襲撃者ディーンコルス

 アリシア達の鋭い感性が迫る来る敵の敵意を的確に捉えた。

 敵は今にも攻撃しようとしている事にすぐさま、気付いた。




「加速して!」




 アリシアは運転手に呼びかけた。

 アリシアの覇気に当てられた運転手は否応無しに「は、はい!」と頷き、車を加速させた。

 その直後、車の後方で何かが激突した様な音がした。




「な、なんだ!」


「ひいい!」




 運転手は驚いて車のブレーキを踏もうとした。

 アリシアは「そのまま走れ!」と覇気を交えながら運転手を促す。

 運転手は「は、はい!」と返答、脊髄反射的に再び加速した。

 敵にとって思いがけない減速もあり、2回目の攻撃も回避出来た。




「シン!運転交代して!」


「了解!」


「おじいちゃん!何か武器は!」


「この車に装備されている物と椅子の裏にロケットランチャーとかが入っている」




 アリシアはすぐさま座席を裏返し、そこにあったRPG7ロケットランチャーを取り出した。




「シン!」


「あぁ!」




 シンは車の天井を開けた。

 アリシアはRPG7ロケットランチャーを持ち、外に身を乗り出す。

 そこには流線型のラインとバイザーアイのカメラを持ったブラックカラーの機体がそこにいた。




「ネクシル……しかも、プロトタイプ2号機」

 



 アリシアが初めて搭乗したネクシルは試作3号機に当たる。

 シンの機体が1号機をベースにしているなら、目の前にいるのは使われていないはずの2号機だ。

 本来ならアクセル社の倉庫に管理されているはずの物がそこにあり、何故、こんな事をしているのか?と言う疑問があったが、その疑問に答えるように外部スピーカーから声が漏れてきた。




「よくも騙したな。このタヌキ女め!」


「ふぇ?まさか、ディーンさん?」




 なんと機体に乗っているのはアクセル社 会長のディーン・コルス、その人だ。

 だが、恐らく、本人が操縦しているとは思えない。

 アリシアが調べた限り、彼にはAPを動かすほどの体力はなく、挙動からして本人の挙動ではない。

 恐らく、複座式にした2号機に乗り込み、操縦は別の者が行っているのだろう。

 しかも、かなり血相を掻いたような声色を浮かべながら、こちらに猛進してくる。




「よくもワシの崇高な目標を汚したな!」


「ふぇ?」




 いきなり、なんの事を言っているのか分からず、素っ気なく「ふぇ?」と答える。

 崇高な目的とは一体何の事だろうか?と言う純粋な疑問が過る。




「お前!聞いた話ではエレバンの家系に与する者らしいな」


「えぇ、さっき聞きました」


「と言う事はNPに入った時から我々の情報をエレバンに流す為だったのだな!」


「いや、わたしを選んだのはTSのはずですが……」


「その結果すら貴様らエレバンが捏造したのだろう!通りでおかしいと思った!お前の様な小娘がTSに選ばれる筈がない。TSがエレバンに与する者を選ぶ筈がない!お前達はわたしのTSを奪うために画策したに違いない!」




 彼等はエレバン討伐と言う独善的正義とTSと言う絶対的アドバンテージと言う力に囚われている様だ。

 どうやら、その両面的な私欲でNPを作ったと言うのが、この会話から伺い知れた。それとディーンにはアリシアがエレバンの血族である事が既に発覚しているらしい。

 ディーンの本質的や貪欲を上手く利用して、このタイミングでアリシアを殺したい者となれば、これを仕向けた者は自然とある者に集約されるのは言うまでもない。

 エレバンにおけるアリシアとリカルドの関係を知っているとなれば、それは管理者ファザーなら十分あり得る話だ。

 しかも、感応波による人間への精神汚染と干渉の感覚があり、相手の操縦の手慣れさとファザーとの関係性を考えると第1特殊任務実行部隊もしくは第2特殊任務実行部隊の残党のパイロットが搭乗していると思われ、確定的だ。

 NPはエレバンと対抗する為の組織と聴いていたが、その理念は最早、形骸化しており、ディーンの貪欲を満たすだけの組織に変わって……否、元に戻っていたとも言えるだろう。




「剰え、お前は正義であるNPを壊滅された。これは貴様がエレバンに与する者である事の証!これは反逆だ!」


「いや、ただの成り行きだったんですけど……別に反逆の意志はありませんでした。それにわたしは今でもNPです。わたしはただ、契約に基づいて自分の作戦が行い易い様に組織改革しただけです……それに申し訳ないですが、あなたのやり方では戦乱を拡大するだけです。まずは一度話を……」


