少女が討ち取られる時
「ま、まさき!」
アリシアは思わず彼に声をかける。
だが、その返答の余地すら与えず、ネクシル・シュッツヘルの肢体が吹き飛んでいく。
遂にはコックピットの残し殆どが消える。
その時、彼は聞こえるかも分からない微かな声でアリシアに告げる。
愛している
その言葉を言うだけでやっとだった。
彼は自分の最後を悟っていたからだ。
アリシアを守る為に自分が盾になれば、どうなるか想像するまでもない。
ヴァイカフリのレーザーは全てを焼き払った。
ヴァイカフリは腕を組み見下ろすように焼かれた地面を見る。
辺りの砂は赤く焼け海面からは水蒸気が沸いていた。
無数の敵の亡骸が霧散、原型を留めてはいない。
その中に1機原型を留めてはいる機体があった。
アリシアのネクシレウス・アストだ。
装甲の一部が溶け歪な形になっていたが、まだ、原型は残りしっかりと直立している。
その視線は転がり落ちたコックピットを見つめる。
既に生体反応はない。
シオン戦艦の天使達の対処もあり、瀕死間近な順に一斉にテレポートさせ、肉体的に瀕死に近いが彼等は生きている。
だが、それがなんだと言うのか……ネクシレイターは肉体的な死など問わない。
大切なのは魂の尊厳だ。
今の攻撃で仲間達は殆ど死んだとも言えるような攻撃に晒された。
自分の力でも元に戻せるか分からないレベルだ。
これが人間なら体が吹き飛んでも魂は死にはしない。
地獄に送られるのが関の山だ。
だが、彼女の仲間達は他人を活かそうと活動して罪を清算しようと頑張っていた。
そんな彼等がこんな仕打ちは理不尽過ぎて憤りを覚えずにはいられなかった。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
アリシアは怒りと悲しみが混じったような怒涛の叫びを上げる。
彼女のZWNが一気に励起、純粋な怒りと悲しみを帯びた雄叫びが空間を揺らしレーダーを狂わせ、通信機をオンにしていないにも関わらず、雄叫びが聞こえる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
アリシアはまるで破壊神の如く、”来の蒼陽”を横に薙ぎ払い”神火炎術”と”剣技”の複合魔術である”アスタ・ガニマ”を地球統合軍の大部隊に放ち業火に包んだ。
それからアリシアは鬼神の如く暴れた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
更に超高速で振るわれた”来の蒼陽”を金属原子を縮退させる事で発生する高重力で形成された斬撃……”世果”と言う神術に依存しない純粋な”剣技”により、成された重力場の斬撃が地球統合軍を屠り、ブラックホールにより裂かれ、次元の彼方へ消える。
迫りくる地球統合軍の戦力を物凄い気迫で葬り去り、その姿はまるで”災害”そのものに思えるほどだ。
圧倒的な力で人間達を狩り尽くす”裁き”そのモノであり、そこにはかつての慈悲はない。
神は救う時は救うが、裁く時は徹底的に裁く。
況して、高慢にも彼女に反逆した挙句、民を傷つけたとなれば人間に救いはない。
アリシアは容赦、加減、慈悲……それら一切のモノを捨て、徹底的に殺しにかかる。
この世界に救いは残されていない。
ただ只管に裁くのみ……この戦域の敵を全て皆殺しにする事に熱情を傾け、感情を励起させながら制御、”神威圧”を戦域に放った。
SWNの干渉で効果が十分ではない、が戦域にいる多くの兵士が心理兵器に毒されたように狂乱、発狂、自害していく。
それでも生き残った人間がアリシアに牙を向けようとするが、”神火炎術”により形成された熱戦攻撃である上級魔術”プロミネンス・イレイザー”を容赦なく浴びせられ、悶え苦しみながら死んでいき、爆発でAPが四散する。
SWNの干渉が酷く本来の力を発揮出来なかったが、火炎に巻き込まれた機体がまるで藁のように燃え上がる。
寧ろ、本気のアリシアの前でその程度に済むだけ、本来であれば慈悲とも言えるだろうが、地球統合軍からすれば、アリシアは人智を超えた怪物以外の何者でもない。
更にそれでも攻めて来る敵には世界を数多に破壊するほどの”ドラメント・バスター”を戦域全体を覆うように掃射、無数のAPや島がアリシアの泣き喚き、怒りと悲しみと共に吹き飛ばされていく。
鬼神の如き、攻勢の嵐が敵陣を駆ける。
まるで屍の山でも築くかの様に1万2万3万の敵がゴミのように吹き飛んでいく。
その姿に敵は戦慄する。
「なんで、お前達は私から全てを奪う!!」
彼女の濁流の様な感情が戦場に響き渡る。
