禁忌の王の最後

「各機!敵の頭部を狙え!」


「他に構うな!全力で頭部を潰せ!」


「最大火力で神火炎術だ!」




 シド、リリー、ブリュンヒルデ合図と共に頭部に向け、一斉攻撃が放たれた。




「解析結果を伝えるけど、敵は周囲環境やエネルギー伝達の最適化の為にある程度、生物に近い構造を取る。既に構築が完了した事でスカリーの頭脳はもう殆ど移動が出来ない。飽和的な攻撃を与えれば、いくら変形回避しても頭脳が動かない限り、その回避法では限度が必ずあるだから、迷わず叩き込むんだ!」




 加えて、オリジン。4人の鼓舞とも取れる言葉に感化され、ネクスト部隊達の中にあった不安を払拭され一気に士気が上がる。

 スカリーの頭部に向けて一斉に砲撃が行われた。

 スカリーも危険を察知したようで処理能力の殆どを射撃ではなく鞭による物理領域の形成に割り当て、レーザー、ミサイル、火炎を弾く。

 無数のレーザーとミサイル、火炎がスカリーの鞭により弾かれ、爆発していく。


 鞭にまで耐レーザーコーティングが施されている事で中々、ダメージが通らない。

 だが、ミサイルの爆風が確かにスカリーの鞭にダメージを入れ、金属結晶構造を変化させて施したコーティングを壊していく。

 その効果が徐々に累積していき、レーザーコーティングに斑が出来始めた。

 その斑を食い破るようにレーザーが鞭を破壊していき、物理領域圏を削り始めた。

 スカリーも再生を試みるが、再生速度よりもネクスト隊の攻勢の方が再生速度を上回る速度で破壊する。


 ネクスト隊の士気が上がった事で神術……強いてはWN粒子を介して、発射するレーザーにパイロット達の励起したZWNが供給され、レーザーの出力が自然と上がっていたのだ。

