りと絶望を味合わせたのだ」
「悪趣味ね」
「そう思うか?なら、お前が仕える神も悪趣味であろう?その道化達を守る事も出来たにも関わらず、放置したのだからな。我と何が違う?」
アリシアは一度目を閉じる。
その間に僅かに間があった。
天使達の中にその間が不気味に思えた。
「何故、すぐに断言しないのか?」と言う疑問だ。
だが、それとも裏腹にアリシアはアステリスの気持ちを考えていた。
アステリスの声を始めて、聴いた時の言葉を思い出す。
ごめんなさい
あの時、彼女は当時の自分には決して聴き取れない声でそう答えていた。
それはすぐに力を与えられなかった事への謝罪だけではない。
自分を完成品にする為とは言え、子供達を見殺しにせねばならなかった苦渋の気持ちもあったのだ。
かつての”権能”があれば、容易に助ける事は出来た。
“権能”がなくても救う事も出来た。
だが、それを度外視してもアステリスはアリシアに恨まれる事も覚悟の上でこの決断を下した。
本当は辛かったはずだ。
子供達を苦しめた事もアリシアに耐え難い試練を与えた事も全て辛かったはずだ。
神は乗り越えられる試練しか人に与えない。
大昔に書き記した約束まで破ってまでアリシアに試練を与えた。
普通は困難と逃れを5分5分で入れるものだがわざわざ、裏切ってまで逃れる道をわざと削り、アリシアを試した。
結果的にアリシアの地獄での試練でも最後はアリシアを助けようとはしなかった。
死体をそのままにして、その場から去ろうとしていたのだから……だが、アリシアは決してその事を憎んでいない。
寧ろ、自分の事をここまで目にかけてくれた事に感謝している。
その事が自分が愛されていると確信させる。
そう思えるからアステリスの事を疑うような事はアリシアはしない。
自分の気持ちを確認して、アリシアは目を開く。
「違うわ……全然。あなた程度に私とアステリス様の気持ちを推し量る事は出来ないわ。あなた程度の煽りに動じる程、わたしは弱くはない」
アリシアは一切動じる事無く断言した。
アステリスが悪魔と同じであるはずがない。
悪魔に屈する事など絶対にありえない。
例え、約束を違えたとしてもアステリスが自分の責任で全てを行える大人だと誰よりも知っている。
「それは貴様がアステリスの正義に固執しているだけだろう?人間はそんな事は望んでしない」
「……もう言いたい事は済んだ?始末して良いよね?」
アリシアはいつになく殺気だった言い方で”ファザー”の煽りに動じない。
それが悪魔の常套手段なのは知っている。
なんの根拠も証もなく、口先だけで人類の未来や希望と言う言葉で誘惑して、恰も正しい事の様に見せかける詐欺師のやり口だ。
アステリスが正義なのは今までの行動で十分証されている。
だが、悪魔は証しない。
その場、凌ぎに見てくれだけの見栄えの良い言葉を並べては人を欺く。
そのお決まりのパターンは”英雄”が何度もしてきた事だ。
今更、それに嵌るほど愚かではない。
「ならば、悪役は正義の前に散って貰おう。このゲームは中々、面白い趣向だった。最後に盛大に盛り上げようではないか」
すると、要塞周辺から大きなSWNの反応を検出され空間が湾曲、転移ゲートが開く。
そして、何かが転移ゲートから現れた。
それは人型をした機動兵器だった。
APと違い、どれも規格化されていない大小様々だ。
「なるほど、眷属召喚ですか」
正確に眷属召喚の亜種だろう。
この場合、人ならその時の出来事は基本忘れてしまう。
また、召喚中は相手側の世界の時間は止まる為、本人達にとっては夢で終わる可能性が高い。
「あれ?ここは?」
「大丈夫か◯◯◯」
どうやら、”ファザー”は”英雄”の名前を知られたくないらしい。
“英雄”の名前が出た部分を聴き取れないように秘匿している。
加えて、全ての機体の正確のシルエットも認識を干渉する魔術を使われている影響で分からない。
恐らく、SWNが満ちる空間を利用する事で”名前”と言う”認識”に関与する要素を緩慢にする事で”英雄因子”に対する中和作用を低下させる事が狙いと考えられる。
分かるのは20m前後の大型兵器と5m前後の小型機という事だ。
しかも、その内の1人は小型兵器に乗った子供となんらかのサポートAIだと分かる。
「アレ、ここはどこだ?俺は◯◯◯と戦っていたはずだ。それに◯◯―◯はどうなったんだ?」
「◯◯君!」
巨大兵器2機が互いに通信を取っていた。
どうやら、知り合いのようだ。
装甲材を軽く調べると同質の素材を使っている事から両者の関係性が伺える。
「◯◯◯!お前もいたのか!」
「◯◯君!ここは一体どこなの?」
「分からない。俺にも何がなんだか?」
「よく来たな。異界の英雄よ」
“ファザー”が彼等に穏やかな口調で話しかける。
さっきまでの高圧さはない。
“ファザー”はまるで詐欺師のように善人そうな態度で彼等を惑わす。
「アンタ、何者だ!」
巨大兵器に乗った男が尋ねる。
「ファザー。異界の神にしてお前達の仕える◯◯◯の友だ」
「◯◯◯の友……」
どうやら、男にとって◯◯◯の名前はかなり重要らしく何か噛み締めるように呟く。
「わたしは今、強大な悪の前に立たされている。その者目の前にいる者達だ。彼等は地球の破壊して人類の未来を奪おうとしているのだ!」
“ファザー”はまるで嘆いているような演技をして被害者面をしてみせる。
「なんだって!」
子供は驚きを露わにする。
「奴は人類の可能性を否定、挙句の果てに人類を地球諸共、抹殺しようとしているのだ。頼む、異界の英雄よ!わたしとともに地球を守ってくれ!」
“ファザー”は切に願い求めるような演技で彼等の心を揺さぶる。
すると、サポートAIが口を開く。
「◯◯◯。あの者達からは邪悪な気配を感じる。どうやら、この者も言っていることは本当のようだ!」
「僕も感じるよ。アイツらは悪党だって!」
「そうだ◯◯◯。お前の正しい正義を行う心があれば、必ず倒せる!」
子供とAIは自分達が感じる感覚を頼りにアリシアを敵と断定した。
それに呼応して残りの2人も口を開く。
「俺もそうだ!アイツからは邪悪な気配がする。ここで倒せと俺の中で疼いてる。おい、そこのお前、俺も協力するぜ!」
「僕は◯◯◯だ」
「そうか◯◯◯。一緒に戦おう!」
「うん!」
「◯◯君がやるなら、わたしも!」
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