偽聖母の最後

 その言葉に応えるようにレーザーが放たれた何もない空間から1機の黄色ネクシルタイプが飛び出した……ネクシル・グローリーライフだ。

 勢いよく飛び出したネクシル・グローリーライフは両手に装備された2つの銃口を持つ神光術式高出力共鳴増幅式試作レーザーライフル”プロトバスターレンブラント”を両手で重ね合わせ、右手を引き金に左手で銃身を保持する様に添える。

 銃口内の光は搭乗者の気持ちに応えるように光を収束させ、搭乗者の咆哮と共に放たれる。




「ユゥゥゥゥウゥゥゥゥキィィィィィィ!!!!」




 失落世界から転移して来た美香がまるで示し合わせた様に転移して来た。

 上田・美香の轟く雷鳴の様な怒りが彼女のZWNを励起させ、一気に最大出力となったレーザーの砲門から迸る光が放たれる。

 レーザーはさっきと違い、減衰する事無く激しい光と共に飛翔していく。

 レーザーはアマテラスの下半身を呑み込むほどの光となり、アマテラスの下半身を焼き払う。

 アマテラスに搭載されていたサブ動力の核融合がレーザーにより誘爆、上半身を巻き込んで爆発する。




「まさか、これを狙っていたの!クソ!」




 ユウキは我先に足元の脱出装置を起動させた。

 ユウキはようやく、アリシアの行動の意味を理解した。

 アリシアが機雷でアマテラスを攻撃したのは単に位置を変える為だ。

 恐らく、初めからこの宙域には空間転移ゲートや亜空間に待機する空間が存在していたのだ。

 だが、AZWN圏内ではそのゲートが開かなかった。

 だから、ゲートを開く為にアマテラスを移動させる必要があった。

 後は開いたゲート内部で友軍に連絡、待機させ、高出力のレーザーをチャージして待機していたのだ。


 想定を超える威力までチャージすれば、AZWN圏内でも高い攻撃性能を出せる。

 後はタイミングを見計って攻撃する。

 だが、アマテラスが少しでも動けば、この作戦を上手くはいかなかった可能性も孕んではいた。

 尤もアリシアには関係ない話だった。

 何せユウキはそのようにすると因果として決まっていたからだ。




「あなたは自分の破滅の因果を修正した様だけど、それはただの結果。あなたが歩む過程まではあなたは変えていない。結果だけを求め、過程を蔑ろにしたあなたは既に負けている。だから、あなたはアマテラスを動かさなかった」




 各世界のユウキは自分が作り上げた決戦兵器の初陣には必ず戦場にいた。

 新兵器に万が一の事がない様に早急に対処する為だ。

 その時、彼女は戦域の端におり戦闘が終わるまでそこから動かないのだ。

 そう……””と言う因果が働くのだ。

 ユウキが決戦兵器に乗り込もうと関係ない。

 ”英雄”である以上、その因果に引っ張られる。

 だから、アリシアは分かっていたのだ。




 




 結果ばかりに目が行き、過程を疎かにしたユウキの慢心がまたこの様な結果を生んだ。

 彼女がもし、戦士であれば、そのような死活問題を蔑ろにしなかっただろう。

 しかし、彼女は学者であり、学面や数式や理論ばかりに拘るあまりそう言った心構えを蔑ろにする。

 況して、英雄因子ばかりに気を取られた時点でそればかりに固執しており、その事には気付き難い。

 だからこそ、気づいた時には既に遅いのだ。




「まさか、こんな簡単に……」




 ユウキは認められなかった。

 自分の計画がこうも簡単に否定されたような感覚、まるで自分の才能を否定された様な気がした。

 それが不快でならない。

 アマテラスは爆音を立てながら轟沈していく。

 機体各部が四散、装甲が宙に舞い海面に落ちる。

 その中から1機の機体が勢いよく爆風を背に去る機体があった。




「こんなところで死ねないわ!アサル……」




 ”アサルト”と言いかけた時、機体の光学回避プログラムが起動、”アサルト”が中断された。

 爆風を突き抜け、一筋の光がユウキに迫り、機体は光学回避プログラムを基に避ける。

 すると、爆炎の中から黄色い機体が現れ、神術式近接戦用の刀を抜き、ユウキに迫る。




「ユゥゥゥゥウゥゥゥゥキィィィィィィ!!!!」




 気迫に満ちた鬼神の様な形相で美香は神術式近接戦用の刀を振り翳す。

 ユウキのネクシル・ペプロメノは右腰に装備していた SEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフを取り出し、受け止める。