 敵の物理圏が減る度に味方の士気は上がり、レーザーの出力が加速度的に上がり、遂には鞭の再生前に鞭を食い破り、砲撃がスカリーの頭部を捕えた。


 後は一瞬の出来事だった。

 スカリーは頭部を変形して回避しようとするも回避能力を超える砲撃を前に頭部は無数に貫かれていく。

 幾ら頭の形を変えて頭脳を移動させても頭から殆ど動けないなら回避には限界があった。

 頭上に向かって複数のレーザーが飛んでいき、頭部は完全に破壊出来たと思われる。




「撃ち方やめ!効果を確認する」




 シドの合図で部隊は攻撃を中止した。

 頭部を失った敵を皆が見つめる。

 スカリーは頭部を失ってから微動だにしない。

 まるで巨大な山のように動かない。

 既に死んだように体から土塊の破片が海面に落ちる。

 欠けた頭部を確認するとピンク色の球形型の装置が4分の1ほど破損、火花を散らしている。


 どうやら、確実に頭部にダメージが通った事は確認できた。

 部隊の間で安堵を浮かべる者も現れて来た。

 だが、突如、スカリーが頭部から口が開き、雄叫びを挙げる。

 部隊は中に一気に緊迫感が漂う。




「各機!構えろ!」




 シドの言葉を触発され全員が気を引き締める。

 すると、次のアクションは彼らの耳を疑う者だった。




「ころ……して、やる……」




 音としては微かな声だが通信機器越しに確かに声が聞こえた。




「おい、まさか」


「あいつが喋ったのか!」




 部隊内で気が動転しそうになった。

 ただ、粘土と思った兵器が明確な敵意を現したのだ。




「こぉぉぉぉろぉぉぉぉしぃぃぃぃてぇぇぇぇぇぇやぁぁっっっるぅぅぅぅ!!!」




 敵は歴戦の兵士である彼らでも分かるほど鋭い殺意で胸部から巨大な砲塔を形成、レーザーを発射しようとした。




「不味い!散開!」




 シドは即座に指示を出す。

 どう見ても直撃しなくてもかなり危険そうなのが目に見えている。

 海面に直撃しても水蒸気爆発による2次被害も考えられる。

 胸部のレーザー砲の輝きが増していき、光が迸る。




「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」




 スカリーはまるで力を振り絞るような雄叫びを上げる。

 スカリーのエネルギー出力がまるで意志に呼応するように上がっていく。

 そして、APの光学回避システムが稼働する。




「くるか!」


「総員!クイック・ターボ!」




 リリーもブリュンヒルデも既に散開、防衛態勢に入っていた。

 回避行動も取っていたが、この出力で撃たれれば無事では済まない。

 リリー達はとにかく回避に専念する。


 だが、その瞬間、スカリーの頭部に在った制御機構から遠くから見える程の激しい火花が飛んだのが見えた。

 火花はあまりに大きく「ボン!」と音が聞こえる程の大きなものだった。

 音が聞こえたと思うと胸部のレーザーが静まり、沈黙した。

 スカリーから聞こえていた声も消え、口も開けたまま止まっている。




「止まったのか?」




 リリーの目にはその様に見えた。

 さっきまであったエネルギー反応は消失している。

 その時はスカリーの8本の触手がまるで土塊になったように海面に勢いよく落ち、海面を揺らした。

 すると、解析を終えたオリジンから通信が入る。




「どうやら、頭部の破損で定格出力系が壊れてたみたいだね。人工知能は生きていたみたいだからエネルギーを外部から多く求めた所為で頭脳に過電流が流れて回路がショートしたみたい」


「つまりはもう死んだのだな」



 

 シドは念の為に今の状況を確認する。




「そう、判断できるね」




 オリジンはあくまで客観的に答える。

 主観を交えれば「倒せた」と言えるが、あくまで主観だ。

 この後、すぐに起動する可能性もある。

 ネクスト隊の気持ちを緩めない程度の報告をする。

 だが、一部の者の間では僅かな疑問が残る。




「でも、一体アレはなんだったんだ?」


「まるで人間の様な殺気を出していたな」


「と言うよりは人間そのものだ」




 スカリーは確実に殺意を持って攻撃しようとしていた。

 ベテランの多いこの部隊の中では、あの気迫が確かに人間の者と捉えていた。




「今になっては関係ない事だけど……」




 その質問にオリジンが答える。




「あの頭脳からは英雄因子の反応があった。それも天空寺の反応に極めて近い因子だね」




 その言葉に一同は息を呑む。

 なんとなくだが、予測が付いていたからだ。




「あくまで仮説だけど、ユウキの研究の中には人間を兵器ユニットにする研究もあった。それも因果論的に撃墜し難い個体のユニット化だ。そして、悪魔は世界に真音土シリーズをばら撒いているから恐らく、量産化された個体の1体をユニット化したんだと思う。これならお手軽にかつ、それなりに品質の良い因子持ちをユニットに出来るからね。後は多少、因子を弄ってスカリー用に調整して僕達を巨悪と思い込むようにしておけば対GG隊用の兵器が完成するという訳だ」




 彼等の中では何となく、そんな気がしていた。

 ネクシレイターとなった彼等は本質的な事を直感的に理解出来てしまう。

 漠然としていたが、オリジンの言葉にどこか現実味を帯びた確信を得た。




「いずれにせよ、もうどうでも良い事だ。吉火から近くの転移ポータルからの一時帰投が出た。一度、補給と休息を取って」




 ネクストが幾ら並みのAP以上のスペックがあろうと今の戦いで多かれ少なかれ損傷した機体が多い。

 休める内に休むのも兵士の仕事だ。

 未来に何があるか分からないのだから……そして、現在シオン戦艦の周りには敵勢APとの交戦状態にあり直接戻る事は出来ない。

 この事を想定して戦域各部の島には戦闘中に天使達が設営した転移ポータル存在しており、そこを括れば、シオン戦艦の格納庫に入る事が出来る。




「了解した」


「一時帰投する」


「全員速やかに帰投するぞ」




 シド、リリー、ブリュンヒルデの3人の隊長の後に続く様にシオンとは少し離れた島に彼等は向かう。

 転移ポータルから周囲には敵勢体は確認されていないとポータル周りのレーダーのデータリンクで把握出来た。


 万が一、敵がポータルを通る事態になってもポータルのセキュリティ能力は高く、まず”過越”を受けていない者はこの転移ゲートを通れない仕組みになっている。

 退路は天使達の工作活動により既に確保されている。

 ネクスト隊は警戒を怠る事なく、転移ポータルに向かう。

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