NPの亡霊の最後
アリシアはその言葉に少し黙り込んで静かに目を閉じる。
リカルドは感じた。
アリシアは悩んでいると理解した。
つまり、確実な保証は出せないと言う事だと察した。
アリシアはリカルドがどう受け取ったのか知ってから知らずか目を開け、リカルドを見つめ、微笑みかけた。
「大丈夫。生きて帰れるよ」
そのまま力強く眼に勇気付けられる。
他人に不安すら感じさせないほど、澄んだ瞳がリカルドを離さない。
(わたしの孫はこんなに逞しかったのか……)
思わず、そう思ってしまうほどリカルドからも今のアリシアは大きく見えた。
アリシアはそれを告げると再び、凛々しい眼を敵に向ける。
ディーンネクシルは体勢を直し、SC70/223カービンアサルトライフルを構え、真っ直ぐとこちらに向かってくる。
SC70/223カービンアサルトライフルで狙い易い距離まで近づこうと速度を車と合わせながら、侵攻してくる。
SC70/223カービンアサルトライフルの構えは興奮で震えている様だった。
アリシアは向かってくるディーンネクシルに狙いを定める。
「いくよ!おじいちゃん!」
「あぁ!」
リカルドはロケット弾を持ちながら、決意を露わにする。
アリシアはディーンネクシルのメインカメラ目掛けて砲弾を撃ち込んだ。
「無駄だ!これで終わりだ!」
ディーンは攻撃を無視して車に迫る。
アリシアは御構い無しにRPG7ロケットランチャーを撃ちまくる。
それに合わせてリカルドも弾を補充していく。
ロケット弾の爆風と爆煙がメインカメラに何発も当たっていく。
それがディーンにとっては煩わしい煙幕の様になっていた。
「えい!小賢しい!だが、これで終わりだ!」
すると、ディーンはカメラ越しに微かにアリシアの口が動いたのが見えた。
ディーンは勢いで大して気には止めなかっただが、アリシアは呟いていた。
「これで終わりです」
最後のロケット弾が放たれ、真っ直ぐとメインカメラに向かいこの時、既に布石は完了していた。
だが、ディーンのその意図が全く分からず、無駄な足掻きをしていると嘲笑った。
ディーンは技師でもある。
メインカメラの耐久性なら歩兵用のロケットランチャーに大した効果は無いと数値的に判断していた。
だが、全く同じ場所にロケット弾を撃ち込んだ場合の計算はそこには無かった。
彼は気づいていなかった。
メインカメラのバイザーが既に貫通、ツインアイのレンズが露出している事に……レンズが耐久性の限界を迎えるとレンズが砕け、コックピットの映像が半分消えた。
「何!」
そして、半分視界が消えたところでアリシアが車から跳躍した。
カメラの死角に入る様に勢いよく跳躍しネクシルまで飛翔する。
アリシアは跳躍の反動を活かしながらコックピットブロックに回し蹴りを叩き込んだ。
その瞬間、莫大な膂力から放たれる蹴りの反動でコックピットが揺らされ、ネクシルは道路横に森に叩きつけられる。
ネクシルはあまりの衝撃にコックピットブロックが湾曲、息が止まった様にその場で止まる。
ディーンは気絶したと思われる。
リカルドは呆気に取られながら、その様子を眺めていた。
あまりに非現実的な事に驚きを隠せず、空いた口が塞がらない。
アリシアはそんな事お構いなくネクシルに近寄る。
すると、ネクシルが微かに軋みをあげながら、動き始める。
ディーンがすぐに目覚めた様だ。
ディーンは頭部の対人火器でアリシアに狙いを定め、発射する。
その瞬間、アリシアは視界から消えた。
すると、コックピットに衝撃が走る。
何が取り付いた音が聞こえ、コックピットが開閉される音が聞こえた。
ディーンは冷たい目線のアリシアを確認すると「この!化け物め!」と言って、金メッキされたコルトパイソンリボルバーハンドガンを乱射した。
しかし、アリシアは避けようとはしない。
ディーンの狙い方が下手くそで当たらないと分かっているからだ。
操縦系パイロットも衝撃からようやく、起き始め、すぐさまSIGP226ハンドガンを引き抜こうとした。
アリシアの頬にディーンのコルトパイソンの弾丸が掠めたところでアリシアは左手から何かを放り投げた。
それを投げ終えるとコックピットをすぐに閉じた。
ディーンはその物体を見て驚いた。
それはパイナップル型手榴弾MkⅩだった。
この密閉空間ではもはや逃れることは出来ないーーーそして、コックピット内で閃光が奔った。
アリシアがコックピットから去る時にコックピット内から爆音が鳴り響く。
「任務完了です」
アリシアは静かに停車された車に向かう。
リカルドは孫のあまりの怪異的な戦闘能力に驚きを隠せない。
素人が見ても分かるほど、アリシアの戦闘能力が卓越しているのがよく分かる。
アリシアは車に戻り、何事も無かったかのように席に座る。
「出して良いですよ」
そう言われてシンは運転席から戻り運転手が再びハンドルを握り、発進した。
車は静寂の森の中を進む。
後方でも煙を立てながら沈黙するネクシルがよく見え、既に警察には見知らぬ老人が錯乱した様にAPで暴れていたと言う内容で通報した。
後はGG隊の方で色々情報操作して誤魔化す事になるだろう。
リカルドは静寂の中ようやく口を開いた。
「随分、強いんだな。驚いたよ」
「GG隊は武力を暴力にしない。兵器の力を自分の力と自惚れない為に自分の兵器を分相応に使える様に鍛えています」
「部下にもそうさせているのか?」
「えぇ、部下であっても不相応であるなら兵器には乗せません」
「随分、厳しいんだな」
「兵器の力に振り回される様な者に戦う資格はありません。況して、兵器の力で正義を名乗るなど言語道断です」
「それをこうして実戦で活かしている辺り君は本当に行動力がある。恐ろしい限りだよ」
「わたしのこと……怖いです?」
アリシアは恐る恐る聞いた。
自分の怪異的な戦闘能力に恐怖を抱かれたのではないか不安になる。
かつての家族はそうやって、自分の元から離れていったのだ。
だが、リカルドはそんな素振りすら見せず、寧ろ、微笑んだ。
「まさか。君の力は暴力では無い。君自身がそれを証明したではないか……なら、わたしから言う事など何もないよ」
「ありがとう。おじいちゃん」
アリシアの胸が自然と軽くなり、笑みが零れる。
車はそのまま森を駆け抜けていく。
遠くではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。
リカルドにとっては中々、刺激的で命の危機があった出来事だった。
だが、リカルドは満足だった。
彼女は気づいていたのは知らないが、彼女は自分の事を「おじいちゃん」と呼んでくれた。
それだけで今は十分過ぎる。
その後、警察に呼び出され、事情聴取をされたが用意したシナリオを元に証言した。
真実を話したところで回し蹴りでAPを沈めたなど誰も信じないだろう。
幸か不幸かカメラが半分やられた視界に入っていた回し蹴りの瞬間は映っていない。
APに記録されたブラックボックスのデータから加害者はディーンであり、アリシア達の正当防衛が立証された。
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