禁忌の王との戦い

 別の場所




 ネクスト部隊とシオンはスカリーとの交戦状態に入った。

 シドとリリー、ブリュンヒルデ、オリジンが檄を飛ばしながら指示を出していた。

 事実上、ネクスト隊の隊長はシド、副隊長リリー、第2部隊ワルキューレ隊隊長ブリュンヒルデ、CPをオリジンが勤めていた。




「各機!砲撃の手を緩めるな!」


「奴に攻勢に転じさせるな」


「全員、神火炎術で焼き払え!」


「僕も大盤振る舞いだ!」




 スカリーに対してネクスト隊のレーザー、シオン戦艦のミサイルやワルキューレ隊の”グングニル”系の槍の補正により放たれた”神火炎術”である初級魔術”ファイアボール”、中級魔術”ファイアジャベリン”、上級魔術”フレイムスフィア”の弾幕が降り注ぐ。

 スカリーは形を湾曲させ、回避しようとするが流石にそれで回避するには限界があり、被弾を見せ、構成される体の金属装甲も蒸発していく。


 尤も、ナノマシンの加工により金属装甲の光反射率は高くダメージはそこまで多くはない。

 だが、実弾兵器で挑んでもナノマシンに取り込まれるだろう。

 今のところ、レーザー、熱量兵器を撃つと言う選択肢しかない。


 


「これでも喰らえ!」




 シドは右手の神光術式レーザーライフル”レンブラント”のエネルギーをチャージして解き放つ。

 この高出力なら敵の装甲でも大きくダメージを与えられると踏んだからだ。

 光線がスカリーの頭部目掛けて飛んでいく。

 だが、スカリーは頭部を湾曲させ、それを回避した。


 スカリーはまるで報復と言わんばかりに体の各部からレーザー砲を一斉に放つ、加えて、手の様な部分をまるで鞭のように撓らせ、攻撃を仕掛ける。

 その鞭の全長は1000mに迫り8本の鞭により、APの戦闘距離には容易に入れず、加えて、レーザーが一斉にかつ、まるで1つのレーザーが意志を持つように複雑に操作される。


 スカリーの装甲の反射率としなる鞭の物理的な空間制圧もあり、鞭がレーザーに干渉、スカリー本体に大した威力すら出さないものも見られる。

 飛んでくるミサイルも1000m圏内で撃墜され、近づいてレーザーを当てようとするもスカリーの乱雑な鞭に機体は損傷、脚や腕部は簡単に破損する。


 幸い、GG隊の総司令官であるアリシアの意向でコックピット周りの強化が為されているお陰で死傷者は出ず、部隊は一度後退させる事は出来た。

 ネクスト部隊はとにかく敵のレーザーを破壊に努めるが、いくら潰しても砲塔が新たに再生される。

 それにはシド、リリー、ブリュンヒルデ、オリジンも困り果てる。




「クッ!やはり、あのスカリーはこちらの攻撃を的確に脅威判定を行い、避けている様だな」


「しかも、あの物理領域に的確な対象補足能力に迎撃能力APだけではなくレーザーまで的確に撃墜してくるとは!」


「しかも、なんと言う耐熱性だ。こちらの神火炎術がまるで効いていない」


「火力の高いミサイル当てているはずなのに流石に全身鋼の筋肉だと効果薄いな……」




 スカリーはその巨体、故にAPの様に大きな運動性も機動力もない。

 だが、それを補って余りあるのが高度なAI知性とナノマシンによる自在な形状変化……そして、ナノマシンを介し無尽蔵に海中から資源を搾取しての無限再生……海面から出ているのはスカリーの本体の一角に過ぎない。