「えい!黙れ!減らず口を!こうなればリカルド・ラインアイ諸共葬ってくれる!」




 ディーンは殺意を剥き出しにする。

 どうやら、貪欲のまま自分の意見を欲深く語り、自分の聴きたい事以外の話を聴こうとしないようだ。

 シンとの会話を行っている時点でその毛色があったとギザスから報告を受けていたが、本当だったようだ。

 そんな人間とは話すだけ無駄だとアリシアは知っている。




「そうですか。わたしを殺そうと言う訳ですね。わたしだけならまだしもわたしの民も巻き込むなら容赦はしません。わたしは自衛行動を取らせてもらいます」


「ふん!ほざけ!生身で一体何が出来る!」




 ディーンは右手に装備されたSC70/223カービンアサルトライフルを車に向ける。

 アリシアはそれに合わせ、RPG7ロケットランチャーを1発発射、SC70/223カービンアサルトライフルに向けて放つ。

 弾頭はSC70/223カービンアサルトライフルに激突、爆発する。

 SC70/223カービンアサルトライフルの耐久性から歩兵用のロケットランチャーでは破壊出来ない。

 だが、ディーンのSC70/223カービンアサルトライフルは大きく仰け反った。

 これが2人操縦ではなく1人操縦なら、すぐに立て直せただろうが、管理している系統が違うのでどうしても相互間の意志に伝達性と互換性がない。

 ディーンの能力からして、確かに火器管制の制御は得意としているだろうが、相棒である操縦系担当と上手く連携が取れているとは言えず、そこに隙が生まれる。

 ディーンの突発的とも言えるSC70/223カービンアサルトライフルの抜きから、アリシアの思わぬ反撃による仰け反りで操縦系パイロットの対応が遅れ、ネクシルの機体が大きく揺らぎ、ネクシルは減速する。




「ぬおお!」


「シン!」


「これで全速力だ!」


「おじいちゃん!弾!」




 今の姿勢では弾頭を担いで撃つと落としてしまう。

 なので、自然とリカルドがアリシアに弾を渡す役割になっていた。




「イ、イエス!マム!」




 リカルドもアリシアの覇気に当てられ脊髄反射的に次の弾を渡す。

 アリシアはRPG7ロケットランチャーに弾を装填する。

 ディーン自身が素人あり、かつ操縦系のパイロットと連携がうまく行っていない事も相まって、近接適正の低めなSC70/223カービンアサルトライフルで正確に狙えないらしい。

 どうしても、車間距離が短めになり、交戦距離が短くなり易い森の中なのが起因している。

 至近でしか狙いを定められないならアサルトライフルよりハンドガンの方が良い。


 アサルトライフルは銃身が長い分、至近では狙いが付け難い。

 その辺り、躍起になってアサルトライフルで仕留めようとして、かなり頭に血が上っていると見える。

 それにディーンはもう1つ致命的な事をしている。


 武器で殺す事に拘っている点だ。

 頭に血が上っている所為なのか「ぶっ殺す」「皆殺し」と言う考えに固執して殺す=兵器に考えが偏っている。

 そんな事をしなくても車より、APの方が速いのだから、ひき逃げして転倒した車を踏み潰せば、楽に殺せる。


 兵士では無いディーンは兵士的なコスト意識が抜けている節がある。

 操縦系パイロット辺りは気づいているかも知れないが、ディーンが火器を使う事に拘り過ぎており、言う事を聴いていないのだろう。

 まるで銃を貰って喜ぶ子供のような醜さがディーンから溢れている。

 アリシアの鼻もその腐敗臭を感じていた。

 だが、いつまでのこの状況が続くとは限らない。

 あまり焦らすとディーンが不意にその事に気づく可能性もある。

 気づかれたらアリシア達の敗北は近い。


 アリシアとシンだけならともかく、リカルドと運転手を完全に守れるかと言われれば、完全とは言えない。

 要はディーンが気づく前に早急に決着をつける必要がある。




「おじいちゃん」


「なんだ?」


「わたしが発射したら透かさず、次の弾を送って。ここで決着をつける」




 アリシアは力強く真っ直ぐな瞳で眼前の敵を見据える。




「勝てるのか?」


「勝てますよ。その為にはおじいちゃんの協力も必要です」




 リカルドはただ一言「わかった」と答えた。

 だが、リカルドは気になり聞き返した。




「生きて帰れるのか?わたしも君も?」

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