 ユウキに戦闘能力は無い。

 美香の攻撃を防いでいるのはアマテラスの制御デバイスでもあったこの機体のユニットだ。

 そもそも、ダイレクトスーツを着ないまま乗り込んだユウキに機体を操作する術すらない。

 神術式近接戦用の刀と SEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフがぶつかり合い激しい剣劇を繰り返す。

 勢いのある美香が神術式近接戦用の刀でユウキを押し、ユウキは美香に押され、後ろに下がりながらSEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフでガードする。

 美香の攻勢は止まらない。


 激しい剣戟の応酬がユウキを襲う。

 美香の剣技はアリシアには及ばないがかなりのものであり、大抵の者は一刀両断出来るが、ユウキのSEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフは硬く中々、両断出来ない。

 だが、ユウキのネクシル・ペプロメノのユニットは美香の猛攻に対して、SEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフでガードする事しか出来ず、まさに棒立ち状態だった。




「わたしのユニットを超える力なんて!」




 すると、ユウキの頭の中に声が響く。

 WNの干渉波によって励起した美香の想いがユウキにダイレクトに伝わり、一種のテレパシーと同じ状態を形成した。




「今日!ここで!お前を討つ!」




 ユウキのネオスとしての直感も相まって、この声が敵のパイロットだとすぐに判断出来た。

 互いに互いの思考を感じ合う。

 そして、相手が誰かもユウキは知っている……いや、覚えている。




「そんなにわたしの事が憎いか!上田・美香!」


「あぁ、そうだ!お前のせいで多くの命が失われた!わたしはお前が憎い!」




 神は高慢な者を憎む。

 憎む事は決して良いことではないが、ネクシレイターとなった美香の心はアリシアですら共感出来る事だった。

 寧ろ、”理不尽”な事に正直に憎みや嫌悪を抱けるからこそ、美香はネクシレイターに成れたと言える。




「お前の見栄と高慢のせいで世界は滅んだ!お前がいなければわたしやわたしの家族が死ぬ事もなかった!お前が高慢でなかったなら部下が死ぬ事も世界が滅びる事も平和が壊れる事も無かった!」


「……そうね、あなたの言う通りよ。だからこそ、責任を取ろうとした」


「だが、お前は結局何も反省していない!お前のその責任の重さをまるで理解していない!責任を取ると言いながら自分を変える事もせず、ただ自分のやり易い楽な道を選んだ!お前の行いが多くの者を不幸にした!責任を取ると嘯きながら、お前にはそんな気は始めから無い!終始一貫してお前は高慢な態度を変えなかった!世界を救う為に対面を変えようともしない女に世界が救える訳がないだろう!」




 その時、ユウキの中である記憶が過り誰かに語った事を想起した。


 


「良い。これだけは覚えておきなさい。どんな立場になってもその時のよって対面を変えなさい」


「例え、あなたが3均衡になろうとそこに付け込まれたら良いように利用されるだけよ。だから、本当に利用されたくないならその事も忘れちゃダメよ」




 そんな説教をミダレに垂れていた。

 だが、結局、それを言った自分自身が世界平和の為に対面を変える事もせず、自分の奥底の高慢を変えようともしなかった。

 アレは説教をした彼女にではなく正しく、自分に向けるべき言葉だった。

 その結果、良い様に傀儡として扱われた。

 それをようやく、理解した。

 だが、もう遅い。全ては遅過ぎたのだ。

 それと同時にSEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフの耐久力が限界を迎えた。

 美香の連撃により同じ箇所を攻撃されたSEAL Team Elite S37-Nコンバットナイフは耐久値を超え、折れた。

 美香の神術式近接戦用の刀がコックピットに迫る中、ユウキは最後に呟いた。


 


「わたしは結局……ミダレ。あなたはわたしみたいに……」




 わたしみたいにならないで……




 それが彼女の最後の言葉になった。

 機体は力を失い、海面に落ち、ネクシル・ペプロメノが水飛沫を上げ、沈んでいく。

 アマテラスも主の最後を見届けた様に一気に沈んでいく。

 美香は余韻に浸る様にその場に硬直した。

 少し間をおいてから神術式近接戦用の刀を左腰のハードポイントに納刀、水飛沫で上がった水を雨の様に浴びる。



 

「今更、気づくなんて……遅過ぎるよ」




 美香は哀れんでいるのか怒っているのか呆れているのか分からない震えた声で呟く。

 この感情の意味は美香には分からなかった。

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