 大部分は海底に根を張る様に移動している。

 この海域の深さは最大1000m。

 スカリーの海面から出ている姿は大体50mだ。

 つまり、仮に50mの巨体を倒したとしても1000m分の資源ソースがある限り、何度でも復活する。




「厄介だな。レーザーライフルでは殆ど効果は望めない」


「かと言ってレーザーマシンガンの直撃を向こうは確実に避けてくる」




 シドとリリーが悩んでいるとブリュンヒルデとオリジンが打開策を口にする。




「こうなれば、極大魔術で一掃するか?」


「あるいはもう1発ソル撃ち込む?」




 ブリュンヒルデとオリジンがそれを決行しようと言わんばかりの態度だったのでリリーとシドがそれを制しする。




「おい、やめないか。戦術とは言え、核クラスの攻撃を安易に撃つんじゃない」


「そうだ。それは最終手段だ。流石にあのサイズを沈めるとなると後で重金属雲を多く形成するかも知れない。やめた方が良いな」





 そこにオリジンが補足する。




「でも、そうなると悪化覚悟で挑む事になるよ?どうするの?」




 オリジンのその言葉に2人は行き詰まりを感じ始めていた。

 倒しても倒しても敵は際限なく復活する。

 だが、このまま放置すれば、事態が悪化して、いずれこちらの全滅という焦燥感が彼等を駆り立てる。

 既に部隊の間でも後退を進言する者が散見されている。

 リリー達は気丈に振る舞い、戦線維持に努める。

 だが、彼らの不安は分かる。

 際限なく襲う敵に諦めと絶望感と焦りを抱え、士気が低下、暗い空気が立ち込めていた。


 オリジンの判断の決して間違っていない。

 部隊の被害を考えるなら、すぐにでも片付けた方が良いのだ。

 だが、そうなると世界のどこかで確実に重金属雲による健康被害が出る。

 それが万が一、自分達の民に及んだら本末転倒だ。

 だが、2人の中に死に対する恐怖感が焦燥感が更に現れる。

 いくら、ネクシレイターになったとは言え、サタンの影響を受けたスカリーも英雄兵器と呼べる存在だ。


 それに殺されれば自分達は肉体的にも精神的にも死ぬ。

 そんな焦りが心を支配しようとした。

 その時、リリーはある事を思い出す。

 どんな危機的な状況でも焦る事なく作戦を遂行し最後には勝利を捥ぎ取った女の事を……リリーは首を振る。




(いかんな。この程度で焦りを見せるなど、わたしは彼女よりはマシな状況にいるんだ。もう少し冷静でいないと……)




 リリーは一度、深く深呼吸をした。

 心の昂りを治め、沈める様に深く深く息を吐く。

 すると、リリーの頭がクリアになり、ある事に気づく。


 さっき、シドが頭部に向けてレーザーを放った時、シオンから反射されたレーザーが頭部に向かった時の話だ。

 その時のビジョンが頭に浮かぶ。

 その2つには1つの共通点があった。




「そもそもだ……そもそも、なんでアイツは頭部への攻撃を避ける?」




 リリーの呟きにシド、ブリュンヒルデが答える。




「それは自身の体を削られない様にしているのではないか?体内のナノマシンの数で出力が変わるからな」


「或いは最低限の回避をしているとかではないか?」




 だが、リリーにはある疑念があった。




「だとしてもだ。我々はマシンガンやライフルで色んな箇所を攻撃している。それこそ、大出力で攻撃もした。なのに、奴は頭部への攻撃を避けている。まるでそう言った防衛行動に取れないか?」




「言われてみればそうだよね」とオリジンも同意した。




「そもそもだ。ナノマシンとは無数にあれば、人工知能の様な思考が可能なのか?単純な破壊活動だけではなく、あんな複雑な動きが出来る奴にコンピューターが無いと考える方が可笑しいのではないか?」




 リリーの疑問点は3人の中で確かな光明を感じ、思わず「「「あぁ」」」と声が漏れる。

 言われてみれば、その通りなのだ。

 単純思考に基づき破壊活動するだけなら確かにコンピューターは要らないだろう。


 しかし、スカリーは確かに戦術を構築して対応している。

 そして、スカリーは頭部への被弾を避けている節がある。

 つまり、頭部にコンピューターに相当する何かがある。

 少なくとも、頭部には大出力レーザーを回避しなければ、直撃判定を受けると判断するだけの大きさの何かがあると4人は直感した。




「シオンアタッカー!」


「もう解析してる!」




 シドの意図を先に汲み取ったオリジンが既にシオンのセンサー類でスカリーの頭部を解析した。

 SWNの影響が強く全体的な解析が遅れていたが、候補を頭だけに絞った解析は5秒掛からず解析結果を出した。




「見つけた!座標転送!」




 オリジンがネクスト部隊、ワルキューレ隊全員に頭部にある球形の物体を表示した。


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