怒りと悲しみが口から零れ、ネクシレイターの素養もないただの人間にすらその感情が重く突き刺さる。
普段、温厚で争いを嫌う物静かな彼女も今日だけは声を荒立て激昂し、敵に憎悪を突き立てる。
辺りには無数に散らばる敵の残骸……それは100、1000と言う単位ではない。
既に死体山が海底に積み重なり、島々に残骸が積みあがる様に築かれた人型兵器APの残骸は1000万を優に超えていた。
敵の大軍は勢いを殺さず、アリシアを殺す為に一点に戦力を集める。
彼女はただ1人孤独に武器を取り、敵を狩り続ける。
人外、化け物、悪魔と言われるアリシアの前に並みの兵士は紙屑の様に吹き飛ぶ。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
アリシアは吐息を立てながら、地面に転がる影を見た。
「フィオナ、リテラ、シン、正樹、千鶴姐様……みんな……うっ……」
アリシアは不意に涙が零れる。
ただただ、悲しくてならない。
平和と平穏を求めただけだと言うのに……なんの言い掛かりで自分達のこんな仕打ちを受けねばならないのか。
理不尽にもほどがある。
それがただただ、悲しい。
そして、平穏は阻む彼らが恨めしい。
今のアリシアには世界中の人間全てが悪魔そのものに見えてならない。
そこに年齢は関係ない。
子供から大人まで全ての悪魔が自分を殺しに来る。
ただ、その一点を目掛けて襲い来る。
今まで敵対していた者もアリシアの前で団結し攻めてくるほどだ。
普段からそれをすれば良いのにこの後に及んで平和を願うアリシアは襲う。
悪質で質が悪すぎる。
人類は救いようがないほど争いを好むとよく分かる。
だが、それと同時にそんな悪魔から仲間を守れなかった自分が恨めしくてならない。
自分の覚悟が足りないばかりに仲間を殺した。
その慚愧の念が堪えない。
「私が……不甲斐ない所為で……皆は……結局、私はあの時と変わってない……何も守れない無力な私のまま……」
すると、ロックオンアラートが鳴り響く。
アリシアは即座に回避する。
砲撃のあった方角を見るとそこには黒いオーラを放つ紅く禍々しい機体が空から地面に降り立った。
アリシアは仇の機体を見つめ、顔が険しくなる。
「よくも……よくもよくもよくも!」
アリシアは抜刀した”来の蒼陽”でヴァイカフリに斬りかかる。
ヴァイカフリは生える4つの翼の左翼でそれを受け止める。
「お前はまた!あの時の様に全てを奪うつもりか!私の思い出も存在も大切な者も全て奪うのか!どれだけ奪えば、気が済む!どれだけ壊せば、気が済むんだ!」
アリシアの”来の蒼陽”の一閃は受け止めた分厚い羽を斬り裂いた。
追撃で”来の蒼陽”の連撃を当てようとするがヴァイカフリは後方に下がった。
ロアは不敵な笑みを浮かべながら、アリシアを嘲笑う。
「俺が奪った事実はない。全てはお前の思い違い。お前に罪に対する報いだ」
「お前の罪をわたしに擦り付けるな!」
「だが、それは世界が望んだ事。それを成す俺こそが正義。それに刃向かうお前が悪なのだ。現に誰もがお前の言い分に耳を貸す事はない。それが事実だ」
ヴァイカフリの機体は突如、姿を消した。
アリシアはそれに勘づき反応した。
だが、精神的な動揺もあり、敵はアリシアの隙を突き目の前に現れ、右翼の銃口を突きつける。
「勝つのは常に正義だ。悪は消え失せろ」
翼に仕込まれた弾丸が至近距離で火を噴く。
アリシアの機体は至近で弾丸を喰らい装甲は剥げ、全身の躯体が落ちていく。
コックピットだけが僅かに原型を残しながら地面に落ちた。
「悪魔、アリシア・アイを討ち取ったぞ!」
その言葉に紅紫の機体の友軍が歓喜に沸く。
コックピットは潰れ、中にいる彼女も下半身押し潰す。
そんな息が絶えそうな中でそれを聞いたアリシアは……。
「何が……正義よ……この世に正義の味方なんていない。最低だよ。本当に……」
アリシアは剥がれたコックピット越しに紅い機影を見つめ、吐き捨てる様に言った。
「これであなた達の望みが叶った。正義なんて糞くらえ……だけど、これで……」
アリシアは何かを悟った様に空を見上げる。
アリシアの敵達は空に浮かぶ巨大な影が現われる。
それは空を一面に覆うにはあまりに大きく。地球を包むにしても地球が小さく感じる程の巨大な何かがそこにいた。
まるで宇宙そのものが人の形を成した様な存在だった。
そして、彼等が最後に見たのは巨人が宇宙に亀裂を奔らせその豪腕で引き裂こうとする姿だった。
それと同時にそれを食い止めるように地上から金の鎖が巨人を縛り付ける。
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